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Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。ただいま祭り開催! ( No.303 )
日時: 2012/04/01 17:26
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第11章 王良家こんぷれっくす!


 〜?視点〜


 江戸の景色が目下に広がっている。
 夕闇が迫る江戸の町。その下を2人の男女が歩いている。
 女の方は銀髪の女だった。綺麗な銀髪を束ね、かんざしを挿している。歩くたびに装飾である鈴が音を立てる。
 男の方は黒く艶やかな髪を持つ男だった。渋い色の着物を身につけ、布を頭に巻いている。中睦まじく、その女と話している様子だった。
 すると、その男に、他の男がぶつかった。
 すみませんと向こうが謝った。いいえこちらこそ、とこっちも謝った。
 その男は、恨めしそうに男と女を見やり、自前の翡翠色の瞳を細めたのだった。

「……あれは、空華?」

 どうして? 空華は俺と一緒に現代にいるのに。2012年にいるのに。
 どうして? 何で空華はここにいる?
 何で俺を、恨めしそうに見やった?

***** ***** *****〜鈴視点〜


「銀、しっかりしろ! あいつは操られているだけだ!!」

 鏡を揺さぶり、向こうで愕然としている銀に言った。
 本心を言っている訳じゃないんだ。奴は操られている。演奏者はそういう奴なんだと、俺は銀に向かって叫ぶ。

「そ、そうですよね……。鈴! 翔さんを助けてください!」

 あぁ、分かったよ。銀が好きな奴だもん、助けなくてはいけない。
 銀が幸せならば俺も幸せだし。
 でも、操られた死神を助けるってどうやって?

「翔ちゃん! 元に戻れよ!」

 昴が一生懸命翔を止めようとするが、鮮やかに無視して行く翔。そして炎のあふれる鎌を振り上げ、幼馴染である昴へ刃を向けた。
 このままだと確実に死んでしまうではないか。
 くそ、間に合わない!

「ったく、お前は本当にお人よしだな!」

 昴の襟首を掴んで引っ張ったのは、何と王良空華だった。
 空華はチッと舌打ちをして、苦無を構える。

「何で死神が操られているのさ。そんなんじゃないでしょ?」

 空華は苦笑いで翔に話しかける。
 翔は空華を睨みつけ、そして笑った。裂けるような笑みを張りつけた。

「貴様は王良家当主か……? 珍しい者がいたものだ」

「……何それ。昔に戻ってる訳? それとも操られているってのでいいの?」

 両者の間に剣呑な空気が流れる。

「まぁ、貴様も殺すだけだ。全て全て、ブチ壊してやr「黙れ死神風情が」

 空華の口調が突如変わった。そしてオーラも変わる。
 飄々としていた空華が、殺気をこれでもかというぐらいに放出している。見据えるエメラルドグリーンの瞳は、冷酷な光を宿していた。
 今の翔よりもずっと凶暴な空気を醸し出している。

「全てを壊すだと? ふざけるな。貴様はもうすでにとある1人の人物の人生を壊しておるわ。それはそう——400年も前からな!」

 ヒッと悲鳴を上げたのは、綺華だった。その瞳は震えている。

「……兄さんが、キレた」

「空華がキレるとどうなる?」

「もう分からない……。どうしよう、天華兄さん! 空華兄さんが、昔に戻ったよ!」

 綺華は天華へと意見を乞う。
 天華は何も言わず、ただ首を振っただけだった。

「死神ですから死ぬ事はありませんが……。ただ、少し傷つく事は覚悟してもらいましょう。鈴さん、ヴァルティアさんにドーム状に守ってもらえるように言ってもらえませんか?」

「え、えーと……。無理かも?」

 ヴァルティアは「もう疲れた」とか言って、帰ってもらった。もう出せない。

「仕方がありません。日華、守りの陣を」

「はいですー。水星3の陣です!」

 幾何学模様が足元に浮かび上がり、バリアが張られる。空華を境界線にして。
 空華と翔とノアだけは蚊帳の外と言う感じだ。

「どうして空華を! 死んでまうぞ!」

 睦月が天華の胸倉を掴んだ。
 天華は丁重に睦月の腕を振り払うと、説明を始める。

「兄さんは、あの状態だと無敵です。死神すらも殺します。何せ、あの右瞳を操る我流忍術『王良家』の初代当主に戻っていますから」

 初代当主に戻っている?
 確か、空華は28代目当主とか言っていたけど……初代?

「あの瞳——邪紅眼(ジャックガン)と言うのですが、あれは全てを殺す死神の咎です。昔に戻った兄さんは、あれを自在に使いこなせますよ」

「じゃあつまり——」

「死ぬ事を覚悟しておいた方がいいのでは?」

 ちょ、やばいって!
 何とか他の神様を引きずり出そうとしたけど、バリア越しで翔と空華が話しているのが聞こえる。

「貴様が出てきて、ワシの人生は壊された。愛した人を貴様に取られたのだ! それが3回も! 3人目の王良空華も、好きな人を取られたのだ!」

「……」

「自覚していないと言う顔じゃな。フン、意見など聞きたくないわ。貴様を今すぐここで八つ裂きにして門前にさらしてやる。——だがな」

 空華はビシッと翔を指差した。

「それをすると、ここにいる奴ら全員が悲しむ。もちろん、王良空華も。ワシはどうでもいいがな。だから、少し痛いのは我慢してもらおうか?」

 そして、と空華は話をつなげた。

「いつまでも、ワシらは貴様を恨んでいると言う事を忘れるな? 東翔」

 そして、激しいぶつかり合いが始まった。
 一方的な空華の攻撃。いつの間にか右目の眼帯が取れていた。
 その瞳の色は、エメラルドグリーンの瞳を持つ空華には似つかわしくない毒々しい紫色の瞳。愉悦の表情を浮かべ、一方的に死神へと攻撃を仕掛ける。

「いや、止めて。止めて空華さん!」

 鏡の中から銀が叫ぶが、空華は止まらない。
 翔を蹴り飛ばして、家の中に叩き込んだ。

「申し訳ないの。天華、あとで直しておいてもらえるか?」

「え、あの、兄さん!」

「頼むぞ」

 すると、空華の頬を鎌が掠めて行った。
 砂埃が舞う家の中から、翔がゆらりと姿を現す。それを待っていたかのように、空華は笑った。

「死神操術——」

 金色の糸が、空華の指先にともる。
 翔の表情が強張った。

「縛」

 直後、悲鳴が起きた。