コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。企画・もしも彼らが○○だったら ( No.158 )
日時: 2012/01/26 22:09
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第9章 本当にあった黒影寮の怖い話


「と言う訳で。次は怜悟だな」

「……6歳の時の話」


 赤い月の時に〜怜悟視点〜


 俺は昔から幽霊が見えたし、話せた。だから基本的に1人でいる事が多かった。
 でも友達なんかいなくても平気だった。いじめも幽霊から情報を引き出し、そいつをボコせば何とかなったから。
 ある時、俺はベランダを見てみた。

「……月が」

 赤かった。まぎれもなく赤い。
 まるで血のように毒々しい程の赤——。

「……寝よう」

 さすがに見間違いだと思ったが、次の日学校へ行くと赤い月で話題が持ちきりだった。
 どうやらこれは、見間違いではないと思った。
 サチコから情報を聞こうと思ったが、彼女も知らないらしい。赤い月については誰も知らない。
 嫌な予感がした。俺は、親父が当時使っていた刀を持ちだして、夜まで待った。

「……赤い」

 深夜、南の空に浮かんでいた月は赤かった。見事なほどに赤い。
 その時、俺の後ろで足音がした。
 キュッとかいう靴の音じゃない。ペタッていう音だ。不気味な音だった。
 後ろを振り向くと、女の子がいた。頭から血を流した。

「誰だ」

 刀を構え、問いかける。
 女の子は耳元まで裂けているんじゃないかと思うぐらいの笑みを浮かべる。目を見開き、頭から血を噴出させている。
 怖い。今まで感じた事ない恐怖が感じ取れた。

「……って」

「ハァ?」

「私を斬ってぇぇぇえ!」

 何がなんだかさっぱりだった。理由を聞くと、そいつはどうやらいじめられて死んだらしい。だから成仏したいのに出来ないから斬ってくれと頼んだのだ。
 いや、別に構わないがな。その苛められた理由ってのが。

「……いじめてほしかったから?」

「そうなの」

 変人さんだった。つかドMだった。
 そいつは成仏させたが、なんかもう月を見るのも嫌になった。


「睦月が怖い」

「何でや!! 何でワシが怖いねん! ドMをなめんな!」

「自分でドM言ってどうするの。次は僕の話ね。これは僕が12歳の時なんだけど」


 LOST TIME〜悠紀視点〜


 最初に小説を書き始めたのが小学校6年生の時。国語の授業で物語を書こうっていう馬鹿げた勉強をしていた。
 それで僕は、とある1本の小説を書いたんだ。
 自分を主人公に見立て、小説を書く。その小説は、自分の知らぬ間に更新されているっていう話。
 ただの馬鹿げたホラー小説だった。それをパソコンに打ち込んでいたんだ。
 気がつくといつの間にか12時過ぎ。もう寝なくちゃ、と思いベッドに入った。

 翌日。僕はパソコンを開いて小説の内容を確認する。そこで「あれ」と思った。
 更新を止めたのが12時過ぎ。だけど、最終更新時間は12時半になっている。
 おかしいな。
 更新は確かに止めたはずなのに。

「気のせい?」

 だけど、それは気のせいじゃなかった。
 話の途中——ノートに書いた文章と照らし合わせる。続きを書いていたのだ。
 内容が全く同じなのだ。一字一句違わない。

「ちょっと、これってどういう意味なのさ」

 僕はさすがにおかしいって思った。だから少しだけ力を使う事にしたんだ。
 この時から、僕は言葉使いの力を持っていた。コントロールもそれなりに出来ていたし、力を入れようとしなければ大丈夫だから。
 息を吸い込み、虚空へ問う。

「【姿を現せ】!」

 幽霊に命令するつもりで言霊を放つ。
 すると、バツンと電気が消えて、辺りが真っ暗になった。パソコンだけが不気味に輝く。
 僕の後ろにあるパソコンのキーが、突然音を立て始めた。カタカタと勝手にタイプされて行く。

「?!」

 何を呼び寄せたのかと思ったね。
 じっと見ていると、そこには男の子が座っていたのさ。髪の短い、華奢な体躯をした男の子。まるで病気で死んだようだ。
 その男の子は僕の事に気づくと、振り向いた。

「ねぇ、この小説。君の?」

「……そうだけどさ。何? めんどいから成仏を手伝ってくれなんて言わないでね」

「言わないよ」

 その男の子は力なさげに笑うと、パソコンのディスプレイをなでた。愛おしそうに。

「これね、昔は僕が使ってたの」

「だから?」

「少し未練があってね。これについてきちゃってた」

「迷惑な奴だ」

 ていうか帰れ。さっさと光の速さで成仏してくれないか。

「お願いがあるんだ」

「どんな? 面倒な話だったら聞かないよ」

「確かに面倒だと思うけど、君にならきっと出来る。だってこんなすばらしい作品を見せてくれたから」

 男の子は笑うと、用件だけを告げた。そして消える。

「小説家になって。僕は、小説家になるのが夢だったんだ——」

 パソコンには話の続きが打ちこまれていた。僕が打ったんじゃない、オリジナルだ。
 主人公はこのパソコンに気づき、幽霊の男の子を成仏させる話。
 その幽霊の男の子は、まさしく俺に小説家になるように言ってきた野郎そのものだった。

「……面倒くせー」

 だけど、悪くない夢だった。
 いいだろう。頑張ってやりますか、その小説家とやらに。

「これが、僕が小説家を志望したきっかけです」

「きっかけかい!!」