コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

西條視点 ( No.11 )
日時: 2012/04/22 20:54
名前: 紫亜 ◆N4lxHV1tS2 (ID: CyM14wEi)

「絶対入ってくれよな!」

先輩の言葉に笑顔を向けながら軽く返事をし、 俺は体育館を後にした。 先ほどまで練習に混ざらせてもらっていたバスケ部は、 とても活気がある。 それに加え、 部員や顧問も仲が良さそうだった。
だが、 圧倒的に集中力が無かった。

「おい、 女子が部活見に来てるぞ!」
「可愛いなー、 手でも振っちゃおうかなー」

俺が練習に加わってから五分後にはもう、 その話題でいっぱいだった。 恐らく今日男子バスケ部に見学に来ていた大勢の女の子達は、 ほとんどが俺のギャラリーだ。
その証拠に、 俺が体育館を離れたと同時にこちらに向き直り、 遠くから小さく奇声を発しながら見つめている。 顔を赤らめながら数人ずつの纏まりで固まって、 しばらくそれを続けているのが大多数だ。 その他に、 一部だが俺の後をコソコソと追いかけている。 いや、 コソコソしていると思い込みながらと言うのが正しいだろうか。 正確には甲高い声を聞こえないよう小さく、 だがはっきりと発しながら少し離れたところで追いかけている。 最初は必死に物陰を探しながら一生懸命についてきていたが、 俺が後ろを一切振り返らないことをいいことに、 段々探すのをやめて堂々と歩き出した。 あとの数名はそのまま見学か、 自分も何かの部活を探すかの行動に出ている。
多分、 だが、 これは自惚れではないだろう。
この現象は、 小学五・六年と中学三年のときにはもう既に起こっていたことなのだから。
中学でのその二年間の空白は、 また後日。

俺の髪は明るい。 というか、 綺麗な金髪だ。
これはイギリス人の母から譲り受けたもので、 俺は所謂ハーフというものに当たる。
そして俺はその金髪によく似合う顔立ちをしているらしく、 それによってより一層美しく見えるらしい。 これは父の友人達からの言葉だ。
俺の両親は、 二人ともとても美しい。 これは親贔屓というものではなく、 一般論だ。
父は元大人気モデル、 母はイギリスで大活躍し、 今もなお愛されている元女優。 なんでも、 お互いの一目惚れらしい。
二人は世間中から美男美女夫婦として、 入籍当時から持て囃されていたと聞く。 その時の二人が載っている新聞の記事を見せてもらったこともあるが、 それには本当に驚いた。 確かに二人とも、 見事なまでに美形だった。
時が経ち、 薄汚れてしまってはいるが、 そんなものは一切忘れてしまうほどに見入ってしまう。 そんな美しさだ。
そして、 俺もその美形を受け継いだのである。

金髪だから格好いい、 という、 日本人ならではの先入観のせいもあるのかもしれないが。
とにかく周りのミーハーさのお陰で、 俺は一見するとただのナルシストへと成り下がってしまったのである。

校門へと近付いてきたところで、 今までいたギャラリーも大分減った。 いや、 残るは後ろを追ってくる三人のみと言った方が正しいだろう。
この三人と俺は、 まるで話したことがない。 存在くらいなら知っているが。
というのもこの三人は先輩達も少し恐れているという噂がある。 入学して三日目でそんな話が広まるとは、 何をしたんだろうか。 と、 噂を耳にした当初は思っていた。
だがこの三人、 一度見たときに一瞬で分かった。 確かに強そうだ。 強そうなギャルだ。 それこそ、 喧嘩でも吹っかけたら彼氏にでも頼んでそういう集団を連れてきそうな感じの。
それも初めて見たときには、 普通に席について新たに出来た友達と話していた俺を狙って睨みつけていたらしい。 怖いからあまりジロジロとは見なかったが、 違うところから見ていた友人曰く確実に俺を狙っていたと。 確かに何度も目は合ったし、 目が合うと作り物の笑顔でにっこりと微笑まれた。
彼女らには猛獣のオーラが立ち込めていて、 正直怖い。


「ねえねえ、 声かける? かけちゃう?」
「えー、 でもー! やっぱり恥ずかしいよー!」
「でもチャンスじゃない!? 今周りうちらしかいないよ!」

後ろから聞こえてきた声は次第に大きくなってくる。 恐らく、 全て聞かせているのだろう。
かけるならかけるで、 早くしたらいいのに。 俺はもうすぐ校門から出て行くぞ。

「ねえ! 西條くん!」

ついに来たか、 猛獣三人組。 勝手に命名してしまったが、 その豹柄のカチューシャやライオンを連想させるキーホルダーがいかにもって感じだし、 いいよな別に。
俺は話しかけてきたうちの一番強そうな、 真ん中に立っている子に精一杯の笑顔を向けて返事した。

「なに? えっと…………」
「あっ! あたし茜っていうの! “あかね” って呼んでね?」

別に呼ぶ気はない。 一切。

「あかね、 ちゃんね。 覚えておくよ。 で、 僕に何か用?」

覚えられるかな……。 あれ、 何だっけ、 名前。
あかり、 だっけ。 あいこ、 だっけ。
まあいいや。

「えっとね、 今ぁ、 カノジョとかいたりするのかなぁ〜って! この子が!」
「えっ! ちょっとぉ〜! やめてよね〜!」
「彼女かぁ……いないけど、 君達みたいな可愛い子が彼女だと、 嬉しいかなあ」

ちょっと待って、 頭痛くなってきた。 この三人香水臭いな。 何狙ってるんだろう、 一体。
ところで、 さっきから俺の口調や一人称、 言っていることと考えていることの違いなど、 多くの矛盾が目立ったと思う。 さっきから表に出しているのは、 全て俺の建前だ。 そしてこの態度が建前だと気付いた人間は、 今までで誰一人として居ない。
それもそのはず。 最初のうちは勿論演じていたが、 最近では演じているのではなく、 自然と心も体もシフトチェンジしてしまうのだ。 歯の浮くようなクサイ台詞も、 綺麗にあがる口角や下がる目尻も。 全てに置いて、 今では全て自然体として出来る。 勿論、 本物の笑顔かと言うとNOだが。
所詮は、 誰もが俺の顔にしか目が行っていないということだ。
この “建前” の顔、 いわばもう一人の俺を作ったのは、 そっちだというのに。



猛獣に適当な返事を返しながら、 俺は猛獣の群れから脱出することに成功した。 無駄に引き下がるものだから、 折角早めに帰れそうだったのにもう夕暮れ時だ。
紅、 蒼のグラデーションが美しい、 この半田舎の空。 首都圏の喧騒とはまた違った騒がしさのあるこの地で、 俺は “俺” のことを分かってくれる人に出会えるだろうか。

中学入学前から抱いていた小さな夢を思いながら、 俺はようやく校門から出た。
すると、 ふと視界の端に何かが映る。
自分の着ている制服と同じ色。 …………人がいる! しかも校門のすぐそばで寝ている!?

「あの……大丈夫ですか?」