コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: ゴースト!! ( No.5 )
日時: 2011/09/07 11:28
名前: るきみん (ID: JryR3G2V)

         その2

「なあ…もう飽きたんだが、帰ってもいいか?」
「「だめ」」
ダメ元で言ってみた意見は、あっけなく却下されてしまった。
もう森に入ってから、かなりの時間がたっている。だが、男子生徒がいる訳もなく、ただ無駄に時間を浪費しているだけである。
「でもさ、もう十分じゃないか? もう結構奥まで来ちゃったぞ。このままだと帰れなくなるかも…」
「「うるさい」」
「……」
なんでこんなときだけ妙にシンクロしてるんだよ。もういい加減にしてほしい。地面からは膝くらいまで伸びる草があるし、蚊がいっぱい飛んでるし。これ以上探してもなんの情報も得られないだろう。とにかく、今は熱い風呂に入りたい。
「な、なあ…」
帰ろう、と言いかけた瞬間、ある異変に気がついた。森が…動いていたのだ。いや、動いているという表現は少し違う。正しくは、風もないのに木々がざわめき、森が動いているような錯角になるのだ。
「「なにか用…」」
俺の言葉が途切れたことを不思議に思った二人が、足を止めて振り返る。そして、二人も森の異変に気がつく。
「なんか、この森おかしくないか?」
「…確かに、風もないのに揺れるのはおかしいな…」
「……」
拓矢は眉をひそめて全く意味がわからないという顔をしながら答える。こいつのようなバカには最初から何も望んでいない。委員長のほうは、俯きながら黙っている。その厳しい表情は、いつも教室でバカみたいにはしゃいでいる人間と同一人物だとは到底思えない。
「…ちょっと、ヤバいかもしんない。今すぐここを出よう」
委員長は厳しい表情を崩さないまま、つぶやく。そこには有無を言わせない強い意志があった。
「なんでだ?」
こいつ…今有無を言わさないって言ったばっかじゃねーか。K.Yすぎる。
「今説明している時間はない。真っ直ぐ前を見て、絶対に振り返らないでね」
今度こそ、拓矢は何も言い返せない。そりゃまあ、あんな顔の委員長に睨まれたらもう何も言い返せないのは当たり前だが。
「それじゃ、私が掛け声を出すから、それを合図に走り出して。3、2、1…走れ!」
掛け声とともに、思い切り走り出す。本気で走ったら委員長が置いていかれてしまうなんてことを考えていたら、全然そんなことはなく、逆に俺が置いていかれてしまうぐらい速かった。超以外。
相変わらず森はザワザワと蠢いている。心なしか、先ほどよりも揺れが大きくなっている気がする…急がなければ。
俺は振り返りたい衝動を必死で堪えながら、全力で走る。息が上がっても、足が震えても、走り続ける。前を走る二人も、かなり辛そうに見える。
「急いで…急いで!」
委員長は息を荒げながら叫ぶ。言われなくてもそのつもりだ。
「!?」
急に、足元の草が絡まり、俺は壮大な音をたてて転んだ。
「瑞樹!?」
「振り向かないで!」
振り返ろうとする拓矢を、委員長が止める。ギリギリで踏み止まった拓矢は、こちらを向かないまま叫ぶ。
「早く立て! 急げ!」
「お、おう!」
俺は、立ち上がろうと腕に力をこめる。しかし、立ち上がれない。草が、体に絡みついているのだ。必死にそれを振り払おうとしても、更に絡み付いてくる。どんどん、俺の体が地面に埋まっていく…
「おい!まだか!?」
いつまで経っても立ち上がらない俺に、拓矢は焦ったようにせかす。草はどんどん絡みつく。もうかなり草に埋もれている。逃げようとすると更に絡みつく。つまり、絶体絶命。
「く、草が、絡まって…」
「力を抜いて、強く願って。退けって」
状況を判断した委員長が、助け舟を出してくれる。俺は、委員長に言われた通りに体の力を抜く。そして、強く願う。HA☆NA☆SE☆と…
すると、さっきまで強く、痛いほどに食い込んでいた草が、ほどけていく。しばらくすると、普通の草のようになってしまう。
「…よし」
もう動いても大丈夫らしい。草はただの草に戻った。もう俺の敵ではな〜い!
「…あれ?」
走り出そうとすると、俺の視界の隅っこに、光る物が見えた。振り返らないようにその光る物に近づく。そして、しゃがみ込んでそれを拾う。
それは、大きな、俺の手のひらと同じぐらいの、鈴だった。こんな夜でも、強く光を放っていて、とても綺麗だ。
俺は少し悩んでからその鈴をポケットに入れる。そして、立ち上がり、委員長と拓矢のほうを向く。
「お待たせ! 急ごう!」
「おせーよバカ!」
二人は俺の声と共に走り出す。二人とも体力が回復していたらしく、かなりのスピードだ。俺は二人についていきながら、明日は筋肉痛だなぁ、なんてことを考えていた。

               ☆

夢中で走っていると、いつの間にか森の入り口に戻っていた。振り返ると、そこには何の変哲のない森がある。さっきまではざわついていたのだが、今はシンと静まり返っている。
「なんとか、出られたわね」
「疲れた…」
「もう、こんなことは御免だな」
俺と拓矢は、その場に座り込む。そして、肺に空気をいっぱいに送り込む。生きてるってすばらしい。
「なあ委員長。なんで委員長はあのとき逃げろって言ったんだ?」
なにやら考え事をしている委員長に、俺は質問する。確かに、あそこはいやな感じだったが、いきなり後ろを向かずに走れなどと言うのはおかしい気がする。なんとなくだが、委員長はそういうことに詳しいのか、ただのビビリなのか。
「え…それは、まあ…そういうこと好きだから、調べてたりしてたの。うん、そう。」
「…そうか」
なんだか濁されてしまったような気もするが、委員長が言いたくないのなら仕方ない。これ以上の詮索は無粋だろう。
「そんなことよりさ、早く帰ろうぜ、こんな所に長く居たくねえ」
「…それもそうだね。さあ、帰ろう。」
委員長がそう締めくくり、今日のところは解散となった。行方不明の少年は見つからないし、変な超常現象的なのもに遭うし。まさに踏んだり蹴ったりだ。
「…ん?」
ポケットになにかが入っている感じがして、探ってみる。すると、出てきたのはあの大きい鈴だった。
美しく、とても綺麗で、光が少ない夜でも輝く不思議な鈴。同時に、とても、とても妖しい鈴。俺はその鈴を、少し揺らしてみる。すると、とても綺麗な音が鳴る。それだけで、今日の疲れが一気に吹き飛びそうだ。
…まあ、今日はこれでいいか。事件のことは何も分からなかったけど、この鈴を拾うことができただけで、今日のところは満足だ。これで拓矢も懲りただろうし、もうあの森に行くこともないだろう。明日からは、こんなことには無縁の日々が送れることを望みたい。
そんなことを考えながら、俺はもう一度鈴を鳴らした。