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Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。ただいま祭り開催! ( No.300 )
日時: 2012/03/31 21:48
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第11章 王良家こんぷれっくす!


 〜鈴視点〜


 空華の演奏するヴァイオリンの音色が、夜の京都に響き渡る。
 何だか、切ない歌だった。
 確かボーカロイドとか言ってたっけ? 優姫さんが言っていたような感じがするんだけど。まぁいいか。

「風に揺らいでひらり舞い散る。君の肩越しに紅一葉〜……♪」

 綺麗な歌声。男子なのに原曲のキーを歌ってやがる。どこまで出せるんだ、その声は。地声は翔の方が高いが。
 すると、相手のノア・ウミザキは顔をしかめた。

「あなたも……演奏者?」

「そうですよ。王良家当主は、このぐらいできなくては当主になれませんので!」

 天華が手に向かって何かをつぶやく。紫色の言霊が出てきたかと思うと、剣の形をなす。
 それってもしかして——呪言(ジュゴン)?
 人を惑わせ、狂わせるあの呪われた言葉?

「昴さん。確か、闇の踊り子でしたよね?」

「へ? あー、うん。まぁ」

 いきなり質問された昴は、戸惑いながらも答えた。
 天華はその呪言で作られた剣を昴に渡す。

「これでノア・ウミザキを斬ってください。呪いの言葉をかけました。あなたなら適性するはずです!」

「これで……? よし、任せて!」

 昴は剣を構えると、人間とは思えない脚力を使って空を飛んだ。そしてノア・ウミザキへと刃を向ける。
 ノアはチッと舌打ちをすると、フルートを構えた。そして甘い音色を奏で始める。

「面倒だな……ディレッサ!」

「眠いから嫌だ」

「そんな事を言うなよ馬鹿!」

 向こう側にいる銀に頼んで、ディレッサを引きずり出してもらった。
 しぶしぶと言った感じでディレッサは出てきて、

「で? 何?」

「あいつの能力を一丁食らってこい」

「嫌だ」

「どうしてだよ!」

 ディレッサの胸倉を掴み上げ、俺は怒鳴った。
 いや、この反応……面倒くさいとかそういう奴じゃないな。ディレッサがこっちを向かないし。
 ……他にも誰かいるのか?

「風に揺れてひらり舞い散れ。今宵闇夜を紅く染めて〜……♪」

 ノアのせいで近づけなかった昴は、いったん退却。
 空華の歌は終盤へと差しかかる。操られていた人間の、大半が覚醒した。ノアが重ねて催眠をかけようとするが、それは徒労に終わる。
 ——そして綺麗な音で、空華の演奏は終わった。
 全ての人間の催眠が解ける。悠紀の力を使って、全員を眠らせてもらった。

「これで、お前が操った奴は全員解けたけど?」

「……甘いですね」

 ノアは笑っていた。ネガティブなノアが笑うなんて珍しい——会った事ないけど。
 どうして笑う?

「僕には……もう1人、強力な催眠をかけた人がいます……。君にも解けませんよ……?」

「強力な、催眠?」

 ゾワリと全身の毛穴が粟立つような気がした。
 この、気配——。神?

「危ねぇ鈴! お前ら!」

 ディレッサの声がして、同時に背中に膨大な熱が襲いかかる。
 ディレッサが炎を食ってくれたからよかったけど……ヴァルティアが前しか守っていない事を知って——?
 闇夜で炎を投げつけてきた奴の正体は見えない。だけど、この炎……。

「この炎……地獄業火かよ……! マジ辛い!」

 ディレッサがヒーヒー言いながらのたうちまわる。
 炎を投げつけてきた奴が、姿を現した。

 そいつは、銀が好きな奴だった。
 艶やかな黒い髪にうつろな茶色い瞳。どこまでも無表情で、冷酷で、残酷な気配。手に持つは、血に飢えたように輝く白刃を携えた大きな鎌。
 黒影寮の寮長、東翔。
 地球の半分を一瞬で焦土に化せる炎——神も悪魔も天使も鬼も人間も天国も地獄も人間界も全てを焼き尽くすぐらいに強力な——地獄業火(インフェルノ)を操る炎の死神。

「……翔?」

 空華の呆気にとられた声が耳に届いた。
 だが、翔は無視をした。鎌を握ると、俺らに襲いかかってくる。

「ディレッサ! 翔の能力を食らえ!」

「無理、辛いの嫌だ!」

「我慢しろよ! ダメだったか炎が辛かったもんな!」

 畜生、ディレッサは使えないか!
 とりあえずディレッサの襟首を掴んで無理矢理鏡の中に返した。おそらくあとで文句が変えてくると思うが、甘んじて受けるとしよう。
 でも、どうして死神が演奏者の催眠なんかに引っかかるんだ?
 もしかして、何かに絶望した……?

「————」

 刹那、翔が何かを言うように、口を開閉させる。
 耳を澄まして聞いてみると、それは台詞だった。すごく平淡な声で紡がれた。

「——人間なんか、テメェらなんか、大嫌いだ」

 絶望したように、息を詰まらせる声が鏡の中から聞こえてきた。