コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

日向視点 ( No.4 )
日時: 2012/04/22 20:53
名前: 紫亜 ◆N4lxHV1tS2 (ID: CyM14wEi)

「ええっ!? 廃部!!?」

職員室のとある一角から、 一人の生徒の声が轟いた。 静かに、 と人差し指で指示する教師の姿を他所に、 大声を出した張本人であるその生徒——上履きの色から察するに新入生——は、 驚愕の表情を露にしていた。
なんだろう、 入りたかった部活が廃部になっちゃってたのかな。
……ああ、 先生が頷いた。 なっちゃってたみたいだ。

その新入生は、 俯きながらとぼとぼと職員室を後にした。

「あのー……中嶋先生はいらっしゃいますか?」

ボクは自分の用事を思い出し、 用のある先生の名前を呼んだ。
へー、 高校の職員室って広い。 中学のときとは比べ物にならない。
感心しながら室内を扉のそばから眺めていると、 遠くの方で手が上がったのを確認した。
他に反応している先生はいない。
どこかに自分以外の生徒がいるわけでもない。
先生が先生を探している様子もない。

あの人か!

「あの、 中嶋先生であってますか?」
「うん、 俺が中嶋だけど」

わーっ! 高校の教師って放任的なんだなー!
新入生が目の前でしどろもどろしているのを見て、 気遣いのひとつもないんだ!

「……ねえ、 君。 心の声が大分漏れてるけどわざと? わざとやってるの? ねえ」
「あっすみません! よく言われます!」
「あーうんうん。 元気だねー新入生は」

中嶋先生は、 面倒くさそうにそう言いながらタバコに火をつけた。 シュボッと歯切れの悪い音がすると同時に、 先生の咥えたタバコに火がつく。 一瞬の赤い光を見せたそれは、 すぐにタバコを燃やしていくものへと変わった。
先生の机を見てみると、 結構片付いている。
机の上に置いてあるのはPC、 生徒出欠簿、 タバコ、 今片付けている仕事、 筆記用具。
先生が今開けた一番上の引き出しの中も綺麗に整理されていることから、 他も綺麗に整頓されているのだろう。
ボサボサのスポーツ狩りに、 恐らく最後に剃ったのは三日前だと予想される伸びた髭、 眠そうな目つき顔つきに適当に着崩された服装。 どうみてもだらしない印象しか得られないその姿からは、 そんな綺麗好きそうなイメージは全く湧かなかった。
もしかして、 誰かに片付けてもらったばかりなのだろうか。
それとも、 本当に綺麗好き?
それか、 人目につくところだけ綺麗に保っているのだろうか。 それなら、 まず身だしなみからどうにかするべきだと思う。

「……なに、 ジロジロ見てんの?」

先生はボクの視線に気付いたらしく、 サッと自分のデスクが全体的に隠れるように覆いかぶさった。 その仕草から推測するに、 何かやましいことがあるのだろうか。
でも全く以って焦りのないその表情は、 ただのノリなのかな。
先生はさっきまで吸っていたタバコを、 さっきとは違う上から二番目の引き出しを開けて取り出した携帯灰皿に押し付けた。 ジュッと焦げるような音がしたと思うと、 先生の押し付けたタバコから煙が途絶えた。

ボクが先生の手元の動き……否、 タバコの行く末を見守っていると、 先生はボクの方に体を向けて、 手をしっかりと膝に置いて僕に話しかけてきた。

「で、 何ですか?」

先生は気だるそうな声色でボクにそう問いかける。
そうだ、 すっかり用事を忘れていた。
先生の綺麗な机や流れるような仕草に気をとられていたからだ。

「あの、 先生は写真部の顧問ですよね?」
「うん、 そうだけど」

よかった、 今更だけど、 この人がボクの探していた中嶋先生だ。 もしここまでこの人のこと観察してきて、 それで違う人だったら殴り飛ばしていたところだ。

「あのね、 君。 殴られても俺困るから。」

あれ、 また声に出ていたかな。 ボクってそんなに、 思っていることと考えていることの区別が出来ない子なんだっけ。
今度からは気をつけよう。

「うん、 気をつけたらいいと思うけど。 それ以上に君、 考えてることが丸分かりだよ」
「ええっ!? そ、 そうだったんですか!」
(表情には誰も突っ込まなかったのか)

先生は何か言いたそうだったけど、 ボクはそのまま話を戻した。 だって、 このまま雑談になったら先生に迷惑がかかっちゃうし。

「あの、 写真部ってどこで活動してるんですか?」
「写真部の活動場所? ……あー、 写真部の活動場所かー……」

?
中嶋先生は、 少し困ったように僕から視線を外し、 宙を仰いだ。
あごに手を添え、 考えるような仕草を見せる。 この先生、 横顔の形綺麗だなー。 あ、 そうではなく。 なんだろう。 何をそんなに言いよどんでいるのかな。
まさか、 写真部もさっきの子みたく廃部してるとか。
まあ、 そんな漫画みたいなアニメみたいなドラマみたいな小説みたいな、 つまりフィクション的展開、 あるはずがないけどね。 ボクは結構現実主義者だよ。
先生はまだ何も言わず、 仰いで呻っている。
綺麗に組まれた足の、 地に着いているほうの足で、 先生は自分の座っている回転式の椅子を左右20度ほど回転させて腕を組みなおした。
そして再びこちらを向き直り、 手を膝の上に勢いよく置いて言葉を紡ぎだす。

「あのさ、 写真部廃部しちゃった」
「……へ?」
「ごめんな、 新入生。 ここに来たときの君の顔があまりにも喜々としていたから言いにくかったが」

…………。 あるんだ。
こういう展開って、 現実にも実際にあるんだ。

ボクは入りたくて仕方の無かった写真部が廃部となっていたことより、 今までフィクションでしか起こりえないことだと思っていたことが今、 現実に、 それも自分に起きたことに感動していた。

さっきの子も写真部希望だったのかな。
いや、 話しかけていた先生が違うからそんなはずないか。
それよりボクはどこの部活にも入るあてがなくなってしまったんだけど、 あの子は何部に入るのかな。