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Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。ただいま祭り開催! ( No.277 )
日時: 2012/03/18 19:59
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

黒影寮でシンデレラ


「ったくよ、あの魔女ども。いや、魔法使いども。そこまでして行かせたいか?」

 シンデレラはぼりぼりと銀髪を掻きながらお城の中へ入って行く。どうやらあの2人のおかげ(せい)で、チケットなしで行けたようだ。
 広いホールで繰り広げられているのは、男女のワルツ。響き渡るのは荘厳なオーケストラ。
 シンデレラは感嘆した。
 まさか城ってこんなものなのか。

「いや、でも俺は踊れないぞ。舞なら負けないが」

 扇を持って踊る舞ならともかく、ワルツなんかシンデレラは踊れなかった。
 仕方がないのでそこら辺の食べ物を胃袋に詰め込んでさっさと帰ろうとした。

「お、そこのお姉さん可愛いね!」

「うぎゃ?!」

 変な声を上げてしまったシンデレラ。振り返ってみると、赤い髪に白い瞳のタキシードを着たいわゆる王子様が立っていた。
 シンデレラは硬直した。
 何でこの局面で王子様が登場するんだ。

「あたしと踊らない?」

「無理」

 バッサリと切り捨てて、シンデレラは夕食を開始。
 もちろん、この『無理』という言葉の意味は『(ワルツなんか踊れないから)無理』という意味合いである。
 だが、王子様はその意味合いが分からなかったらしく。

「どうしてだよー、踊ろうよー」

 ぐいぐいとシンデレラのドレスを引っ張る。
 シンデレラは口に含んでいたローストビーフをのどに流し込み、腹がいっぱいになったところで王子様の方へ振り返った。

「俺は踊れないの。舞なら負けないけど、ここに扇なんかないでしょ。緋扇は銀が持ってるしさ。だから他の人のところに行きなさい。他の」

「嫌だ。君がいい、マジ可愛い」

「あれ、もしかして俺って俺っ娘ていうカテゴリーに入れられてる?」

 まぁそんな姿だからな。
 シンデレラは王子様の誘いを流しつつ、何気ない気分で時計を見やった。そしてハッと気づく。
 時計が12時を指そうとしているではないか。

(シンデレラって12時になると魔法が解けるって言うよな。そうだよな。そしたら俺——素っ裸?!)

 いやー、お婿に行けないと考えたシンデレラは慌てて城から飛び出した。
 だがそれを追いかける王子様。意地でもダンスを踊りたいらしい。

「待ってよ、君の名前は何?」

「それぐらい分かるだろ、黒影寮の劇ってこんなものなのか?!」

 シンデレラは長い階段を駆け降りる。
 すると、ドレスのすそに躓いてシンデレラは階段を転げ落ちてしまった。その際にガラスの靴が片方すっぽ抜ける。

「げ、まぁいいや。じゃーな、王子様!」

 鐘が鳴る前に馬車に飛び乗ったシンデレラは、そのまま去って行った。
 王子様はガラスの靴を片方手にしたまま、立ちつくしているしかなかった。

***** ***** *****

 その次の日。

「シンデレラ、何やら外が騒がしいようですが……」

 継母が窓の外を見ながら首を傾げる。
 シンデレラは買い物から帰ってきたので、その理由を知っていた。王子様がガラスの靴を片方手に街へやって来ているからだ。

「王子様がガラスの靴を持って来てるらしいスよ?」

「ガラスの靴?」

「何でも、美しい娘さんが落として行ったらしいですけど」

 姉の2人が継母に説明する。
 シンデレラはそれどころじゃなかった。まさかこんな事になろうとは。
 すると、家のベルが鳴る。

「はいはい、誰ですか?」

 2番目の姉がドアを開いた。不法侵入してきたのは、まさかの王子様。
 王子様は家に響き渡るように声を上げる。

「この靴がぴったり合う女性を探している。心当たりはありませんか、美しいマダム」

「ハァ。あの、分からないのでお引き取り願ってもいいですか?」

 継母はバッサリと王子様の質問を切り捨てた。
 シンデレラは王子様の姿を見た瞬間、こそこそと逃げようとした——が、

「そこの娘。この靴を履いてはくださいませんか」

「ハァ? どうして、何で」

 いきなり王子様に止められた。シンデレラ仰天。
 姉に押されて王子様の前に出されたシンデレラは、しぶしぶガラスの靴を分捕って足に履いた。
 見事ぴったり。

「ほら、これで満足か?」

「おぉ。君がそうだったのか! 君、名前は?」

 きらきらした目で問いかける王子様。
 シンデレラは面倒くさそうに、「シンデレラです」と名乗った。

「じゃあシンデレラ。あたしと結婚してくれないか?」

「ハハハ。だが断る」

「え、いいじゃん。結婚すればいいッス。この先、お嫁さんもらえなくなるッスよ?」

「そうですよ。大丈夫です、僕らもついて行きますしね」

「行くのかよ、おいおい! マジかよー!」

 半ば強制的に、シンデレラは王子様と結婚しましたとさ。めでたしめでたし。