コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。ただいま祭り開催! ( No.328 )
- 日時: 2012/04/18 21:42
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
第12章 君と僕〜オリジナルと亜種〜
面倒くさいと言ったあの吸血鬼女。オリジナルから聞いた名前は咲音紅。
なるほど。吸血鬼の女王を出してきたか。リヴァイアサンめ……どうしてこんなにも面倒くさい奴を出してくるのかな?
紅は血の剣を肩に担ぎ、
「さっさと神威銀ちゃんを渡してくれないかしらん? 早くしてくれないん?」
「……断る」
銀は鈴に早変わりし、扇を構えた。緋扇だっけ?
首から下げた鏡から、ディレッサと……あれ? 何か増えてない? 赤い髪の女の子がプラスされているんだけど。
「きゃーっ! 翔君翔君翔君萌え!」
「な、アカツキ?! テメッ……離れろ暑苦しい!」
「いやぁん、何この子ツンデレ? そんなところも可愛い!」
アカツキと呼ばれた赤い髪の女の子——どうやら死神らしい。赤いから炎の死神とか?
鈴は頭を抱えて、翔からアカツキを引き剥がした。
「どうして引き剥がすのさ!」
「いいからあの子をぶっ飛ばしちゃって。そうしたら好きなだけイチャイチャしてもいいから」
そういう事なら! と、アカツキは目に炎をともして紅の方を向いた。
紅は面倒くさそうに頭を掻くと、
「獄炎使いの死神か……。地獄業火の下のランクを調伏できるってさすがじゃないん?」
「お、そりゃどうも。ディレッサ! あいつの魂を食らえ!」
「あ、今無理」
ゲフ、とディレッサはゲップをした。何で?
鈴はまさか、と言ったような感じで、ディレッサに問いかける。
「お前……脱走して魂を食らいに行ったか?」
「うん、お腹いっぱい。ハンバーグとナポリタンとオムライスと——洋食づくしだった」
鈴は渾身の力でディレッサの黒髪をひっぱたいた。使えないと怒鳴っていた。
ディレッサを鏡の中へ戻して、次に呼び出したのは天地である。確か雲を操る悪魔だったような感じがするな。
「で、鈴。何?」
夜中だったので、天地は結構機嫌が悪い。
だがしかし、鈴は無視をして鏡の中からさらに現を呼び出す。
「よし、これで大丈夫だ」
「何が大丈夫なのかしらん?」
「ん?」
斬撃が黒影寮全員に襲いかかった。だけど、あたしには斬撃は来なかった。
どうしてだろうと思っていたら、黒影寮の全員があたしを守っていてくれたからだ。そのせいで、全員が体のあちこちに傷を作る。
……どうして、守ろうとするの?
「お前は、俺らのように戦えないでしょ……?」
オリジナルはニッコリと、だけどどこか苦しそうな笑顔を浮かべた。
何だよ、それ。俺らのようには戦えない?
「ふざけんな! みんな死んじゃったらお終いじゃん!」
「死なないよ。俺は、俺らは絶対に」
オリジナルは全員を励ますように、声をかけた。
こいつの背中はこんなにも大きかったのか? 今まで興味をなくしていたあたしは一体何?
オリジナルはこんなにも格好いいんだ。崇拝していなかったあたしが馬鹿だった。
「……すみれさん?」
鈴が小さくあたしの本当の名前を呼ぶ。
あたしは拳を握った。
決めた。もうこの体がどうなろうと知ったこっちゃない。オリジナルも亜種も何だ。ばれたら死ぬ? そんなのどうだっていい。
あたしはこの椎名昴を、黒影寮を、守りたいんだ。
「あらん?」
紅が変な声を上げたのが聞こえた。
背後からは、黒影寮が驚いた声を上げる。
「み、れいちゃん?」
オリジナルはあたしを見下ろし、不思議そうにあたしの偽名を呼んだ。
あたしは今、黒影寮の全員の前に仁王立ちをしている。両腕を目いっぱい広げて、彼らを守ろうと。
「ごめん、みんな。あたし、今まで嘘をついていた」
その台詞を聞いて、鈴が察したのか、必死な声で怒鳴って来た。
「ダメだ! 今ここで正体を明かすと、死——!」
「そんなの関係ないよ」
関係ない。そうだ、関係ないのだ。
だって黒影寮は、こんなに多く傷を作ったのにあたしを守ろうとした。それだけで十分格好いいじゃないか。
「ただの女の子には引っ込んでいてもらいたいものねん」
「ただの女の子? 舐めないで。あたしを誰だと思っているの?」
拳を握り、地を蹴る。大砲が撃たれたかのようなドンッという大きな音を立てて、あたしは紅の懐に潜り込んだ。
反応が遅れた紅を見上げ、あたしはその腹へ拳を3発叩き込んだ。
「3コンボ——純白の剣舞(ホワイトソード・アーツ)」
7本の光の剣が出現し、紅へと襲いかかった。
紅はあたしから離れると、血の剣であたしの攻撃を弾き飛ばす。
「何を、したのん? お腹が痛いんだけどん」
「あたしはコンボで反閇技を発動する拳士なの」
反閇、と聞いて黒影寮がハッとしたようにオリジナルを見た。オリジナルは首を傾げている。
「あたしの名前は椎名すみれ————黒影寮の副寮長、椎名昴の亜種だ!」
あたしの中で、少しだけ痛みが走った。