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Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。ただいま祭り開催! ( No.306 )
日時: 2012/04/01 21:47
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第11章 王良家こんぷれっくす!


 〜翔視点〜

 どうして? 何で?
 疑問が頭の中で生まれては消えて行く。空華がこんなところにいるのが不思議でたまらない。
 だって、空華は現代にいて。
 俺も現代にいて。
 今は2012年で——

「おーおーおー、混乱して」

 俺の目の前に現れたのは、まぎれもなく空華だった。キョトンとした表情を浮かべ、空華は首を傾げる。
 どうして、こんなところにいるんだ?

「どうしてって。俺様は初代様に体を交替してきたからね」

「体を……?」

「お前と違って、俺様は好きな時に3人の王良空華になれる訳。初代と8代目の当主の記憶を共有してる——つまり前世を覚えてるって訳」

 じゃあ、あそこの王良空華はお前の前世って訳なのか?

「ピンポーン。正解。容姿も性格も性別も能力も何から何まで同じな王良空華ですよ。それが3人も続いてるもんね。さすがに翔も狂うわ」

 目の前にいる空華はけらけらと笑う。
 どうして笑えるんだ。前世を覚えているって事は、死ぬところも見てるって事だろう?

「忍びは、死ぬ事になんて抵抗持たないの。そーやって教え込まれた訳よ」

「……死ぬ事に抵抗を持たないって、それじゃあ悲しむ奴がたくさんいるじゃねぇか! それでもテメェはいいって言うのかよ!」

 そんな事を言ったら、銀が悲しむだろう。
 だけど、空華は平然とした表情で頷いた。

「だって忍びは殺戮兵器だし。俺様だって、人を殺す事に抵抗はないよ。それで死んでもね。当然、地獄に行くのは決まってるんだし」

「……そう、なのか」

 死んでも未来が決まっているなら、抵抗はないのかもしれない。でも、それで本当にいいのだろうか。
 いや、俺は死神だ。人間に情を抱いてどうする?

「俺は、テメェを道具のように扱わない」

「いきなりどうした」

「俺は死神だ。人の命を狩り、裁判するのが仕事だ。空華、言ってやろう。テメェは勝手に地獄に行くとかそういう事を考えているんじゃねぇ。殺しでも理由があってやっているのだろう。だったら、それでいいじゃねぇか」

 何だか変な事を言った感じがするが、まぁいいか。
 空華は一瞬だけ驚いた表情を見せたが、またすぐにへにゃりと笑った。

「じゃ、久々の江戸の町——少し体験しますか?」

「できるのか?」

「さすがに食べるのは無理かもしれないけど、町を歩く事ぐらいはできるよ?」

 行こうぜー、と空華は空を駆け下りて行ってしまった。
 まぁ、いいか。あんなんでも、俺の仲間だし。

***** ***** *****〜銀視点〜

 鈴に無理を言って変わってもらいました。
 私は思わず駆けだします。そして空華さんに抱きつきました。故意ではありません、止める為です。

「空華さん、止めてください! 翔さんを、翔さんを傷つけないでください!」

 空華さんの目線の先には、翔さんが金色の糸で縛られて悲鳴を上げています。もうこれ以上、翔さんが苦しむところを見たくありません。
 すると、空華さんは私に冷酷な目を向けました。
 いつもの空華さんじゃない……。

「娘、案ずるな」

 空華さんは私を睦月さんの方へ押しました。

「言っただろう。殺しはしない、少し痛いのは我慢してもらう。これでも、死なない程度に頑張っているのだぞ」

「でも……翔さんが苦しそうですよ!」

「精神の翔はそんなでもない。今はワシと一緒にのんびり江戸の町を散策しとるわ」

 訳の分からない事を言いますと、空華さんは腕を振りました。金色の糸が霧散します。
 糸で縛られていた翔さんが、どさりと地面に倒れました。血走った目で、空華さんを睨みつけます。

「空華、もう止めい! 翔が可哀想や!」

 睦月さんも叫びます。しかし、空華さんは止めませんでした。
 金色の糸を垂らしたまま、空華さんは翔さんへと話しかけます。

「哀れだな、炎の死神よ。今引導を渡してやろう——まぁ、少し拷問みたいな感じだと考えてもらえればいい」

 空華さんは金色の糸を、翔さんへと結びました。両腕、両足を縛りつけます。
 翔さんは糸をちぎろうと手足をばたつかせました。

「ハハハ。無駄無駄、死神操術を解こうなんて言う死神はそうそういないわ。——死神操術、磔!」

 空華さんは翔さんを屋根の方へと蹴り飛ばしました。紙のように飛んで行った翔さんは、屋根へと結び付けられます。
 どうしましょう……翔さんが!

「止めてください、空華さん!」

「誰が止めるか。これがあいつを救う最善の策じゃ。ならば娘、犠牲なくして救いがあると思うか?」

 何も言い返せなくなりました。空華さんが珍しく頭のいい事を言ったのです。

「その甘い優しさ、どうにかせい。全てを救うなら犠牲もまた必要——ワシが生きてきた世界は、王良空華が生きてきた世界は、こういう世界なのじゃ」

 空華さんは糸で弓矢を作りました。それを磔にされた翔さんへと向けます。
 射抜く気ですか?!

「や、あ——!」

「死神操術——串刺し!」

 矢が、翔さんを射抜きました。

***** ***** *****〜翔視点〜

「あ、終わった」

 空華が不意に声を上げた。何が終わったと言うんだ?

「だから、俺様と翔の決着。翔は操られていたんだよ、演奏者に」

「そう言えば……何だかフルートの音色を聞かされたような感じがする」

 あー、あれは眠かったな。
 空華は苦笑いを浮かべて、

「何かあったの? 死神が洗脳にかかるなんて珍しいじゃん」

 と、訊いてきた。
 俺は、あの時に感じたもやもや感を話す。空華と銀が話しているところを見て、嫉妬を感じた事を。
 空華はそれを聞いた瞬間、腹を抱えて笑いだした。

「なんじゃそりゃ。それだけで操られたって言うのか?」

「悪いかよ」

「嫉妬は悪くない。俺様だって嫉妬するもん。銀ちゃんが翔と仲良く話していたら、意地でも邪魔したくなる。その笑顔を俺様に向けたくなる」

 そーゆーのは、誰にでもあるって訳、と空華は言った。
 嫉妬は誰にでもあるのか。死神は感じないと思っていたが。

「でも、俺様達は恋のライバルじゃん。銀ちゃんを誰が落とすか、勝負してる訳じゃん。勝ちたい訳よ。銀ちゃんに好きになってもらいたい訳。それは、翔と同じでしょ」

「確かに……」

「今は負けてるかもしれないけど、翔」

 空華はいつになく真剣な顔で言ってきた。

「銀ちゃんを泣かせたら、俺様が全力で奪うからね。覚悟しておいて」

 そう言い残して、空華は夕焼けの空へ消えた。
 あぁ、そっか。俺は銀が好きだ。あぁ、好きさ。愛してる。でも、それはあいつだって同じ事なのだ。
 泣かせたら、全力で奪う——ねぇ。

「やれるものならやってみろ、我流忍術使い」

 俺の横を通った、初代の空華へ向けて俺は言う。そして同じように夕焼けの空へと消えた。