コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。企画・もしも彼らが○○だったら ( No.132 )
- 日時: 2012/01/09 16:15
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
番外編 俺とあいつが出会った日
〜翔視点〜
その日の出来事だ。姉貴が嬉々として小学校について語っていた。どうやらかなり楽しかったらしい。
姉貴は一応日本語を喋れる。だから苦労はしなかったんだろう。
俺は幼稚園とやらで問題を起こしたからな。
「なぁ、兄貴」
「どうしたー?」
用意してもらった机に向かってる兄貴に、俺は問いかけた。
「兄貴は日本語を覚えたのか?」
「少しはな。会話に困らない程度に美羽姉に教えてもらったよ」
そう言って机に向かう。机上を見てみれば、そこにあったのはノートだ。びっしりと日本語の単語が書かれている。
「兄貴。俺にも日本語を教えてくれ」
「ん? おう、いいぞ。一緒に学ぼうなー」
「まずこれはどういう意味だ。おはよう?」
「それは朝に言う挨拶だな」
※この2人は中国語で会話をしています。
12月7日。
まぁ色々とあったが、日本語は大体覚えてきた。
中国語の他にも英語やフランス語、ドイツ語や韓国語とかありとあらゆる言語は喋れるんだが、日本語だけが難しい。言っている意味がよく分からない。
「しょーう」
「……」
うぜぇのが来た。
初日であんな暴言を吐いたというのにもかかわらず、椎名昴は何かと俺に突っかかってくる。
今覚えてる日本語の中では「来るな」という意味はない。仕方ない。無視するか。
「無視するなよー」
「うぜぇ(←中国語」
椎名昴の腕を振り払い、睨みつける。
さすがにビビったのか、怯えたような表情を浮かべる椎名昴。所詮人間は怖がるだろうな。
だが、こいつは予想外の事をしてきた。
「一緒に遊ぼう(←中国語」
「?!」
え、今こいつ。中国語を喋った?
「お前のとーちゃんに教えてもらったんだ! 一緒に遊んだりしたいから、その、それしか喋れないけど……」
恥ずかしそうに顔を赤らめる椎名昴。
なるほど。こいつも頑張ったんだな。
俺は椎名昴に手を差し伸べた。日本語を喋れない分、体で表現してやる。
椎名昴は顔を明るくし、笑顔を浮かべた。そんなに嬉しいのか。
その時だ。
「変人!」
突如、水をかけられた。
うわ、服がぬれた。これ、乾くか?
「よっちゃん! 何するんだよ!」
「こんな変人と一緒にいたくねぇよ。最初の日に逃げたじゃねぇか」
「逃げたんじゃないよ! 少しシャイなだけだよ!」
意味が分からねぇ単語ばかりが飛び交う。どうやら俺を馬鹿にしているらしい。
目を使って、俺に水をかけてきた野郎の名前を見る。
こいつがよっちゃんか。なるほどな。
「そんな変人とつるむお前も一緒にいたくねー!」
「痛!」
あろうことか、そのガキは石を投げてきやがった。それが椎名昴の額に当たり、血を流す。
俺の体の中に、何かが流れた。
熱い何か。死神にはない——人間で言う、怒りという心が。
「翔?」
炎神を顕現させ、俺はガキに向かって叫ぶ。当然、元の姿で。
「こやつと同じ傷を負わせてやろうか、幼き者よ。その身を焦がしたいのならば、ワシが自ら焼いてやろうぞ!」
分かりやすいように日本語とやらで喋ってやった。昔の口調だけどな。
恐れをなしたのか、ガキは逃げ出す。無様だ。
1つ気づいた。椎名昴の事だ。
「……翔。お前——」
「黙れ」
椎名昴を手元に引き寄せ、傷に手をかざす。
炎熱の効果で傷を治す力だ。一応、死神にもこういう能力は備わっている。
「彼の者の傷を癒せ」
柔らかな炎が傷をいやす。しばらくすると、傷は完全に治癒された。ここにはもういれない。
もう姿は現せられない。
「さらばだ、椎名昴」
「しょ——おま、俺の名前——!」
フェンスを越え、俺は消える。
やっぱり俺は普通の人間になる事は不可能。死神として、元の姿でいる方がいい。
〜昴視点〜
翔が大人の姿のままどこかに行っちゃった。
翔は俺を助けてくれたのに。
平然としているとーちゃんに、俺は訊いた。
「翔は俺を助けてくれたんだ。よっちゃんが石を投げてきて、それが俺に当たって、でも傷をちゃんと治してくれたんだ」
「そうか。翔君は偉い子だなぁ」
とーちゃんは何事もなかったように、俺の頭をなでる。こっちは真剣なのに!
すると、翔のとーちゃんが教えてくれた。
「翔は日本語を喋れるんだよ。だけど、かなり昔の口調なんだけどね」
「え?」
「中国語は現代語でぺらぺらなくせして、日本語は昔口調。もうおかしいよね?」
翔のとーちゃんはどこか遠くを見つめた。視線の先にあったのはカレンダーだ。
12月7日。何かあるのか?
「今日は翔の誕生日でね? 僕達は長い間を生きているから様々な人を見た事がある。死神にももちろん誕生日と言うのもある。だけどそれは100年に1度だけなんだ」
100年に1度。長いなぁ。俺だったら死んじゃうよ。
「実年齢で翔は17回目の誕生日なんだよ。でも、君が成長して大人なっても翔は17歳のまま。君が死ぬ時も、ね?」
「死ぬ時も、翔は17歳のままなの?」
「そう」
それは悲しいな。出来れば毎年祝ってあげたい。
100年に1度の誕生日なのに、翔はいない。もう辺りは暗い。
「探してくる!」
「ちょ、昴! 窓から出るなと言って——!」
〜翔視点〜
どこだ、ここ。まぁいいか。
どこかのビルの屋上に、俺は1人で立っていた。もちろん、元の姿で。
「そう言えば、今日は誕生日だっけ」
100年に1度の誕生日。確か今日は17歳の誕生日だ。
……面倒だ。このまま中国に帰るか。
空間移動術を発動するべく、俺は炎神をゆらりと持ち上げた。
「しょーちゃぁぁぁあん!」
「ぐぶ?!」
誰かに体当たりされた。誰だ、体当たりしやがったの?!
「翔ちゃん」
張り付いていたのは椎名昴だ。恨みでもあるのか。
「100年に1度の誕生日なんだろ。帰ろうよ」
「知っておるのか。貴様」
「本当だ。昔口調」
こいつ、馬鹿にしてるのか?
「翔ちゃん。翔ちゃんの昔を色々教えてよ」
「中国語も喋れない癖に?」
つか放せ。
「じゃ、俺が現代語を教えてあげる! 代わりに、翔ちゃんが中国語を教えてよ!」
「何を言って——」
「決まりー!」
にへら、と笑う椎名昴。
まったく。このガキには当分付き合わなければいけないのか。だが、それも悪くはないだろう。