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Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。大ヒット御礼、劇場版展開! ( No.258 )
日時: 2012/03/08 22:16
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
参照: 今度の規格は何にしようか考え中。

劇場版 第14章


 人魚になった蓮は早かった。めちゃくちゃ早かった。
 10秒も立たずに水面に出て、空華は息を肺に取り込む。蓮の肩にはつかまったまま。

「大丈夫か?」

「は、早すぎ」

 途中で離れそうになった空華である。
 水面から空を見上げれば、とても綺麗な星空がそこにあった。スクリーンでは表現できないだろう星屑が散らばり、紺青の色がとても鮮やか。
 呆気にとられた2人は、しばらくその星空を眺めていた。

「……そこにいるのは誰ですか」

「「!!」」

 2人はバッと振り向く。
 水面に人が浮いていた。フードをかぶっていてよく表情は見えない。長身で細い。手には小太刀と苦無がそれぞれベルトにつけられている。
 忍びか。

「誰だ、お前」

 蓮が問いかけた。今の彼は水中では最速の人魚だ。いざとなればドラゴンにだって変身できる。
 そのフードをかぶった人物は、小太刀を抜いた。

「……もしかして、先祖の王良空華さんですか。その背中に背負っているのは」

「俺様に何か用? 殺しにでも来た?」

 空華は敵意むき出しで人物に言う。
 だが、人物が言ったのは真逆の答えだった。

「先祖様! お会いしたかったです!」

「ぶぎょ?!」

 いきなり水面から引き上げられ、空華は変な声を上げて驚いた。何が起きた。
 人物はフードを取る。その下にあった顔は、まさしく空華と同じものだった。

「お、前」

「子孫の王良閃華です。よろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げる王良閃華と名乗った人物。
 空華はとりあえず、水遁の術を使って水面に立つ。蓮はそのままで聞いていた。

「まさか、神威涙の事を知っているのか?」

「……涙を連れて帰ろうとするのか?」

 とたんに声が変わる。閃華は小太刀を空華の首筋に立てた。

「涙は、渡さない!」

「落ち着け! 俺様達も理由があって——」

「理由など関係ない! あいつを守る為ならば、先祖のお前も殺す! あいつは、あいつは国外追放された俺の為に、地位も名誉も国も捨ててここまで来たんだ……!」

 閃華は涙目で抗議する。その声は必死だった。
 さすがに空華は反論できなくなり、押し黙る。

「……理由を話してくれ。それで決める」

「おい、空華!」

 蓮が下から文句を言うが、空華はそれを無視した。

「……俺は涙を好きになり、お忍びで城まで会いに行った。何回も何回も。でも回数を重ねるごとに警備が厳しくなり、突破しづらくなったんだ。あいつの親父さんが気づいたんだよ」

 閃華の話はこうだった。
 自分を支えてくれた神威涙を好きになった閃華は、クイーンズ・オブ・キャッスルまで何度も会いに行った。でも、会いに行くたびに警備が厳しくなって行く。
 だがしかし、ついに閃華は涙の父親に気づかれてしまったのだ。
 当然身分の違う恋。閃華は国外追放の刑へ処されてしまう。それを追いかけるように、涙は国外へ飛び出したのだ。

「だから……あいつを連れ戻しに来る奴は、全員斬った」

「そうか。じゃあ、今の女王が神威涙の先祖が代わりを務めているとしても、まだ守ると言うのか」

「……先祖さんが?」

 今度は閃華が押し黙った。数秒考えたあと、答えを出す。

「……分かった。涙に会わせてやる。彼女に訊いてみて」

「感謝する。行こう、蓮」

 閃華の後に続き、2人は歩いて行った。

***** ***** *****

「閃華、お帰り!」

 駆け寄ってきたのは、銀髪のセミロングで黒い瞳を持つ少女だった。
 ここは洞穴のようなところだ。閃華が自ら作った空間らしい。

「ただいま、涙」

「……その人達、誰よ」

 怪しげな目線を向ける涙と呼ばれた少女。

「俺の先祖様とその友人」

「何だ。捕まえに来た訳じゃないのね」

 涙はほっと安堵の様子を見せた。
 空華は何だかいたたまれない気分になった。この少女に説明するのか。

「あの、神威涙様だよね?」

「そうよ」

「神威銀ちゃん。知ってるよね。お前の先祖。今、銀ちゃんが女王の役目を担っている」

 涙の笑顔が凍りついた。

「女王……連れ戻しに来たの?」

「そういう訳じゃない。ただお前に協力してほしいだけ」

「協力? 何それ、結局は戻れって事じゃない! 私は嫌、閃華と離れたくない!!」

 涙は金切り声を上げる。そして空華の体を突き飛ばした。

「テメェ、このクソ女! 空華に何しやがる、八つ裂きにしてやろうか!」

 腕を狼に変えた蓮が、涙に怒鳴った。
 涙は半泣きの表情で、さらに叫ぶ。

「出てって! 閃華と私の間を邪魔しないで!」

「……そうかい。だったら諦める」

「おい、空華! こいつ、気絶させても連れて帰ろう。むかつく!」

「むかつくからって無理やり連れて行ったら銀ちゃんが泣くでしょ。私の子孫を泣かせてーっ! とか言いそうじゃん。だけど」

 空華は最後に、

「俺様は、好きな人と恋愛できないなら自分で国を変えてやるね。その力を持っているなら」

 意味深長な台詞を吐いて、海へと消えた。
 蓮は舌打ちをして、その背中を追う。外に出れば、やはり夜空が広がっていた。だが、だんだんと明るくなりつつある。

「……どうする?」

「帰るよ」

「どうして。あの女、連れて帰らないでいいのかよ」

「それより危ない事になったよ」

 空華は防水術式を組んだ携帯を見やった。画面に映し出されていたのはメールの画面。昴からだ。
 内容は——銀の結婚式が鏡に執り行われる事。

「……さぁて、ヘタレな蓮君。君は国を相手に喧嘩できるかな?」

「できるに決まってるだろ、馬鹿」

 蓮は即座に人魚へ変化して、空華を背負う。そして海にダイブして元来た道をたどって行った。