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Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。企画・もしも彼らが○○だったら ( No.139 )
日時: 2012/01/15 15:30
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第8章 神威銀の誘惑


「見つけたー」

 声を発したのは、このプールに似つかわしくない格好をした人でした。暑いというのに、ボディーガードが着るような黒いスーツを着ています。
 スカイブルー色の髪に瞳。口にはトマトジュースのパックをくわえています。ぶらぶらとだらしなく揺らし、気だるげに立っていました。性別は男性です。

「俺の名前は夢折梨央ー。えーと、神威銀ちゃんだよねー? その隣は黒影寮の寮長、東翔さんだよねー?」

「そうだが、テメェは誰だ」

 プールから上がり、水を滴らせる黒髪を掻きあげた翔さんは、夢折梨央さんと名乗った人を睨みつけました。
 梨央さんはニッコリ笑うと、トマトジュースのパックを吐き捨てました。そして左手を掲げます。
 掌から、銃口が見えました。梨央さんはそれを引き抜きます。
 出現したのは機関銃でした。

「ま、痛い思いをしたくなければ大人しくその子を渡せーってな」

 梨央さんは笑いながら銃撃してきました。立て続けに銃弾が襲い掛かります。
 翔さんは舌打ちをしますと、死神の姿になりました。そして炎で銃弾を吹き飛ばします。

「な、何があったの翔ちゃん?!」

「ちょ、おい?! こいつ誰や!!」

 慌てて駆け付けた黒影寮の皆さん。梨央さんを見て困惑します。
 そこへ、お兄ちゃんが駆け付けてくれました。

「銀! 逃げて。こいつから離れるんだ! 『リヴァイアサン』はお前の鈴の力を狙ってるからね!」

「え、銀の鈴の関係者ですか?!」

 この人が? この優しそうな男の人が?
 お兄ちゃんは私をプールサイドに引き上げ、そして背中を押します。

「見たところ、『リヴァイアサン』は1人だけで来てる。今のうちに逃げるんだよ! こいつらは能力殺しなんだから!!」

「の、能力殺し?」

「失礼だなー」

 梨央さんは気だるげに声を発しました。そして私の髪を引っ張ります。
 痛いです! 何なんですか、この人?!

「おっと。乱暴に扱ってごめんよ、神威銀ちゃんー。俺は面倒な事は大嫌いなんだー。だから君が大人しく俺とついてくれば悪いようにはしな——」

「銀から手を放しやがれッッ!!」

 翔さんが鎌をフルスイングして梨央さんをふっ飛ばしました。そして私に手をかざします。

「逃げろ、銀。テメェが狙われてるんだからよ!!」

「しょ、翔さん?! 皆さんも、待って——!!」

 目の前に光が生まれて、私はどこかへ飛ばされました。
 行きついた場所は、暗いところです。スタッフルームか何かでしょう。遠くから銃撃音が聞こえてきます。
 なんて、私は無力なんでしょう。皆さんに迷惑をかけすぎです。この上ない仕打ちです。
 私は壁を拳で叩きました。

「どうして、私は何も出来ないんですか?!」

 非力な私を、恨みます。
 その時です。静かな空間を引き裂くように、着信音が鳴りました。ディスプレイを見ると、知らない番号が出ています。昨日の番号です。
 私は急いでコールボタンを押しました。

『だから言ったじゃないか。プールには携帯を持って行って。黒影寮の奴らとは離れないでって。離れないでよかったじゃん』

「よくないです! 私のせいで、皆さんが傷つくんですよ?!」

 ポロポロと、自然と涙が出てきます。私は電話の向こうにいるであろう男の人に向かって、噛みつくように怒鳴りました。

「今はそんな声、聞きたくありません! 私は、皆さんが心配なんです。何も出来ない自分が恨めしいんです!!」

『何も出来ない訳じゃない。鏡を見てごらんよ』

 スタッフルームには姿見がありました。大きな鏡に涙にぬれた私の顔が映っています。
 何もいません、が。突如、私の顔が笑いました。

「な?!」

「驚いた?」

 私の姿が、だんだんと男の姿になっていきます。な、何ですかこれ?!
 鏡から抜けだしてきた銀髪の男の人は、笑顔で私に近づきました。誰ですか。

「俺の名前は神威鈴。あんたのもう1つの人格さ」

「じ、人格?」

「そう。銀の鈴には2つの人格があってね。1つはあんた。傷を治し、他人の力を増進させる事が出来る鈴。もう1つは俺。神降ろしの鈴」

「神降ろし?」

 そうそう、と頷いて鈴と名乗った男の人は、私に手をかざしました。途端に眠気が襲いかかります。
 まどろむ意識の中、鈴さんは言いました。

「俺はあんたの体を借りなければ神降ろしは出来ない。ごめんな、銀。30分だけあんたの体を借りるよ——」

 そこで、意識は途切れました。



 まぁ、こんなものか。銀は水着だし、あまり体は見ないようにしておこう。
 鏡の中から緋色の扇を取り出し、それを開く。シャリンと音がした。
 30分だけだ。すぐにあの『リヴァイアサン』とは決着をつけてやるさ。

「さぁ行こう。神々よ。俺の命令に従え」