コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 橘視点 ( No.13 )
- 日時: 2012/04/22 20:57
- 名前: 紫亜 ◆N4lxHV1tS2 (ID: CyM14wEi)
- 参照: 今のところ毎回2000字を目指しているが、そろそろ疲れた
「あっ、 橘くん!」
何だか今日は色々な人に話しかけられる。 とは言っても、 まだ三人目だけど。
僕に近寄ってきた男子生徒、 顔は見たことある気がするけど、 名前は思い出せない。 かろうじて彼の茶色く綺麗な髪に見覚えがある。 確か彼の髪、 初めて見たときに感動を覚えたのを憶えてる。
あの金髪の……何ていうんだっけ、 西條か、 西條くんと別れてから少し歩いたところで、 彼に声を掛けられた。
ここは大通り。 駅へ行くには、 この通りを通らなければならない。 銀行、 郵便局、 書店、 幼稚園や服屋の並ぶこの道は、 帰宅ラッシュが始まりちょうど人が大勢出歩いている。 この喧騒の中で、 立ち止まる僕ら学生二人が通行人にとってどれほど邪魔な存在なのか。 その疑問は、 今のところ考えるに値しない。 まだ人の通りは少ないほうだから。
「何? えっと……」
「あっ、 ボクの名前覚えてない? ……まあ、 そっか、 そうだよねー……」
日が落ち、 大分暗くなった街中。
彼は男性とは思えない可愛らしい顔をしかめさせ、 考えるような素振りを見せた。
「ねえ、 クラスの子の名前 どれくらい覚えてる?」
と思いながら見ていると、 僕に質問を投げかけてくる。
上目で見てくるので、 余計女性的だと思ったのは黙っていたほうが正しいのだろうか。
「クラスの…… えっと、 前の席の人の名前なら……」
「そっか、 イスに張ってあるもんね、 名札!」
「う、 うん……」
「じゃあさじゃあさ! 他には他には? クラスの子以外では?!」
ま、 まだ何かあるのか!
こんなにも僕に話しかけてくる人は初めてだった。
いや、 さっきの西條くんとやらも、 初めてと言っては初めてだった。 他人とあれだけ長く喋ったことは、 “強制” されない限りは一度も無かった。
でも、 あれは流れ上仕方なかったことだ。 僕が校門で寝ていて、 それを起こしたのが彼。 挨拶を交わし、 少し喋るのが普通だろう。
いや、 まず校門で寝てしまったところから全然普通じゃないことくらい分かっているが。
話を戻そう。
僕は今まで、 何もなしに自分に話しかけてくる人に出会ったことがなかった。
クラスの誰とも接しようと思わない僕を気遣って、 無理に話しかけてくる人なら数人いたが。 それはいつでも僕の 「別に」 という一言で終わってしまっていた。
そこから先、 何か話しかけてくれたら普通に話したのだろうが、 誰も皆 「別に」 というその答え一つ聞いただけで諦めてしまった。 だから、 五言会話して終了が最高記録であり、 同時に日常でもあった。
「前の席の人も含めると……三人」
それが、 今はこれで九だ。
さっきの西條くんでも六。 恐らく人生最多だ。
「よかった、 じゃあボクの影が薄いわけじゃないんだ」
安堵する点を大幅に間違えてるよこの人。
「ボク、 日向! 日向拓斗! 橘くんと同じクラスだけど、 思いだせる?」
「日向……? うーん……。…………ああ、 ポイッの人?」
「そうそうそうそう! そんな細かいところ憶えてくれてたんだ! ボクですらもその言葉の前後思い出せないよ!」
僕は憶えている。
なぜならとても印象的だったから。
……残念ながら顔と名前を一致させるくらいまでではなかったけど。
「『日向拓斗です。 趣味はサッカーと昼寝、 野球やバレーボール、 バスケとかも好きです! でも一番すきなのは昼寝なので、 スポーツうんぬんの情報はポイッしちゃっていいです! よろしくお願いします!』」
だったかな。
……ん?
「た、 た、 た……橘くんっ! ボクのこと、 そんなに好きだったんだね! なんで全部言えるのっ!?」
え!? 声に出てた!?
「え、 え、 いや……なんだか印象的だったから憶えてただけで……」
「そんなに変なこと言ったんだっけ僕っ! ∑(´д`;) 」
「あっ、 いやそんなことは全然なくて! ∑(゜д゜;)!! 」
時刻は七時。
帰宅ラッシュが本格的に開始する頃。
車や自転車、 学生や社会人、 老人など、 多くの人が通るこの道。
こんなところで僕ら男子高校生二人、 立ち止まって向かい合って話しているのは、 少し異色な光景だろうか。
学校が近いとはいえ大分離れてもいるし、 そこらの高校生とは違いボディタッチなるものは一切していない。一緒に歩いているわけでもなく、 ただ向かい合って話しているのだ。 それも、 名前のことや自己紹介のことを、 余所余所しく。
だがそんなことは一切興味がないとでも言うように、 日向くんは周りを見ずに僕とのお喋りに興じていた。 いや、 興じているというよりは、 集中しているという表現の方が正しいのだろうか。
「ところで、 どうして日向くんは僕に話しかけてきたの?」
「えっ? うーん……なんて言えばいいのかなあ〜……」
「?」
日向くんは、 またも女性のような顔をしかめさせ、 考える素振りを見せた。
そして、 ある意味で僕の度肝を抜く発言をした。
「橘くんに、 部活のお誘いをしに来ました!」
話の流れが掴めなくて、 僕はフリーズした。
「ん……? 部活?」
部活。 そういえば僕の学校は、 部活に強制的に入らされるんだっけ。
まだ考えていなかった。 否、 考えるのを拒否したとも言える。
「ボクね、なんでか分かんないけど……本能的にかな。
初めて見たときから、橘くんと仲良くなるべきだって感じたんだ。
そんなことを言われたのは、生まれて初めてだった。
こんなこと、なかなか言われることはないんじゃないか。
セピア色の視界に飛び込んだ、 一人の茶色い髪の人。
彼はこれから僕の運命を大きく変えてしまうのだが、 それはまた後の話。
そんな高校入学三日目の放課後の話。