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Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。企画・もしも彼らが○○だったら ( No.215 )
日時: 2012/02/12 21:38
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
参照: バレンタイン? 何それおいしいの?

第10章 突撃☆隣の国のマフィアさん!

〜視点なし〜


 リネは何かに気付いた。ふと視線を上げると、何やら黒影寮の連中がおかしい。
 ひそひそとこちらを見て話し合っている。
 神威銀でも渡す気にでもなったのか?

(……そうではありませんね)

 リネは小さなため息をつくと、手に持っている短剣を消す。そして新たな武器——長い柄のついた斧を作り出した。現世に自分が作り出した武器を固定するなど、彼女にとってはお手の物である。
 金髪を揺らし、リネは斧を構えた。そして怪訝そうに眉をひそめる。
 話し合いをしていた黒影寮の連中が、全員こちらに目を向けている。うち1人——堂本睦月だけは自分を指差している。

「——まさか!」

 嫌な予感が駆け抜ける。リネはバッと右へ飛んだ。
 ズズン、という重量を感じさせる音を響かせ、大きな岩がリネの今までいたところに落ちる。あと数秒遅れていたらペチャンコになっていた。

「チッ、外した」

 睦月の舌打ちが彼女の耳に届く。念動力でも使ったか。
 リネも同じように舌打ちをすると、斧を右手だけで持つ。左手には投げナイフを作り出した。

「逆らうなら——死になさい!」

「『気を操る神よ。降臨せよ!』」

 鈴の声に反応し、鏡から男性が飛び出してくる。
 黒い長髪を風に揺らし、こちらをだるそうな銀色の瞳で睨む30代前後の男性。服装はパジャマ。

「ディレッサ! あいつの力を食らえ!」

「無理」

「そんな事を言うなよお前! 嫌ならあいつを押さえろ。やる気をなくせ!」

「んー。じゃあ100万よこせ」

「お前本当自由だなオイ!」

 扇でディレッサと呼ばれた男性を殴りつける鈴。体は銀なのに。
 リネはなるべくディレッサから離れる事にした。彼女は地面を蹴り、屋根に上る。だが、そこで待っていたのは意外な奴だった。
 赤い髪をたなびかせ、にやにやとした笑みを浮かべる少女。

「んー。敵じゃなかったら抱きついてなでなでしてたかもしれないけど」

 羅はパチンと指を弾く。
 その瞬間、リネの周りに生まれたのは色々な物体だった。岩もあれば木もある。パンダもいる。瓦もある。

「重力操作、増加ァ!!」

 それらは重力に逆らえずリネに降り注ぐ。蒼空の力によってかかる重力を増している為か、屋根に穴が開いた。

「ッ!!」

 ガードしたリネだが、足場が物体によって壊されてしまい家の中に落ちる。

「家の中じゃ逃げられないよな?」

「な、!」

 その位置で待ち伏せしていたのか、そこにいたのは翔と紫月だった。翔の手には炎に包まれた鎌。紫月の手には雷のボールが握られている。
 リネは顔色を変えた。
 まずい、これでは死んでしまう——。

「大丈夫さ。死なないように努力はする。時間稼ぎだしな?」

「そうそう。翔にいの言うとおり」

 翔と紫月は同時にリネを吹っ飛ばして庭に叩きだす。
 ゴロゴロと地面を転がったリネが見たのは、鈴と残りの黒影寮に守られている誰かの姿だった。
 ぼさぼさの黒い髪。ディレッサかと思ったが、違う。右目に眼帯をして、本来あるエメラルドグリーンの瞳は閉じられている。汚れることもいとわず、地面に正座して一心不乱に何かを唱えている少年の姿。
 王良空華。
 リネが知っている情報によれば、あの我流忍術使い。

「ま、さか!」

 空華が唱えている呪文に耳を傾けると、彼が紡ぐ言葉は能力を殺す意味の言葉が込められていた。

「『この場において創造する事を禁ず。新たにものを作りし者に罰を。枷を。
 この場において創造したものを悪として使用する事を禁ず。悪に罰を。罪を。咎を。
 この場において許されるべきものは、人を正す事として使うものだけとする』——」

 つまり。
 自分の力を使えなくする為の、新たな術式。

「っ! させるものですか!」

 リネは素早く刀を作り出そうとしたが、遅かった。
 もうすでに、空華の術は完成していた。

「『発動せよ。能力殺し——創造主の章』」

 どこかでバキン、と音がした。刀が生まれない。リネは、力が使えなくなってしまった。

「銀の事は諦めるんだな」

 リネの首元には、翔の鎌と昴の足、そして日出の氷の刃が当てられていた。
 苦渋の表情を浮かべ、リネは立ち上がる。

「仕方がありません。今日のところは引き返します。ですが——」

 リネはふと、顔を上げた。その視線の先にあったのは、本来知らぬ事を目の当たりにした一般人。
 東家の舎弟。

「普通の人に力がばれてしまいましたね? 黒影寮の皆さま」

 リネは嫌味っぽく言うと、傷だらけの体で空を飛ぶ。
 次の瞬間、絶叫が起きた。