コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 黒田視点 ( No.6 )
- 日時: 2012/04/22 20:54
- 名前: 紫亜 ◆N4lxHV1tS2 (ID: CyM14wEi)
この高校に入学してから早三日。
どうやら今日から俺たち新入生も、 部活のことを考え始めなければいけないらしい。 同級生だけではなく、 先輩達もいきり立って朝から勧誘に励んでいるのが教室の窓からよく見えた。
俺はと言うと、 まだ入りたい部活を見つけていない。 読書研究会とか、 映画研究会とか、 そういう同好会じみた部活はないものか。
俺はそう思いながら、 読んでいた本を閉じた。
この本は俺の愛読書だが、 確か昔にどこかの映画祭で、 何かの賞を貰ったと聞く。 ファンタジーよりSFの方が好きな俺だが、 この本は特別好きだった。
本から視線を外し、 頬杖をつく。
すると、 ちょうど昇降口から校門にかけてわらわらと部活ごとに固まっている先輩達の姿が窓から見えた。 勧誘しているだけなのに、 限りなく祭りの雰囲気に近い。 俺がこの学校に入ろうと決めた理由は、 この賑やかさにもあった。
どんな部活が何をしているのか。 ふと疑問に思い、 席から立ち上がって一つ一つの集団を丁寧に眺める。 そこには読書研究会もあった。
読書研究会は見たところ十人前後居て、 それぞれが自分の勧める本を二・三冊掲げたり、 プレートを持って声を張り上げたりと、 なかなかに活気よく活動に励んでいる印象を受けた。
読書研究会の勧誘をしている人たちの中で、 自分の愛読書と同じものを掲げている人がいる。 どうやら自分の今読んでいた本は、 読書家からも好まれているようだ。
そう思うと、 何だか嬉しくなった。
何より、 この小説は自分が父から譲り受けた古い書籍だ。 そんな本を読んでいる人がこの学校にいると思うだけでも、 何故だか喜ばしい気持ちになる。
「何も入ろうと思える部活がなかったら、 読書研究会に入ろうかな」
誰も居ない教室で、 誰に聞かせるでもなくそう呟いた。
なんだかこれからの学校生活に、 少しの希望が見えた気がした。
と、 一人あたたかな春風に当たりながら校門近くを見ていたとき。
「……ん?」
よく知っている顔を発見した。
明坂棗。 同じ中学出身、 実は小学校も同じの、 中三以来の俺の親友だ。 あんなところで誰に話しかけるでも、 荷物を持つわけでもなく、 一人で一体何をしているんだ? あいつは。
何かを叫んでいるようだ。 何だ、 何を言っている?
あれは……。 母音だけ分かった。 「u」 「i」 「o」 だ。
uio……。 「うきわ」 ? いや、 最後の母音が 「a」 だから違うな。 「くみこ」 ? 誰だそれは。 「ういろう」 …… 「外郎」 ? 何があってそんなことを。 「u」 「i」 「o」 ……。
…………待て、 「ゆきお」 じゃないだろうな。
あ、 校舎の方に近付いてきた。
「……きおー! ゆきおー!! ゆきおー!!!」
って俺かよ! 本当に俺かよ! あのバカ!!
俺は一目散に走った。 理由は簡単だ。 自分の名前を長時間叫ばれるのは嫌だからだ。 かと言って、 二階の教室からあいつに向かって叫ぶと余計目立つ。 ここは自分が 「ゆきお」 ではないというフリをしつつ、 棗を黙らせるのが得策だ。 まあ、 そういうわけだ。
「ゆきおー! ゆきおー!! どこだー!?」
「おい! 明坂!」
棗は案外人気のないところで叫んでいた。 いや、 それでも人は大勢いるのだが。 そうではなく、 他と比べるといくらか人の少なめのところで叫んでいたらしい。
それでも自分の名前を大声で叫ばれるのは、 恥ずかしいものなのだが。 彼の小さな気遣いにほんの少しだけ感謝し、 俺は棗に声をかけた。
「あっ! 由紀生!!」
こいつ、 一瞬で俺のダッシュを無駄にしやがった。 せっかく、 自分だけでも目立たないようにするつもりだったのに。 そして棗も、 騒動にならないうちに回収しておこうと思ったのに。
空気と場を選んだらいいと思うよ、 棗。
と、 愚痴のようなものを人前で、 しかも親友で本人である彼の前で言えるはずもなく。 俺はいっそのこと開き直って、 彼にしばらく疑問に思っていた事柄を投げつけた。
「何やってんだよ、 こんなところで!」
その言葉に、 棗は 「こんなところ?」 とでも言いたそうに首をかしげた。 かと思うと、 何かを思い出したように目をカッと見開いた。 これは知り合った当初からの彼の癖だが、 正直ビビる。 やめてほしい。
「おい由紀生! 焼肉同好会なくなってた!」
「……え、 それだけであんなに叫んだのか!?」
どうやら彼の話を聞くと、 焼肉同好会とやらは、 昨年まではこの学校でもなかなかに栄えていた方だったらしい。 だが今年度に入る少し前に、 学校から 「部費をこれ以上払えない」 との通達があり、 廃部したと。 どうやらその焼肉同好会の部員は、 今はサッカー部や野球部、 アメフト部や美術部など、 様々な部活で楽しくやっているそうだ。
棗は焼肉が大好きだった。 誕生日には、 昔からいつも焼肉を食べていたと聞く。 その代わり、 プレゼントはいらないと。 中学生からならその現金な考えも分かるが、 それが小学校入学からだと何も言えない。 というか、 そんな昔から何にそんなに惹かれてしまったんだろうか。
恐らくベジタリアンには一生分かるまい。
「で、 どうした?」
「ああ、 大事なとこ忘れてた! 由紀生、 俺たちで部活作ろうぜ!」
……はあ?!
どうしたんだこいつは。
「だから、 部活だよ部活! どうせお前、 読書同好会とかに入ろうと思ってたんだろ?」
そこまで分かっているなら何故。
「でもお前のことだから、 それ以外何も考えてないんだろ」
「失礼だな、 考えている。 映画研究会とか」
「だーかーら! お前はどうせそういうのしか目星つけてないんだろ!?」
こいつは今、 俺たちが大勢の人に見られているということを知っているのだろうか。 恥ずかしいから、 いい加減ここから動きたい。 だが棗は、 それを拒んだ。
桜の舞うこのまだ見慣れない校門のすぐそばで、 新入生がこんな話をしているのは大分シュールなのだろう。 俺は冷静にそう思う。 先輩も同級生も、 誰もが皆 「何だ何だ」 と好奇の目で見ているのだからな。
俺はとりあえず、 目の前でバタつく棗に返事を返してやった。 すると、 こいつの口から予想もしていなかった、 否、 少し予想していたが、 無理矢理違うとし、 考えから外した言葉が出てきた。
「何でもやる、 自由な部活作ろうぜ!」
……すみません、 頭痛が痛いので帰ります。