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Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。大ヒット御礼、劇場版展開! ( No.255 )
日時: 2012/03/07 21:48
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
参照: 今度の規格は何にしようか考え中。

劇場版 第13章


 リネを連れて帰った(拉致した)一行は、元のホールに戻る事にした。同時に膨大な量の水が襲いかかってくる。
 彩佳の氷の力で体の1部を凍らせ、武器を出せないようにしたリネを全員の前に突き出す。

「で、どうしてこいつを連れてきたんや?」

 睦月は首を傾げてリネを見やる。

「王良空華様の子孫を知っているとの事でしたので」

 瀬野翔が全員を代表して答えた。
 リネは唇を尖らせて、

「何で私は縛られているのですか? 訳が分からないんですけど!」

「だって暴れるじゃない。下手したらここの全員即刻お陀仏っていう事になりかねないからね。鈴、ディレッサを出してくれない?」

 空華はそこでボーとしていた鈴に頼む。
 鈴は「りょーかい」と適当な答えを返して緋色の扇を振った。ディレッサが欠伸をしながら姿を現す。

「で、何で俺が呼び出される訳?」

「この子の力を一時的に奪ってくれないかな。ほら、襲ってくると危ないじゃない?」

 なるほどねー、とディレッサは頷くと、パチンと指を弾いた。
 リネの体から白い玉みたいなのが出てくる。それはディレッサの口の中に吸い込まれていった。

「とりあえずガムみたいに噛んどくわ。話が終わったら言って」

「帰るつもりじゃないよな?」

 パジャマの襟首をグイッと掴んで、鈴は笑顔でディレッサに問いかけた。
 その2人を置いといて、白刃がリネに質問をする。

「その子孫について何か知っている事はない?」

「さぁ。上でちらっと聞いただけですし。でも確かに分かるのは、王良閃華という名前と女王に手を出した罪で国外追放されたっていう事ぐらいです」

 国外追放って何をしたんだ。全員で思ったが口にしなかった。
 リネの説明はまだ続く。

「まぁこの辺りは海ですし。もう少し遠くに行けば何かあるかもしれないですよ。噂では外からの来国者専門の入り口がかなり遠くにあるようですし」

「入り口?」

「あれ、上にいたのに知りませんか。女王の婚約者は外からの来国者ですよ。もちろん、あの優亜様って言う人もね。あの人も来国者なのでは?」

「あの人は俺と燐の主だ。勝手にここの世界の人にするんじゃねぇ」

 瀬野翔がドスの利いた声で言った。

「確かに私は言いましたよ。では、能力を返してください」

「あ、ごめん。飲んじゃった」

 ディレッサはてへぺろー、と笑って言った。リネの表情が固まる。
 鈴はやれやれと首を振ると、ディレッサの腹部に拳を叩きこんだ。連続で。何度も。

「テメェェェェェェ! 吐きだせ、吐きださないと殺されるぞ!!」

「ぐぶっ?! 何を、俺は吐きだすと言うスキルなんぞ——おぼろろろろろろ」

「よぉし。この白い玉だ! リネ、返す! ややドロドロだけどまだ消化されてないから!」

「な、なんか嫌です気持ち悪いです!」

「つべこべ言わずに飲み込め馬鹿ぁぁぁぁあ!」

「ぐぶ————!!」

 無理やりドロドロした自分の能力を飲みこまされ、リネは失神した。その近くでは、羅が「鈴かっけー」と言っていた。
 空華は自分の子孫について思考をし始める。
 王良閃華。どういう人物なのだろうか。自分と似ている人物なのだろうか?
 だとしたら——自分と同じように黒い過去を抱えているのだろうか。

「もうじきに夜になる。今日のところは寝るぞ。簡易ベッドがある」

「交替とかは?」

「ここは襲撃されないぞ」

 未来の翔は全員に指示を送り、寝る事にした。
 だが、空華は他の事を考えていた。ていうか作戦を立てていた。みんなが寝静まったあと、1人で王良閃華を探しに行こうと。
 一刻でも早く、銀を救う為に。

***** ***** *****

 真夜中。空華は目を覚ました。
 全員寝ている。よし、と空華は1人で頷くともそもそと簡易ベッドから這い出る。足音を立てないのは忍びの役目だ。
 その時だ。

「行くッスか」

 突然声がかかり、空華は肩を震わせる。
 闇に輝く白い髪。白亜だった。

「白亜ちゃん……悪いけど、お前は連れて行けないかもよ?」

 空華はみんなに聞こえないような小声で言う。

「分かっているス。私が皆さんみたいな能力を持っていない。だから王良閃華探しは私は協力できないッス。だけど、これだけは分かってほしいッス。死ぬ気ッスか?」

 白亜は平坦な声で問いかけた。
 空華は押し黙る。死なない保証はできないからだ。

「……神威さんが悲しむってわかっていても、あなたは死にに行くんスか?」

「死にには行かないよ。銀ちゃんを救うまで、俺様は意地でも死なないつもりでいる」

「こんな深い水の中、どうやって行くッスか。あなたの術でも使うんスか、その右目を」

 空華は眼帯の上から右目を押さえる。この右目は全てを殺す力がある。水も殺せるかもしれない。
 だけど——

「これは呪いだ。あまり乱用する訳にはいかないんだよ」

「……そうッスか。だったら何も言わないッス。ただこの人は連れて行ってくださいスよ」

 ごそごそとベッドに潜り込む白亜。
 この人って? と振り向いた空華の目線の先にいたのは、蓮だった。下半身が人魚になっている。

「おう、行くんだろ」

「蓮……。どうして」

「どうしてって。全員の考えで『空華はまた抜け出して行くだろうからお前行け』ってな。だから俺が人魚になって行く事になったんだよ」

 ほら、と手を伸ばす蓮。

「俺だってな、黒影寮の人間なんだぜ? 肉体変化を舐めるなよ」

「……ハァ。1人で行くつもりだったけど、別にいいか。その力頼らせてもらうよ」

 蓮の腕を掴み、空華は水の中に入る。

「行ってらっしゃい。生きて帰ってくるッスよ」

「もし他の奴ら起きたら言っといて」

「何を言っているスか。全員の考えはメイドさんも執事さんもルーキーさんも入っているッスよ」

 あぁ、そうなんだ。