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Re: 日替わり執事【第1話更新】 ( No.6 )
日時: 2011/08/19 16:43
名前: 棋理 ◆U9Gr/x.8rg (ID: aicm.51Q)


第2話『お嬢様はつらいよ』

「はぁ……」

家までの道のりが異様に長く感じる。黒塗りの大きな送迎用の車の中で、私は溜息を繰り返す。運転手さんは気を遣って、特に話しかけてはこない。そのことに妙に安堵感が募る。お父様は運転手さんだけは置いていったみたいだった。それもそれでどうかと思うのだが、この運転手さんは長年花屋敷家につとめているベテランさんで、お父様も信頼している。……だったら、この人だけで良いじゃん。なんで執事が5人も来るのよ。

「お嬢様、屋敷に着きましたよ」
「へ?……あ、えぇ、分かったわ」

いつの間にか家に着いていたらしい。私は車から降りると、とても大きい屋敷の中へと入っていった。
 私は花屋敷財閥のお嬢様だ。両親のすすめでアメリカの大学を飛び級で卒業した。けれど、そんな日常が煩わしく思う。普通の人から見れば普通ではない日常。私から見れば普通の日常。普通の人が生活している日常。私から見れば普通の人が生活しているのは非日常。ただそれだけのことなのに、煩わしい。

「あー、やだやだ。早く宿題やろ」
「お帰りなさいませ、お嬢様。すでにアフターヌーンティーのご用意が出来ています」
「ん、分かったわ」
「っつーか俺がわざわざ用意してやったんだから、感謝しろよ?」
「はいはい、分かったわよ————」

ちょっと待て、今さりげに返事をしていたけどちょっと待て。私、誰と話してる?家の中に足を踏み入れた瞬間、なんか人の気配を感じたのだけれど……。私の事を「お嬢様」と呼ぶのは家の者だけ。けれど今屋敷には使用人は一人もいない。ということは———。

「…………あ、あなたたちが執事協会から来た執事?」
「はい、そうでございます」

玄関で出迎えてくれたのは、見た目がとても麗しい5人の執事だった。眼鏡をかけた執事さんに優しそうな風貌の執事さん、見るからに妖しそうな執事さん。そして一番気になったのは私と同い年ぐらいの執事さんと、ショタの執事さん。

(あ、あれって……まさか……)

その中で眼鏡をかけた執事が一歩前に出る。

「私どもは執事協会から派遣された執事です。詳しいことは奥様から聞いていらっしゃいますか?」
「……き、聞いてないわ」
「さようでございますか。では屋敷の中で説明いたします。光、お嬢様を中に」
「分かりました。……さ、お嬢様。どうぞ」
「……え、えぇ」

とても優しそうな風貌の青年が、私の手を取ってエスコートする。なにこれ、いったいなんの乙ゲーよ。もしくは罰ゲーム?そんなことを思っていると、執事さんが立ち止まった。

「お嬢様が旦那様のお見送りに行っている間、少し部屋を片付けさせていただきました」
「そ、そう……。まぁ見られて困るようなものがないから、別にかまわないけど」
「さようですか。それは安心致しました」

けれど17歳の年頃の女の子に無断で入ると言うことが、まず遺憾であるけれど……。でもこの執事さんだったら良いかな、って思えてくる。見るからに優しそうだし、穏やかだし。そういえばさっき5人の執事さんに、見るからに妖しそうな人も居たっけ。個性が強うそうな執事さん達で、正直とても疲れそうだった。

「お嬢様、リビングにアフターヌーンティーのご用意ができています」
「ああ、さっき聞いたわ」
「そこで私たち執事のことをお話ししたいと思っています」
「そ、そうよね。私ってばあなたたちのことを何も知らないのよね……」

これもお父様とお母様のせいだ。詳細を説明してくれたって良いのに、それが面倒だからといって全て押しつけるだなんて……。私は生まれてから17年もの間この屋敷住んでいるというのに、全てを使用人さん達に任せるというのは慣れない。お母様は生まれてからずっとこの環境で育ってきたせいか、当たり前のようにしている。お父様は別の財閥から婿養子で入ってきたけれど、生まれてきてからの環境とほとんど大差なし。だから本当は……執事とかいない普通の生活をしてみたかった、というのが本音だったりする。けれどそれを言ったところで私を取り巻く環境が変わるわけでもないのだ。