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Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。ただいま祭り開催! ( No.329 )
日時: 2012/04/20 22:17
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第12章 君と僕〜オリジナルと亜種〜


 ずっと隠していた事があった。
 本当はオリジナルを崇拝しようと何度も思っていた。けれど、できなかった。
 オリジナルは格好よくて、でもあたしには崇拝できないと思っていた。
 何でかって? 亜種はオリジナルよりも弱い存在だから。あたしは椎名昴の副産物であり、白影寮の副寮長。
 だけど、ね。それだけじゃ理由にならないの。
 あたしがオリジナルを嫌いに——興味を持たなかったのは、あたしがオリジナルよりも強いから。
 自分の生命力や他人の生命力を吸い取ってコンボを発動させる反閇技。それが、あたしが使える唯一の戦術だから。


「椎名、すみれ……。なるほど、亜種ねん。椎名昴の——そこのお坊ちゃんの副産物の、禁忌の亜種。よく存在できたわねん」

 紅は舌なめずりをした。
 よく存在できた。あはは。もう自覚しているよ、どうして存在しているのかが謎だったし。

「それでも、亜種はオリジナルが望んでいてくれるから生きられる存在。心のどこかで、オリジナルがあたしを思っていてくれればいい。あたしがこんな子であってほしいと言ってくれれば、あたしは生きていけれる」

「それが、オリジナルよりも強い存在だとしても?」

「……それは分からない」

 オリジナルは何が何だか分からないと言ったような表情をしていた。
 まぁ、当たり前だ。亜種は、大体無意識のうちに生まれる。『自分がこうであってほしい』『自分がこうなったらどうなるのだろう?』と思った存在が、あたし達亜種なのだ。
 あたしは拳を構え、地を蹴った。
 オリジナルは『自分と同じぐらいに速い』と望んでいてくれていたのだろう。オリジナルのように、あたしは速く走れる事ができた。

「ハッ!」

 紅の胸を5回殴る。あたしの拳に光がともった。
 それを見た紅は、舌打ちをしてあたしに蹴りを叩き込んでくる。脇腹に回し蹴りがめり込んだが、技はそれでも発動する。

「5コンボ——白銀の波動(プラチナ・ウェーブ)」

 虚空に突き出した拳から出たのは、波状の光。それが紅を貫く。
 だけど、上手く血を利用したのか紅は波状をよけた。

「やるわねん」

「ま、そちらもなかなかですよ」

 回し蹴りを叩き込まれた脇腹を見やる。
 うーん、骨にひびは入っているかもしれないけど、何だか赤黒くなっているし。毒でも送り込まれたか?

「紅の死刑靴(クリムゾン・ブーツ)よん。針のように鋭い血を作り、足に装備してお嬢ちゃんのお腹にキックしたの。その際にお姉さんの血を送り込んだのよ。猛毒なのよん?」

 紅は不敵に笑う。
 ビキリ、と体のどこかで音が鳴ったような気がした。これは毒を送り込まれたからではない。オリジナルにあたしの存在がばれたから、あたしが壊れようとしている。
 オリジナルにばれたらそこで亜種はお終い。そのままどこか暗い闇の中に放り込まれて終了。
 それでも、あたしはオリジナルを守らなくてはならない。

「オリジナルは、昴はとても格好いい」

「あらん? ここでノロケ? お姉さん、妬けちゃうわよ?」

 紅は茶化したように言うけど、あたしは真面目だった。
 オリジナルは全部を守ろうと、誰よりも強くなろうと努力している奴だった。好きな人にも全力で立ち向かうような人だった。ものすごい努力を積み重ねている人だった。
 だったらあたしは、その人のようになろう。
 その人の強さを超えて、その人も守れる亜種になろう。

「……あんたはオリジナルがどんな気持ちで努力して、強くなろうとしたかなんて知らない。そんな奴の気持ちを踏みにじろうって言うならば、あたしは全力であんたを殺しにかかる!」

 その時だ。
 鈴の胸元に下げられた鏡が、ふいに揺れた。

「よーく言ったな、すみれ!」

「……その声は!」

 凛とした声が響き渡り、鏡から誰かが現れる。
 黒いコートに黒い髪。灰色のニット帽子をかぶり、紅を見据える茶色い瞳はとても大きい。少し胸は小さいけど、それなりに身長はあった。
 嘘でしょ。何で……?

「翔子ちゃん!!」

「やっほー、すみれ。助けに来てあげたんだから感謝しなさいよね? コンビニのスイーツおごりなさいよ」

 腕組みをして翔子ちゃんはニッコリと笑った。死神のくせに。

「あら、お嬢ちゃんは誰かしらん?」

「あたしか? じゃあすみれが名乗ったんだし、名乗らせてもらお————ふがふが」

 あたしは翔子ちゃんの口をふさいだ。

「どうして名乗ろうとするのかな? 死んじゃうよ? 翔子ちゃんが死ぬんだったら、あたしはその前に翔子ちゃんを美味しく頂く」

「気持ち悪いわ。はいはい、分かっていますよ。すみれはあそこで名乗らなきゃいけないような雰囲気だったもんねー。でも安心してー、あたしは炎の——ふがふが」

「だから設定も言うなこのアホウ!」

「アホウ?! アホウって言うなよお前がアホウだろ!」

「うっさいわこの貧乳! あたしの方がおっぱい大きいもん!」

「んだとコラァ! オリジナルが乳は小さい方がいいと望んだからこんなスタイルになったんだ! 好きでなったんじゃないやい!」

 翔子ちゃんとあたしは舌戦を繰り広げる事となった。
 紅の咳払いで我に返り、吸血鬼の方へ向き直る。

「翔子ちゃん、あの人は吸血鬼なの」

「分かっているよ?」

「協力してくれるよね?」

「あたしが後衛だけどね」

「助かるよ。翔子ちゃんならいくら生命力を吸い取っても大丈夫だしね」

「そうだね」

 あたしは拳を構え直した。今度は、翔子ちゃんがいる。
 黒影寮を守るんだ!