コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

誰視点でもないですえへへ ( No.20 )
日時: 2012/04/22 21:00
名前: 紫亜 ◆N4lxHV1tS2 (ID: CyM14wEi)

「どうだ……ッ!」
「……んっと …………ひゃくろくじゅう ……ろく?」
「ハア!? 166!? ちっさ! 俺ちっさ!!」


体育館。
この日、 この学校では身体測定が行われていた。

身長計や体重計、 座高計がいくつか設置された館内にて、 生徒達は各々計測、 記録をして回っている。 学年ごとに最初の計測場所が決められていて、 今回一年生は体育館がスタートとなっていた。 ちなみに二年生は視聴覚室にて聴力検査、 三年生は会議室を用いての視力検査が最初となっている。
つい最近…… 昨日、 設立した 『 TONG部 』 、 通称 『 写真部 』 は四人でペアになってこの行事に臨んでいた。


体育館内、 入り口から向かって右奥のスペースが身長測定の場であり、 まだ上級生は各部屋で測定中なので、 この時間は唯一一年生が気を軽くしていられた。 そして、 その間に一番測定法の緩い身長測定が混むことは必至であった。
……ように思われたが、 他の一年生は自分の身長をさっさと測り終えるや否やすぐさま他の部へと移り、 あっという間に身長測定の混雑は終わった。
皆当然体重や座高もすぐに測り終えたため、 友人達と結果の報告のしあいや鬼ごっこ、 持参していた本で読書をしたり黙って座っていたり昼寝したりと、 各々したいことを自由にしていた。
女子は体重計前で立ち止まる人が続出し混雑が起こり、 未だ終わっていない人が多数いるようである。
ともあれ、 身長測定が混んだその間にさっさと体重測定、 座高測定を終わらせた四人は、 上級生が来るまでゆっくり身長を測りながら遊んでいた。


「なな、 拓斗。 本当に166か? 見間違いじゃないのか?」
「多分…… 見間違いなんかじゃないと思うけど……もっかい測る?」
「やめろッ! オレをどこまで苦しめたら気が済むって言うんだッッ!!」

四人の中で、 一番に測定を開始した明坂。
普通に並んでいても一人だけ少し小さめな彼は、 彼自身そのことを気にしているらしく……測定器の目盛りを読み上げた日向に向かって咆えていた。
結構大きめな声を発したが、 面積は広く、 天井は高く、 その上気分の高揚しきった一年生全員分の騒がしさも相俟って明坂の声はさして目立ったものにはならなかった。
一つ、 目立つものといったら……

「ちくしょう、 何でオレあんま背ぇ伸びねーんだ?」

今明坂がポフポフと触っている、 脳天。
の、 今ならそうにしか見えない、 身長稼ぎと捉えることの出来る前髪。

明坂の前髪は長いらしく、 彼はいつも前髪を赤いヘアゴムで束ねてそれを編みこんでいる。
お洒落かな、 そう思い今まで何も突っ込んでこなかった面々だが、 明坂棗という男のファッションの真の意味にでも迫ったのかと内心わくわくしだしているのが目に見えて分かるような表情をする。


「……おい、 お前ら。 言っとくけどコレ、 身長稼ぎじゃねーからな?」


空気を悟った明坂。
眉根に皺を寄せ、 唇を尖らせ、 分かりやすく怪訝な顔をする彼に、


「えっ、 違うの?」


嘘をつけないことに定評のある日向は、 突っ込んでしまった。
頭に花でも咲いていそうな、 ほわほわした女顔で。
そして、 明坂はもの凄い勢いで日向に飛び掛った。


「ッてめえ拓斗!! いくら顔が可愛いからって、 言っていいことと悪いことがあるんだぞ! 顔が可愛いからって!! 何だよ、 お前なんか顔が可愛くて素直で運動神経よくて人気者なだけだろっ!!」
「おい棗、 誉めてるぞ」
「えへへー、 棗くんがいっぱい誉めてくれたよ竜ちゃーん」
「よかったねぇ拓斗くん」

……もの凄い勢いで飛び掛ったものの、 明坂の圧倒的な良心と日向の女顔に阻止され、 日向は無傷。 それどころか、 痛みも苦しみも一切感じないまま明坂が自滅し撃沈するに至った。
シュール。 シュールである。

つまり、 キレて友人に飛び掛ったものの結局は罵倒ではなく褒め称え、 挙句に撃沈しているという。
そしてその相手はというと、 誉め言葉を満更でもなく、 零すことなくしっかり受け取って、 笑顔で他の友人に頭を撫でてもらい幸せそうな顔をしている。
この二人の温度差が天と地ほどあり、 面白い。

……こういう場合、 シュールというのか不憫というのか微妙なところである。


明坂が落ち込んでいる間に、 他の三人も計測を開始した。
勿論明坂を心配しつつ……

「拓斗くんは…… 171だね」
「へえ、 結構高いんだ」
「へへ、 これでも一応ね」

明坂を心配しつつ……

「竜ちゃん高そうだね! えっと……176!」
「あれ、 僕と拓斗くんて、五cmしか身長変わらないんだね」
「意外だな、 もう少しあると思ってたけど」
「僕も。 拓斗くんに抜かされちゃいけない気がするし、 背伸ばそう」

心配しつつ…………

「えっ! 由紀生くん高っ! 高ーい!」
「由紀生くん178。 高いね! 僕と二cm差だ」
「いや、 中学のときとあんま変わんない…… 伸びはせいぜい七cmってとこかな」
「へぇー!」

心配………………



「おっ前らちょっとは慰めろよ!! 何だよ、 追い討ちかけるように170越えの事実を声に出して言いやがって!! しかもなんか意外と拓斗の背が高いのがムカつく!!」



明坂はどうやら、 心配してもらえなくて、 否、 構ってもらえないうえ一人だけ160cm代であることに拗ねているらしい。 半泣きである。
その涙が、 彼の担当を確立するものだと知らずに。





((( いじられ系ちびっ子キャラ路線……! )))



今日も平和である。