コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 黒田視点 ( No.16 )
- 日時: 2012/04/22 20:58
- 名前: 紫亜 ◆N4lxHV1tS2 (ID: CyM14wEi)
「どうも、 日向拓斗です!」
「はじめまして、 西條竜夜です」
「おう! そして俺が明坂棗! よろしく!」
「はあ…………ったく、 お前は……」
……展開が速すぎて、 ついていけなくなった人も居るだろうか。
居るだろうな。 だって、 現に俺がついていけていないのだから。
日向拓斗、 西條竜夜。
…………と、 明坂棗。
一応は全員知っている人だ。
いや、 正確に言うと棗以外は名前だけ知っている程度なのだが。
日向拓斗。 一年五組で、 マイペースで結構オールマイティーな人だと聞いた。
運動もかなり出来るという話で、 実際体育の合同授業での彼の運動神経の良さには正直度肝を抜かれた。
彼自身は特に気にしてはいないようだが、 体力テストの練習という名目の内容の地味な授業で俺が目を奪われてしまう程のしなやかさ。 彼の身体能力は天性のものだと思う。 つまり、 それくらい凄い。
だが、 そこまでの運動神経の持ち主でありながら未だどの部にも所属していないという。
そして西條竜夜。
一年……何組だっけ。 ああ、 七組だ。
彼の親は確か、 かの有名女優、 有名モデルだっただろうか。 まあ、 所謂芸能人の息子というやつだ。
やはり美人女優・美人モデルの子は美人で。 彼のあの端正な顔立ちだけでも充分人目を惹きつけるだろうに、 その親が伝説を作ったと言われる芸能界の歴史に残るような人物であれば、 彼は嫌でも目立つ。
本人はどう思っているか分からないが、 確か二・三年程前にテレビに出演していたと思う。
だから皆、 彼の素性を知っているのだろうか。
ちなみに彼と関わったことのあるらしき女生徒は、 皆口を揃えて 「優しい美形」 と言う。 性格までも良いのだろう。 憎たらしいことに。
まあ、 彼らはそんな有名どころの二人だ。
「まあまあ、 話を聞けって 由紀生」
「お前、 何でこの二人を……目的はなんだ? ……まさか身代金…………!?」
「お前は俺のこと何だと思ってんだよ!」
かぶりを振る棗の仕草を見て、 日向くんが笑い出した。
女性のような綺麗な顔で笑うものだから、 …………男子生徒の目が……。
ついでに西條くんも微笑むものだから、 周りの視線がとても痛い。
そんな中、 棗は気にせず言葉を続ける。
「お前……俺が今まででそんな悪事を働いてきたと思うか?」
「今それが判明したところだろうが!」
それも、 何にも悪びれも無く。
棗は続けた。
「分かった、 じゃあ俺の愚痴たまってんなら言え! 今は許す!」
そして。
「いいのか?」
俺の中で、 何かが切れた。
「まずお前は、 いつもいつも突然だよな。 しかも大体俺が巻き込まれる。 いや、 お前は俺を巻き込む前提で話を進めるし最後まで俺に相談もしてこないよな。 いつでも一人で最初から最後まで話を一人で全部片付けようとする。 それも、 人生が関わってきそうなことですらも。 お前中学のときもそうだったよな。 修学旅行の班とか、 俺に何の断りもなく勝手に俺の手を引っ張って無理矢理一緒に回らせたよな。 それも当日に。 まあ、 あの時は俺にまだ友達が全然居なかったから結構助かったよ。 問題はその後、 その後の日々の過ごし方なんだよ。 何なんだ一体。 祭りの出店手伝わせたりバスケ部の助っ人やらせたりバンドやらせたりそれに」
「……つまり由紀生、 俺のおかげで大分青春したんだな。 見事に愚痴じゃなかったぞお前」
「ふざけるな!!」
時計の針は、 もうすぐ一時二十分あたりを指す。
昼休憩もそろそろ終わりだ。
——ここに至るまでの経緯を、 軽く説明しよう。
「…………」
黒田由紀生、 十五歳は、 目の前でドヤ顔をする親友の明坂棗の顔を見ながら、 あからさまに溜息をついて見せた。
だが勿論相手の顔に皺が寄るわけでも表情が曇るわけでも、 ましてや急に腹が痛くなることもなく、 彼の吐いた息は全て明坂の笑顔に掻き消されてしまった。
早く続きを言え、 とでも言いたそうな秋坂の顔に、 黒田は幻滅しながらも親友の周りを取り囲む人物二名と親友本人をぐるりと見回す。
そして眉間を指で押さえ、 もう一度溜息を吐いてから言葉を紡ぎ出した。
「棗、 その二人はどこから誘拐してきた」
「二人の教室から任意で引っ張ってきたぜ!!」
スパンッ。
気持ちのいい音を立てて、 何かが明坂の頭を叩き付けた。
黒田の手元を見ると、 丁度近くにあったらしき数学のノートが折れているのが確認出来た。
一方明坂はというと、 先ほどの発言の際に作ったgoodサインの名残を右手に残して前のめりに倒れこんでいた。
「いってぇな、 由紀生! 暴力反対!」
「任意って、 二人はなんで連れてこられたか知ってる?」
「話だけは聞いてるよ!」
「あ、 そう……」
満面の笑みで答える日向。
うんうんと賛同の意を頷いて表す西條。
黒田は再び眉間を押さえた。
俺は知らない、 そう思いながら。
「じゃあ、 とりあえず自己紹介しようぜ! 拓斗っ!」
「うんっ!」
いつの間にやら仲がよくなっているらしき二人を見て、 微笑む西條。
もう何が何だか分からない。
————そして、 冒頭へと至る。
気付けば、 日向くんがニコニコしながら目の前に立っていた。
やはり女性的な顔…… そして西條君美形。
「黒田くんの話は聞いてるよ、 棗くんから! 凄く優しくて、 理解のあるいい人だって!」
「棗から?」
「うん! これからいろいろあるだろうけど、 よろしくね! 副部長!」
「お、 おお ……ん?」
「よろしく、 副部長」
「んん?」
「よーし、 じゃあ部活設立申請しに行こうぜー!」
「ハアアァァァァアァァアアアアァア!!!!???」
…… 何だかんだで、 黒田由紀生の安楽は遠い。