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Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。ただいま祭り開催! ( No.282 )
日時: 2012/03/20 14:30
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
参照: いつの間にやら1400突破ってすごくね?

第11章 王良家こんぷれっくす!


「ひめねーまってー」「待たないよーだ」「姫、足速ぇー」

 広い庭をはだしで駆け回る姫華ちゃんと水華ちゃんと炎華さん。いえ、炎華君の方がいいですよね。
 先ほどから忍術とかそういうのは使う気配はなさそうですけど……本当に忍びの一家なのでしょうか?
 のんびりと3人が遊んでいるところを見ていると、姫華ちゃんが駆けよってきました。
 姫華ちゃんは翔さんの黒髪をいきなりグイーと引っ張りました——って何やってんですか?!

「お兄ちゃん、遊ぼうよー」

 ぐいぐいと姫華ちゃんは翔さんの髪の毛を引っ張ります。怖いもの知らずですね!
 すると、翔さんが姫華ちゃんの手を振り払いました。あぁやっぱり。
 この状況で死神の力で空華さんの妹さんをぶった切るとかそんな事はないですよね、まさかそんな事は!

「何すんだ、クソチビ」

 翔さんは姫華ちゃんの額にデコピンをかましました。

「うゆー。だって遊んでほしいんだもんー」

「分かったから髪の毛を引っ張るな。あほ」

「あほじゃないもん、姫華だもん!」

 ぶぅと頬を膨らませる姫華ちゃんの栗色の髪の毛を、翔さんは乱暴になでました。
 姫華ちゃんは猫のようにゴロゴロとのどを鳴らします。可愛らしいです。ていうか翔さんの珍しい反応です。

「あー、俺下の兄弟がほしかったんだよな。弟でも妹でも」

「姉と母に植えつけられたトラウマがあるのに?」

 姫華ちゃんの頭をなでながら、翔さんはぽつりと漏らします。その台詞を聞き逃さなかった昴さんが、すかさず反論しました。

「小学生ならまだイケる」

 アウトラインは中学生からですか。
 姫華ちゃんに腕を引っ張られて、翔さんは3人の輪の中に入れられました。だ、大丈夫でしょうかね?

「大丈夫でしょ。翔ちゃんは無類の子供好きだから。しっかし妹がほしかったとは知らなかったな。美羽さんが言ってたのかな?」

 昴さんは軽く笑いながら、子供に交じって遊ぶ翔さんを見ていました。
 それに何やら睦月さんも交じります。そう言えば、睦月さんは弟がいると言っていましたね。結構年が離れているのでしょうか。
 うーん、私はお兄ちゃんしかいませんからね。他は従兄弟がたくさんですし。正直兄弟とか姉妹とかあこがれてはいるのですが。

「こういうのは慣れてない?」

「くう、か、さん?」

 ん、どうしたー? と空華さんは首を傾げました。
 今空華さんが着ているのは、白い着物です。いつも黒い衣服を着ている空華さんとは真逆です。

「あ、これから修行だからね。白装束?」

「死に装束っぽい」

「言うなよ、怜悟」

 正直な感想を述べた怜悟さんを、空華さんはじろりと睨みつけました。

「兄さん、行きますよ」

「ほいほい。じゃ、頑張ってくるねー」

 空華さんは天華さんのあとへ続き、廊下の奥へ歩いて行きました。これから何が始まるのでしょうか。

「空華兄ちゃんまた修行ー? 大変だねー」

「うっせーお前も修行を怠るなよ炎ー」

「怠ってないもん毎日やってるもん」「姫もやってるもん」「すいもやってるよ」

 庭先から何やら修行修行と聞こえるのですが、修行って何をやるのでしょうね?
 すると、綺華さんが、

「興味があるならついて行けばいいじゃない」

 と言いました。
 ついて行けばいいじゃなって、簡単に言いますね。

「ま、兄さんに幻滅したくないんなら見ない方がいいわね」

 綺華さんはそれだけ言いますと、スタスタとどこかへ行ってしまいました。
 ……本当に気になりますね。空華さんの修行。

「行ってみようぜ! 俺も興味ある!」

 蒼空さんがガバァと立ち上がりました。目がきらきらと輝いています。
 黒影寮(翔・睦月除)も興味があるらしく、空華さんと天華さんが歩いて行った方へ足を向けました。

 〜翔視点〜

 空華の野郎、夏休みに帰省はよく聞くが、どうしてかたくなについて来させたくなかったんだろうか。
 まぁどうでもいいか。あいつにも事情はあるだろうし。

「くーかにー、なんのしゅぎょーするのー? またちだらけになるのー?」

「さぁ? 天華兄ちゃんが言うには『記憶の仕事人』の補充らしいけど」

「詠唱長いからなー、空華兄ちゃん声ガラガラになるよ。すーぱーどりんくを作るー?」

「イモリの黒焼きなんか手に入るかー?」

 何やらガキ達がうるさいが、一体何を補充するんだ?

「『記憶の仕事人』っていう術式。えーと、何だったかな。記憶のカイザーだっけ?」

「改竄な。カイザーって、皇帝かよ」

「そうそれ。兄ちゃんは色んな術式を覚えてるから、色んな詠唱をできるんだよ。国語が弱いから自分で術式を作るのは苦手らしいけど」

 炎華、と名乗っていたガキが言う。
 空華は一体何者なんだ? どれだけ記憶力がいいんだ?
 血だらけになるって言っていたが、あれは一体どういう意味だ。

「中には血だらけになる術式もあるんだよ。反動って奴?」

「そうか。空華ができる術式っていくつあるんだ?」

 炎華は指折り数えて行く。

「創造主に狙撃者。演奏者にさっきの『記憶の仕事人』でしょ。シャーマンじゃないけどメディウムならできるし、錬金術もできるし、魔法陣もできるし、体術もできるし呪術もできるし変身術もできる爆弾も作れるし、兄ちゃんには全員敵わないんだ、何でもできるから」

 すげぇできるな。できないのもあるだろうけど。
 炎華はへらりとあどけない笑顔で、

「兄ちゃんはさいきょーなんだぜ! 何せ、当主だしな!」

「当主だからって強いのか。すごいなー」

「あたりめーだ! お前なんかひとひねりだぜ!」

 テメェをひとひねりしてやろうか、クソガキ。
 ん? そう言えば、銀達はどこへ行った?

 〜銀視点〜

 襖の間から覗くと、部屋の中は真っ暗でした。何やら幾何学模様の上に、空華さんは座っています。
 空華さんの前に置かれているのは、古い本でした。題名は読めません、何と書いてあるのでしょうか。

「『まず1つに、人の記憶を司る神に告ぐ————』」

 訳の分からない言葉が紡がれます。
 一体、これは——。

「何をしているのですか?」

「て、天華、さん。これは」

「これこそが修行です。詠唱をする事によって術式を取得する。それが王良のやり方です。少し辛いですけどね?」

 天華さんが部屋の中を指し示します。
 部屋の中央にいた空華さんは一心不乱に詠唱を続けていますが、何やら表情が苦しそうです。

「術式を取得するにはそれ相応の痛みに耐えなければなりません。今の兄さんの体には、無数の切り傷がありますよ?」

 見れば白い着物には、いつの間にやら赤い線が走っていました。