コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

明坂視点 ( No.24 )
日時: 2012/04/22 21:00
名前: 紫亜 ◆RC5Rh1pXuc (ID: CyM14wEi)

「明坂ー。 お前ちょっとついてきて」


三時間目の授業が終わった後、 一応オレたちの部活の顧問である中嶋先生に呼び出されて、 先生の後について職員室へ向かった。 そして職員室の扉をくぐり、 デスクへ向かう。 前にもちょっと思ったけど、 先生のデスクは入り口から遠くて面倒。 出来れば……こう……そうだな、入ってすぐのところとか。 うん、その辺が楽だな。

と、 どうでもいいことを考えながら先生の背中を見つめる。
広くてしっかりした、 “男の背中”を見つめているうちに、 何か悔しくなってきたので視線を床へと落として歩き続けた。

デスクに着くと、 先生はさも当然のようにどっかりとイスに腰掛ける。 というか乗る。
木々がさわさわと音を立てながら、 風に揺られて微かに動きながら職員室に影を落とす。 中嶋先生のデスクは入り口から遠い代わりに、窓際なので温かい。 木の隙間から差し込んでくる日差しの具合が調度いい。 その木漏れ日が気持ちよくて、 だんだん眠くなってくる。
……職員室なんかで眠る勇気はないけどな。 さすがに。

先生はおもむろに机の引き出しの上から二段目を開け、 綺麗に整理されたその引き出しの奥の方、 右奥のあまり視界に入らないようなところに、 まるで隠されていたかのように入れられていた鍵を取り出した。
小さな鍵だが、 ひとつひとつ微妙に違う鍵が三つ、 ボールチェーンによって繋げられている。
失くさないように、 という工夫なのだろう。
だが一人の男の子としては、 このように複数の鍵を渡されると純粋にわくわくしてしまうのでそんなことは全体的にどうでもいい。
オレが鍵をじっと見つめながら高揚した気持ちを抑えて固まっていると、 中嶋先生は目を細めてくつくつと笑い出す。


「いいねえ、 その反応。 部長としては、 ちょっと貫禄が足りねえかもしれないけど」


先生の笑い声が段々と大きくなっていく。 終いにはハッハッハ、 とわざとらしく笑いだした。
何のことだか全く分からないオレは、 頭上にハテナマークを出すほか無かった。


「それ、 お前に一旦預けとくよ。 放課後にでも皆で行ってみ」


皆、 というのは、 恐らく部活のメンバーのことなんだろう。
……オレ今、 すげえ部長気分。 いや、 実際オレ部長だけど。

先生に軽く会釈をし、 職員室を立ち去った。 しばらく鍵を観察し続けたかったが、 やはり次の授業が優先なので、 オレは鍵をそっと制服のズボンの右ポケットにしまい三階の教室へと小走りで急いだ。
時計の長針は授業開始三分前を指していた。
次は数学とかなんかその辺だったはず。
急がねば。
そして、 それを乗り越えれば昼飯だ。

オレは階段を駆け上がった。

途中で二年生の学年主任に遭遇し、 廊下を走るなと叱られたので小走りから早歩きに切り替えた。

本鈴と同時に到着した。







             *








「——そいやさ」
「……え、 なに棗くん、 おまつり気分?」
「あーヨイショッ! ってちげーよ!」


今オレたちは、 七組の教室で昼飯を食っている。 食堂には憧れるものの、 何となく先輩が怖いので弁当を持参しているオレたちの、 いつもの定位置だ。 つっても、まだ入学してから一ヶ月も経ってないけど。 竜夜の席は扉のすぐそばだから、 たまに入ってくる冷気がきつい。
つーか竜夜の卵焼き超うめえ。


「なんだ棗。 メシ食いながらしゃべんな」
「すまぬ。 もぐもぐ」


あと由紀生の白米が無駄にうめえ。


「で、 どうしたの? 棗くん」
「お、 おお。 そうだったそうだった」


拓斗のせいで脱線した話を戻してくれた竜夜に感謝しつつ、 俺はずっとしまっていた鍵をポケットから出して三人に見せる。 鍵のボール部分に指を引っ掛けているだけなので、 今にも落ちてしまいそうに見えるが実際はなかなか安定している。 オレ以外の部員三人は、 そのゆらゆらと微かに揺れ続ける鍵に目を見開いて、 食い入るように見入っていた。
自分のものではないが、 なんとなく得意げになってしまう。


「棗くん、 これどうしたの?」


拓斗が体を起こし、 目をパチパチ瞬かせて言う。 大きな瞳が、 さらに大きくなっていておもしろい。
拓斗が起き上がると、 それに続くように由紀生と竜夜も先ほどと同じように背筋をピンと伸ばしてオレの方に注目する。 竜夜や、 由紀生までもが拓斗と同じ様子でオレは更におもしろくなった。


「中嶋先生にもらった」


正確には “預かった” だけど。
そう言うと、 由紀生は少し訝しげな顔をした。 本当だぞ、 おい。 嘘ついてないぞ、 おい。
由紀生の様子に反して拓斗と竜夜は興味津々なようで、 目を輝かせてこちらを見ている。 由紀生もこれくらいキラキラした目で見てくれれば、 今世紀最大のいい気分になれたかもしれないのに全くクールぶりよって。
由紀生はまだ眉間に皺を寄せているが、 拓斗と竜夜が未だにこちらを見つめ続けているので、 オレは再び話を切り出す。


「今日の放課後、 行ってみろってさ。 場所は——」


何となく予想のついているその “場所” を、 口に出さないのはただのオレの冒険心。