コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。 ( No.14 )
- 日時: 2011/10/11 22:06
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
- 参照: 実は桐生玲は山下愁でしたってオチです。ゴメンなさい。
第1話 ウェルカム、黒影寮。
えーと、私は今、何をしているんでしょうか? ていうか、何をされているんでしょうか。
両手両足を見事に縛られて、車でどこかに運ばれています。
うーん。優しそうなお兄さんに道を尋ねられて、教えても分からないと言うのでそこまで手を引っ張って連れて行こうとしたら、いつの間にか気絶してました。
お人よしというか、常識が欠けているというか……。とにかく、私は馬鹿な事をしましたね。
「ま、大人しくしてもらえれば俺らは何もしねーよ」
「何も、ですか?」
ここでなら絶対服を剥いでくると思ったのですが、どうやらそんな事はないようです。
じゃあ、何をするんですか?
運転をしている男の人——ピアスをまぶたにも鼻にも口にも開けたピアス様が言いました。
「こちとら、お前をおとりとして使いたいだけだし」
「おとり、ですか? 誰をおとりにするんです? 私を人質にとっても家は大して金持ちでもないですし」
そんなに友達もいませんし、学校にも迷惑は——かかりますね。余裕でかかりますね。
ですが、ピアス様は違う、という一言で私の台詞を一蹴しました。
「黒影寮の奴らを呼び寄せられれば、それでいいんだ」
「黒影、寮」
私が管理人を務める寮の名前です。
まさか、この人は黒影寮の事を知っているのでしょうか? 翔さん達も?
「俺みたいな不思議な力を持つ奴らの間じゃ、黒影寮の奴らは警察みたいなものだ」
「そ、そんなにすごいんですか。黒影寮って」
ハハハ、とピアス様は笑います。
「すごいってレベルじゃねぇよ。あいつらは化け物さ。真っ向から挑んで敵う相手じゃねぇ。まして、この町は隠れてはいるがあらゆる能力者がいるんだぜ?」
俺のようにな、とピアス様は付け足します。
ピアス様も何か能力を持っているのですね。私には分かりかねます。
「発見した」
その時、凜とした声がしたと思ったら車が止まりました。
ピアス様は舌打ちをすると、外へ出ます。
私は窓の外を覗きました。
外にあるのは森だけです。黒影寮に繋がる森だけ。そこにピアス様が強張った表情を浮かべながら立っていました。
「本当、怖いよねー」
「ひぎゃあ!」
いきなり体に何かが圧し掛かってきたので、思わずヘッドバッドをかましました。
その向こうでは空華さんが額を押さえながら悶絶していました。
何をしているのでしょう? この人。
「君がいけないんじゃないかー! 俺様、君を助けに来たのに!」
「私に触らないでください。よからぬ事をしてきそうです」
狭い車の中で、私は空華さんから逃げるように距離を取ります。
空華さんはため息をつくと、私の手足を縛っている縄をなぞって切りました。
パラリと落ちる縄。何をしたのでしょうか?
「ん。ちょっとした術を使っただけ。さ、お姫様。お手をどうぞ?」
空華さんはへらりと笑うと、私に手を差しだしてきました。
……信じても、いいのでしょうか? ですが、外を見る限り空華さん1人ではなさそうです。
私は空華さんの手を取りました。
「よし。じゃ、目をつむっててね!」
空華さんが印を結び、聞こえないぐらいに何かをつぶやくと——。
「……あれ?」
いつの間にか私は車の外にいました。空華さんの手をずっと握りながら。
空華さんは私の手を引っ張り、黒影寮の方向へ走って行きます。
「怜悟、睦月! 頼んだ!」
「貸し1つ」
「何か奢れや」
森の中から睦月さんと怜悟さんが現れました。
怜悟さんは身長を超すぐらいに長い刀を抜き、ピアス様に向けます。刀身には青い炎が灯っていました。
睦月さんは遠隔念動力(サイコキネシス)を使ってのなのでしょうか、大きな木を何本も浮かべていました。
「お前ら……汚ぇぞ!」
ピアス様が何かを叫んでいます。
空華さんはピタリと足を止めると、ピアス様の方へ向きました。瞳は先程のへらへらとした様子はありません。どこまでも冷ややかな氷の目です。
「汚いのはどっち? ていうか催眠術なんてよく出来たね。君さ、悠紀と同じ『言葉使い』でしょ? それを使って攫おうなんてよく考えたね」
空華さんは鼻で笑うと、懐から真っ黒なナイフを取り出しました。
あれは、苦無ですね。
「分からせてやるよ。お前がどれだけ無力かってのを」
空華さんは苦無をピアス様に投げつけました。
ピアス様は空華さんが投げた苦無を弾きますが、視線の先に空華さんはいませんでした。
「ハイ、残念」
ドンッと空華さんはピアス様の首筋に手刀を叩きこむと、ピアス様を気絶させました。
結局、睦月さんと怜悟さんの助けなしで、ピアス様をやっつけました。
***** ***** *****
「黒影寮のみんなに、何て言えばいいんでしょう」
監視するならどうぞって言って出てきちゃいましたし……。
今更、のこのこ帰れるのでしょうか。
すると、空華さんがへらりとした笑顔を浮かべました。
「大丈夫でしょ。だってみんな優しいし」
「本当ですかね」
「本当も本当。だったら助けになんか来ないで的確に相手を殺ってから帰ってるよ?」
空華さんは私の頭を撫でました。
お兄ちゃんのような感じがしました。フッと心が軽くなったような感じがします。
「黒影寮へようこそ。銀ちゃん」
ここから、私の管理人生活が始まります。