コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

1 ( No.1 )
日時: 2013/11/26 00:39
名前: すずか (ID: tkV8RM03)

「雄人」
「はい、いっ!?」

 西日が差して、それに反射した埃が光り輝く古びた店内。商品の無駄にでっかい鍋を磨いている最中、自分を呼ぶ声がしたので振り向くと、高速で振り下ろされたフライ返しと頭がこんにちはした。脳天にモロ食らいした。

「いきなり何してるんですか店長!?アホですか貴方!?」
「……真剣白刃取りを実写で再現しようと思ったが、失敗した」
「やるにしても事前に申告しないと再現はほぼ不可能ですよ!?」
「フライ返しがまずかったのか」
「明らかに問題はそこじゃないのでその包丁はしまってください」
「そうか……で、出刃なら?」
「何で出刃ならいけるかもっていう希望を持ってるんですか!?」

 フライ返しを食らった俺、高砂雄人は山加商店街の一角で絶賛営業中の、仲矢金物堂というところでバイトをしている。昔懐かしのさびれ気味の店内だけど、俺をバイトとして雇えるぐらいには繁盛しているらしい。雇い主は、さっき8割がた本気で俺を殺ろうとしていた彼、名前は仲矢新という。店長の説明をしろって言われたら超簡単、イケメン、鬼のようなイケメン。イケメンというよりは端正っていう方がそれっぽいかもしれないが、どっちしろ顔立ちの整い具合は半端じゃないのでもうどっちでもいい。今時珍しい真っ黒の髪に切れ長の黒目、すっと通った鼻筋に程よい体つきの高身長と、なんとまあ何拍子揃っているのかと。基本中年さんが多い商店街店舗の中で1人ぽつねんと若い男(しかもイケメン)が店を切り盛りしているんだから、おばちゃん達からすればひたすら目の保養になるんだろう。

「新くーん」
「あ、いらっしゃいませ」

 そのおばちゃん達の一人、確か西田さんだった気がする人が顔をのぞかせた。ん?待て、北田さんだったっけ。……南田さんのような気もしてきた、はて……いや、そこはどうでもいいんだ。

「包丁が刃こぼれしちゃってねー、もう古いからそろそろ新しいの買おうかなって思ってるのよ」
「あ、じゃあこれで」
「俺を刺し殺そうとした包丁を生身でお客さんに差し出さないでください。ぞんざいにも程があります店長」

 店長はごそごそと手に持った包丁を箱にしまう。そのままその箱を渡そうとする。

「じゃあこれで」
「何でその包丁にやたらこだわっているんですか」

 確かに店長は途轍もないイケメンだ。おまけに物静かでクールな雰囲気が漂ってる人なんだけど、それは黙って座っていた時だけであって、動き出すともうダメ。驚異的な変人であり、世間から酷くズレている。しかも無表情のままその行動をするから、いつ何が起こるか全く予測不能なことがますます怖い。

「新くんがこだわってるならそれにするわ」

 西田さん(仮)はカラカラと笑いながらその箱を受け取る。多分この人は店長が勧めるなら何でもそう言って受けとると思う。「包丁です」って言われてペーパーナイフ渡されたらそりゃ分からんけどさ。

「いくらなの?」
「20万です」
「やっぱり他のに変えて頂戴」
「はい」

 そんな高級包丁で俺を刺し殺そうとしてたのかこの人は!?
 
 結局通り一遍のよくある包丁を西田さん(仮)は購入して、満足して帰って行った。きっとあの人は包丁を物色するのがメインじゃなくて、店長の顔を見に来るのがメインだったと思う。
 まあ、わけのわからない店長だけど、時給は良いし楽だし結構仕事には満足してる。変な人だけど決して悪い人ではないし。

「ところで店長」
「ん?」
「さっきいらっしゃったお客さんの名前って何でしたっけ」
「東田さんだが」

 全部違ってたわ。