コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。企画・もしも彼らが○○だったら ( No.136 )
- 日時: 2012/01/13 22:44
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
第8章 神威銀の誘惑
挑戦その1。何もなしでやってみる。
「がぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼおぼ」
その2。浮輪を使う。
「あ、浮きました——がぼぼぼぼぼっぼおぼおっぼおぼっぼぼおぼぼ」
何ででしょう。
球技は苦手ですが、足は速い方なんです。陸上競技は案外得意なんです。ハードルだって高跳びだって幅跳びだって出来ます。
読者の皆さま、お気づきですか。
そうです。私・神威銀は泳げません。浮輪を使ってもこのざまです。
「——銀、平気か?」
「うぇ……。れ、怜悟さん。助けてください泳げないんです私ーっ!!」
心配そうな表情をして近づいてくれた怜悟さんに助けを求めてみます。おぉ、案外細マッチョです。
怜悟さんは首を傾げると、浮輪を私にかぶせました。
「これで大丈夫」
「さっきの姿見てました?! 浮輪で泳いでいたらひっくり返りましたよ?!」
なんていう仕打ちですか、神様。あなたを怨みますよ?
すると、それを見ていた悠紀さんが笑いながらやってきました。
「アハハハ。何してるの、銀。面白いぐらいに泳げてないんだけど?」
「う、う〜〜〜!! じゃあ、悠紀さんは泳げるんですよね? 私に泳ぎを教えてください!」
「泳げるよ。当たり前じゃないか」
見てな、と悠紀さんはプールの壁を蹴り、浮かび上がりました。
沈みました。
「ごおぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ」
「悠紀」
怜悟さんは悠紀さんを助け起こします。プールサイドに悠紀さんを寝かせてあげました。
助けられた悠紀さんは、青い空を眺めてつぶやきます。
「……おはなばたけ」
「戻ってきてください悠紀さん!! その橋を渡ってはいけませんよーっ?!」
私より酷い状況になってませんか?
「銀ちゃぁぁぁん!! ねぇねぇ。スライダー、一緒に乗らない?」
「ら、羅さん?! 抱きつかないでください暑いですそして手が胸に当たってますー?!」
いきなり羅さんに抱きつかれて、私は驚きました。
スライダーには行きたいのですが、正直泳ぐのを練習したいですし……。でもどうしましょう?
返答に迷っていると、凛とした声が聞こえてきました。
「放してやれ」
翔さんは呆れたような表情で羅さんに言います。
ですが、羅さんは駄々をこねます。ギューッと私を抱く腕に力が入ります。
「何だよ、イケメン。あたしは銀ちゃんとスライダーに乗りたいんだーっ!!」
「それならつかさと行ってろ。つかさと蒼空はもう3周目に突入してる」
「何ぃ?! こうしちゃいられない、あたしも参戦してくる!! 銀ちゃん、あたしの勇姿を見ててね!!」
「スライダー如きで死ぬ気ですか?!」
どこの戦場ですか。
ともかく、翔さんには助かりました。これで泳ぎの練習が出来ます。
水に浮いてみようと決意した、その時です。
「泳げないなら無理するんじゃねぇよ」
「ひゃ?!」
パシャン、と水を叩く音がして、プールの水が私の背中にかかりました。
髪を高く結った翔さんが、楽しそうに笑っていました。
「な、何をするんですか!!」
「まず基本的な行動は水に浮く事だ。力を入れ過ぎなんだよ」
翔さんは私の肩を掴み、自分の体に寄せました。温かい体温が、肌を伝ってきます。
ドキドキ。ドキドキ。私の心臓が苦しい程鳴ります。
「ほら。足を蹴ってみろ。浮け」
「命令ですか?! ちょ、手を離さないでください怖いです怖いですってきゃぁ?!」
翔さんの手が、私の腰を持ちました。下から支えるようにして、まるでお姫様だっこをするように私を持ち上げます。
このままだ水に沈む——?!
かと、思いましたが沈みませんでした。私の体は水に浮いています。
「浮けるだろ」
「は、ハイ。……がぼっぼおおぼぼ」
「おい?!」
水に沈みかけた私を、翔さんがお姫様だっこで助けてくれました。
……嘘ですよねー?!
「え、あの、翔さん?!///」
「テメェは何で水にも浮けねぇんだよ……」
翔さんはため息をつきます。そして私を立たせてくれました。
「あ、ありがとうございます」
「どうって事ねぇよ。死なれたら困る」
そう言うと、翔さんはフイとそっぽを向きました。
顔、赤くなってないですかね。ものすごい心臓の音がうるさいんですけど。
「あの……翔さん」
「何だ」
「私の事、どう思いますか?」
思わず訊いてしまいました。
翔さんはこちらを向いてくれません。ただ、いつもの凛とした声で答えます。
「ただの人。黒影寮の管理人代理。お人好し。世話好き。銀の鈴」
恋愛対象には入ってないようです。ズキリ、と胸が痛みました。
だが、と翔さんは言葉を続けます。
「放っておけない存在。いつも目で追っちまっている」
「え、」
「まだ分からねぇのかよ。馬鹿だな、理解力が足りねぇんじゃねぇの?」
皮肉を込めて、翔さんは言います。だけど、微妙にその顔が赤いです。
「好きだぜ。テメェが」
「あ、の」
「死神が人に恋心を抱くのは初めてだがな。誇りに思えよ——銀」
ビッチではなく、私の名前を口にします。
ドキリ。また心臓が跳ねました。
その時です。
「見つけたー」