コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。ただいま祭り開催! ( No.327 )
- 日時: 2012/04/17 22:12
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
第12章 君と僕〜オリジナルと亜種〜
その夜だ。すごく喉が渇いたので、あたしはそっと銀の部屋を出た。
冷蔵庫を物色して麦茶を頂戴する。あー、喉が潤う。
すると、外から何やら物音が聞こえてきた。あっちの方は、中庭か?
「……あ」
月が綺麗な夜。月光に照らされたその下で、オリジナルがいた。何やら虚空へ向けて蹴りを放っている。あれは多分、テコンドーだ。
こんな夜遅くに何をしているんだろう?
「おり——じゃない。昴、何をしているの?」
「あ、美鈴ちゃん。こんな時間まで起きていたの?」
額に浮かんだ汗をTシャツの襟ぐりで拭うオリジナル。
「あたしは喉が渇いていて……いいからあたしの質問に答えてよ」
「俺はちょっと格闘技の練習。翔ちゃんに付き合ってもらうのも悪いし、こうして1人で頑張っている訳。テコンドーを」
飛んで、後ろへ回し蹴りを放つオリジナル。
そんなの見てれば分かるよ、テコンドーぐらい。あたしだってできるし。
「でも、何の為に? 十分強いじゃん」
「お、嬉しい事を言ってくれるじゃない。でも残念、俺はそんなに強くないんだよ。周りのみんなが強いから、少しでも練習しなきゃ遅れちゃう」
なるほど。翔とかは本物の死神——世界を一瞬で焦土と化せるぐらいの炎、地獄業火を使う死神だ。死神の力を遣わなくても、中国武術と棒術をマスターしているので強い。
それに空華もいる。王良家当主である為、奴は結構何でもできる。体術でもトリッキーな動きをしてくるし、術を使わなくても暗殺とかできるだろうし。
その点、オリジナルは『闇の踊り子』としての力を使わなければ、ただの運動神経がいい奴だ。少しでも強くありたいのだろう。
「それに、銀ちゃんを守らなきゃ。人を守るって言っているのに、弱くちゃ示しがつかないよ」
「……銀。好きなの?」
「黒影寮の全員とはライバルだと自負している」
虚空に蹴りを放ちながら答えるオリジナル。
あたしは少し離れたところにあるベンチに腰かけ、テコンドーの練習に励むオリジナルの後姿を見ていた。
「銀ちゃんは誰にでも優しいし、疑わない。だからこそ守ってあげたくなる。傍にいて、笑顔でいてほしいんだ」
「……格好いい事言うじゃん」
「そうかな?」
「そうだよ。ほら、餞別として麦茶をやろう。飲め♪」
「ちょ、無理矢理かよ」
オリジナルは苦笑いを浮かべながら、グラスに注いだ麦茶を一気に飲み干した。
その時だ。
木々が何故かざわついた。同じように、心の奥もざわつく。
「はぁい。そこの子はー、黒影寮の椎名昴君とお見受けするわん」
月を背負って現れたのは、真っ赤な髪と緑色の瞳を持った人工血液を吸っている女性だった。年からして20代前半。
その女性は、ニッコリと笑うと、
「神威銀ちゃんを渡してくれないかしらん。お姉さん、さっさと済ませちゃいたいのよん」
「断る。美鈴ちゃん、下がっていて」
「どうして? この女の人、危ないよ。あたしもここに——」
「いいから」
オリジナルはやけに真剣な表情で、あたしを黒影寮に押し込んだ。
その女性と戦いが始まる。ガラス越しで見えたのは、女性が人工血液を吐き出して剣を作ってオリジナルに襲いかかっていた光景だった。
途端に、腕や足に激痛が走る。あたしは思わず短い悲鳴を上げてしまった。
赤く線みたいなものが腕を走っている。オリジナルが、あの赤い剣で斬られたのだろう。
「……みんなを、呼ばなきゃ!」
痛みをこらえて、あたしは立ち上がる。そして全員が寝ている部屋へと走った。
足にもどんどん傷は浮かんでくる。そのたびに激痛で悲鳴を上げそうになったけど、何とかこらえた。
全員の部屋がある廊下へたどりつき、あたしは息を吸い込む。これだけの声量があれば、全員を叩き起こせる。いざとなったら力を使って起こしてやる!
「全員、起きろ——————————!!」
ビリビリと窓ガラスが震える。
次の瞬間、どたどたという音が聞こえてきて、全員が眠そうな表情で部屋から顔を出した。特に翔は機嫌が悪そうだった。
「テメェ、一体どういう了見だ? 夜中の2時に叩き起こすとは、よほど——!」
「おり——違う違う。昴が大変なの!」
「ハァ?」
全員は首を傾げる。
あたしは急いで訳を話した。30秒で黒影寮の全員は、戦闘準備を完了させた。
***** ***** *****〜昴視点〜
急いで美鈴ちゃんを黒影寮に押し込めちゃったけど、まぁ大丈夫でしょ。これでみんなを起こしてくれたら最高。
あー、でも。結構傷ついたな。
「どういう事? 地で武器を作るなんて——創造主?」
「違うわん。あんな下等な奴らと一緒にしないでよん。お姉さんは、もっと高貴な存在よ——吸血鬼なの」
吸血鬼。ははぁん、ドラキュラって事か。
漫画家何かでも見た事あるし、にんにくとかが効くのか?
「残念だけどん、にんにくは効かないわよん? お姉さん、にんにく大好物だから。あ、十字架も好きだし、木の杭で指されても死なないからねん?」
無敵だな、こいつ?!
俺は目の前に見える星を踏み、反閇を発動させた。
「炎——炎解!!」
魔法陣が浮かび上がり、炎の竜巻が吸血鬼の女へと襲いかかる。
しかし、吸血鬼は地で作られた剣を一振りしただけで、炎の竜巻を霧散させた。
「お姉さんね、咲音紅って言うの」
「ご丁寧にどうも」
「銀ちゃんを渡す気はないかしらん?」
「ないですね」
誰が銀ちゃんを渡すものか。全部守らなきゃ。
足がずきずきと痛むが、その痛みを乗り越える。俺は腰を低く落として、身構えた。
咲音紅と名乗った吸血鬼は、困ったような表情を浮かべる。
「仕方ないわん。じゃあ、多く血を流して死んでもらおうかしらん」
血の剣を振り上げて、紅は笑った。
その時、バァチと音がする。見れば、そこには黒影寮の全員と紫月と美鈴ちゃんが立っていた。
「昴、助けに来たぞ!!」
「翔ちゃん!」
紅は、面倒くさそうに舌打ちをすると、
「あーぁ。もう面倒くさいわん。全員殺しちゃおうかしらん」