コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

橘視点 ( No.1 )
日時: 2012/04/22 20:52
名前: 紫亜 ◆N4lxHV1tS2 (ID: CyM14wEi)

突然だけど、 僕は部活が嫌いだ。 特に運動部。 皆で汗を流して、 苦楽を共にしながら最後には笑うなんて、 僕には出来ない。 僕はいつだって、 やりたいことをしたい。
べ、 別に運動が苦手とか、 そういうのじゃないよ?
僕は苦しみや悲しみが嫌いだ。 まあ、 それは人間なのだから、 当たり前なんだろう。 いや、 僕が言いたいのはそうじゃなくて。
僕は嘘が嫌いだ。
自分に対する嘘なんて、 何よりも嫌いだ。
周りに迷惑をかけるような嘘も、 勿論好きなはずがない。
部活に所属する際に、 そういった「偽り」を全てかなぐり捨てて活動に参加している人に、 これまでで一人でも巡り合えていたら、 僕はこんな考えをきっと持っていなかっただろう。
自分はその部活ごとそれが好きなんだ、 そう自信を持って言える、 嘘偽りの全くない人に出会えていれば。
だけど中学のときに運動部に所属していた人たちは何だ。
いつもいつも「部活面倒くさい」と言いながらサボりまくっているくせに、 その競技は好きだと言う。
その矛盾を指摘すると、 今度は 「自分が嫌いなのは、 競技ではなく部活だ」 と意味の分からないことを返してくる。 その時、相手の顔は決まって 「当然だろ?」 とでも言いたそうなのだというのに僕は気付いている。

所詮はそんなものなんだ、 “部活”というのは。
いつだってそう。 僕達を縛り付けているだけ。
生徒が充実した学校生活を送れるように、 なんて立派な考えを持った学校が、 この世界にどれだけあるのだろうか。 僕はそんな方針を持ち、 生徒達もそれで満足している、 とても素敵で楽しい学校なんてものがもしあるのなら、 この目で見てみたい。

なあ、 皆だってそうなんだろう?
だからさ、 この制度やめない?


「……………………」

溜息を一つ、 小さくついてみた。
それは誰に届くでもなく、 静かに桜の雨と共にどこかへと飛んでいった。

僕は今日、 この学校に入学した。
勿論僕の理想とする学校なんて見つかるはずもなく、 どこにでもある普通の学校を選んでいる自分。
さっきまであんなにも偉そうに語っていたのに、 自分だって適当な学校で適当に過ごそうとしている。
笑いたいなら笑ってよ。 その方が逆に楽になれる。
話を戻そう。
僕はこの学校を、 偏差値と行き易さで選んだ。
中身なんて見ていない。 普通の生活が出来れば、 もうそれで何も文句は言わないと、 僕は中学を卒業すると同時に誓ったんだ。 もう多くは望むまい。 部活なんて、 入らなければいいんだ。
……と、 いう、 そんな甘い考えで学校選びなんてしちゃいけないな。
この学校、 部活に絶対所属しなきゃいけないみたいだ。




僕は先ほど終わったばかりの入学式のことを少しずつ思い出しながら、 配布された生徒手帳をパラパラと捲っていた。
先生が何か言おうとしているのだろうが、 今は生徒手帳に皆して意識が集中している。 待ってくれているのだろうか。 なかなか優しい。 だが気を回しすぎじゃないか。 あの頭の禿げは、 気苦労のせいなのだろうか。
僕は上目で先生の姿を観察して、 少しの敬意を払おうと頬杖をついている左手を下ろした。
生徒手帳には、 色々なことが書いてある。
僕の隣に座っている男子生徒は、 どうやら何か面白いものでも見つけたのだろう。
その隣にいる男子生徒に興奮しながら見せに行った。 その男子生徒も、 彼と同じく興奮しながら何かペンを走らせ始めた。
それを無表情で見ていたら、 二人から謝られてしまった。 怒っているようにでも見えたのだろうか。
それにしても、 どうして生徒手帳に書いてあることはどうでもいいことばかりなんだろう。
生徒証明書と、 校章、 校歌。 それから校則。 これらがあれば充分なのではと思うのは、 きっと僕だけじゃない。
この学校の歴史、 この学校の校歌の成り立ち、 校章の成り立ち————
——なんともどうでもいいことばかりが並んだこの最初の数ページを捲り続けてようやく重要な 「校則」 と書かれたページを見つけた。
とは言っても、 おそらくあまり大それたことは書いていないだろう。
女子のスカートの丈とか、 頭髪の制限、 その他諸々。
節度を弁えていれば、 全てどうにかなる事柄が書いてあるのがほとんどだ。
当然のことなのだろうけど。

軽くだが一通り目を通し終えて、 僕は再び頬杖をついた。
これに僕が必ず左手を用いるのは、 癖なのか右利き故なのか。

先生が生徒手帳を余所に置いて頬杖をつき、 退屈そうにしている僕の姿を確認すると、 先ほどまで座っていた足の短い椅子から腰をあげ、 教卓に手をついた。
どこの学校でも普通に見かける、 普通の光景だ。
だがそのどこにでも居るような普通の先生が放った言葉は、 僕にとって果てしなく厳しい言葉だった。

「皆さんももう知っているでしょうが、 この学校の生徒は部活に強制所属・強制参加です」

“強制”
この言葉を、 僕はどれだけ忌み嫌ってきただろうか。
強制、 この言葉を国語辞典で引くと、 このように登場する。

【強制】
権力や威力によって、 その人の意思にかかわりなく、 ある事を無理にさせること。

ほら、 縛りつけた。
この学校は、 僕にとって全くもって悪い条件らしい。
しかも学校見学のときに見たが、 この学校のほとんどの部活は 「青春一筋」 を掲げている。
そんな熱い考えを持った教師ばかりのいるこの学校を、 何故僕はあの時許容してしまったのだろう。

あの時、 あの時点で、 やめておけばよかった。

僕は帰りの電車に揺られながら、 また一人で生徒手帳の 「校則」 のページを読み直していた。
何度見ても、 やはり消えることはない。

[第17条  生徒は必ず部活に所属、 参加すべし]

電車の窓から見える、 正午の光景。
まだ明るいというのに、 全てがセピア色に見えた。