コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: ガラス玉に溶けた純情 ( No.2 )
日時: 2011/08/20 14:47
名前: うめこ ◆GmgU93SCyE (ID: VmcrDO2v)

 蝉が鳴いていた。コップの中で揺れる氷がカラカラと乾いた音を立てる。
 麦わら帽子をかぶった少年が暑さに顔を赤くして、走り回っているのが窓から見える。夏だなーなんて呑気に言っていられるのは、冷房の効いた図書館の空気が心地良かったからだ。

 夏休みも終わりに近付いていた。八月も中旬を過ぎ、蝉もアブラゼミやミンミンゼミよりもヒグラシの方が数を増してきた。
 高校生である僕は普通に夏休みの課題をたんまり出され、そしてそれがなかなか終わらず苦労しているのだった。環境を変えたら勉強も捗るかもしれない! と、図書館に来てみたは良いが、快適な温度と静けさに今度は睡魔に悩まされるのだった。

「渉! 何やってるのよ! 目を覚ましなさい!」
 甲高い声にハッとして目を覚ます。
「本当馬鹿ね。だからあんたはパッとしない成績なのよ」
 そう言って僕を睨むのは江田 真里奈。家の近所に住んでいる、所謂幼馴染だ。
「図書館ではお静かに、って習わなかったのか? そんなキーキー言われたら逆にやる気が失せるだろ」
 そう睨み返すと、真里奈はさらに眉をつりあげ「何であんたはいつも屁理屈ばかり言うのよ!」と舌打ちをした。まるで母親みたいな言い方に、僕はため息をついた。

 本当は一人で図書館に来るつもりだったのだ。誰か、他の人間がいると気が散ってしまいそうだったから。そう思って家を出た僕の目の前には何故か真里奈が立っていた。
『ねぇ渉! ゲームしましょ……ってどこかに行くの?』
 真里奈は色素の薄く、肩辺りまで伸ばした髪を風に揺らしながら首を傾げる。
『……図書館だよ。家だと課題に集中出来ないから』
 そう言ってその場を去ろうとした、はずだったが。
『待って! あたしも行く!』
 無駄に顔だけは整ってる笑顔でそう言われて、何故か僕は断ることが出来なかったのだった。


「何であんた因数分解から間違ってるの? 中学からやり直した方が良いんじゃない?」
 僕の間違いだらけのワークをみて、眉を寄せながら呟く真里奈。
「数学は苦手なんだよ。知ってるだろ?」
「数学に限ったことじゃないわ。渉はいつも馬鹿みたいな間違いばかりしてるわよ。英語だったらスペルミス、国語だったら漢字間違い。それだけで確実に十点は落としてるわね」
 何で僕のテストの間違いにそんなに詳しいんだ……とは思ったがあえて突っ込まず、問題を解くことに集中する。何故か高校まで一緒のところを受験してしまったんだよな……僕たち。そう心の中でため息をつく。真里奈もまだ全ての課題を終わらせてはいないようで、原稿用紙と睨めっこしている。おそらく読書感想文と戦っているのだろう。どうせ問題も解けないし、と真里奈のことをチラッと見る。
 眉下で切り揃えられた前髪を左手で弄りながら、原稿用紙をひたすら睨んでいる。右手ではシャーペンをカツカツとリズムを刻みながら、紙に打ち付けていた。こいつ本当に外に出ているのか? と尋ねたくなる程度には肌が白い。

「お前の肌って大福みたいだな」
 そう言うと、真里奈はポカンと口を開け、そして「馬鹿にしてんの?」と僕を睨んだ。
「褒めたつもりだったんだけど」
「今の言葉のどこに褒められてる要素があったのよ。本当にデリカシーが無いのね! だからあんたには彼女がいないのよ!」
 真里奈は再び原稿用紙を睨み出す。
「真里奈も彼氏がいないじゃないか」
 そう反論すると、
「オーケーしていないだけ。告白ならされるわよ」
「何でオーケーしないんだ?」
 再び真里奈がポカンと口を開けて僕を見つめる。そして、
「本当にあんたって鈍感よね! 馬鹿みたい!」
 そう言ってそっぽを向く。僕は理由もわからず首を傾げた。

/大好きのサイン