コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。俺ら戦争が乗っ取った! ( No.360 )
日時: 2020/12/26 20:36
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: OMB1sthW)

第13章 黒影寮の問題児が妖精を拾ったようです


 〜蒼空視点〜


 突如として空華と銀ちゃんが戻って来た。一体どうしてだろう。何かたくらんでいるような感じがするのは俺だけだろうか?
 まぁ、別に喧嘩とかじゃなければ何でもいいかな。

「彩佳さん! ここに鏡を置かせてもらってもいいですか?」

「え? う、うん。構わないけど」

 彩佳ちゃんはしどろもどろで答えた。
 銀ちゃんは遠慮なく置かせてもらうと、袖のところから緋扇を取り出した。一体何をする気だ? 空華も笛みたいなのを構えているし。

「銀ちゃん——てるよね?」

「ハイ。——は、何度も聴いて——ました!」

 喧騒で聞こえづらいけど、何かを覚えたような感じである。何を?
 2人に問いかけようとしたけれど、その前に2人が行動を起こした。
 銀ちゃんが緋扇を広げ、朗々とした歌声を夜空に向かって響かせる。その横で、空華が笛の音色を奏で始めた。

「君が見た、この空のどこかに響き渡る。我が歌声は、波のよう——」

 それは、英祭りで聞いた事がある歌だった。そうか、銀の鈴である銀ちゃんは、こんな歌を知っていたっけ?
 銀ちゃんの声に合わせて、和風なメロディが夜空へと響く。空華も『演奏者』の能力を持っていたっけ。上手いなぁ。

「ゆらりゆらりと舞い上がれ、恋を綴ったこの歌よ——」

 聞いていると、何だか若い男女が寄り添っている姿が目に浮かんだ。
 戦争に行ってしまった男性を思い、女性がこの歌を夜空に向かって歌っている光景。そしてその傍らには、たまたま通りかかったであろう笛吹きの男が、その声に合わせて演奏していた。
 まさに、今の銀ちゃんと空華のような。
 その声を聴いて、お客さん達は立ち止まって2人の演奏を聴いていた。

「我が恋歌よ、届けておくれ。はるか向こうの彼のもとに。
 我が時よ、止まっておくれ。彼が帰って来るその時まで——」

 そこで、銀ちゃんの歌は笛の音とともに終わる。
 すると、今度は空華が笛からヴァイオリンに楽器を変えた。えぇ?! そんな事もできるのか、お前?!
 ヴァイオリンの音色が奏でられ、それに乗せて銀ちゃんが歌い出す。

「〜〜〜〜♪」

 これって、どこかのCMソングじゃん。一昔前ぐらいの。
 へぇ、銀ちゃんってこれ知っているんだ。空華も演奏しているし。
 この2人のおかげで、俺らの店はある意味大繁盛した。ありがたい!

***** ***** *****〜銀視点〜

「お疲れ!」

 全員に配られたソフトドリンクの瓶を掲げて、蒼空さんは言いました。

「いやぁ、まさか銀ちゃんが歌っちゃうとは思わなかったね! 眼帯君も歌が上手いようだし?」

 博さんが空華さんに絡みます。空華さんはけらけらといつものように笑っていました。
 すると、羽傘さんが私に言ってきました。

「おい、テメェ! 少し歌えるからって調子に乗るなよ!」

「乗ってませんよ?!」

「浅比奈嵐は俺の————だ、だからな//!」

 つ、ツンデレと言うのでしょうか。別に私は嵐さんの事は狙っていませんけどね。
 当本人はコーラを飲みながら、五月さんと呼ばれていた茶髪の先輩に絡んでいました。彼女には気づいていないようです。
 嵐さんって、お兄さんみたいですよね。実際にもお兄さんですけど。私にも白刃お兄ちゃんがいますが。

「ていうか銀ちゃんさ、よくあんな一昔前のCMソング歌えたね。あれマイナーな曲じゃなかったっけ?」

「あ、あのですね。メロディが気に入っていたのでよく口ずさんでしまうんです」

「CMソングを口ずさんじゃう銀ちゃんも可愛いね!! ぎゅってしたくなっちゃう!!」

「羅さん痛いです!! あと、とても苦しいのですが加減していただくことは可能ですかッ!?」

 羅さんがぎゅうぎゅうと強く抱きしめてくるので、危うくジュースをこぼしてしまいそうになりました。
 というか、とても強いです羅さん。そして痛いです。首もめちゃくちゃ絞まってますので、このままだと私は確実に翔さんのお世話になるところです。

「テメェら、うるせえぞ」

 翔さんが眉をひそめ、オレンジジュースの瓶に口をつけました。昴さんもその隣で苦笑いを浮かべながら、私たちのどんちゃん騒ぎを見ています。
 戦争組の皆さんも、とうとう一昔前のCMソングから発展して、一昔前のアイドルソングを歌っています。高らかに響くその歌声はアップテンポなメロディをなぞり、こっちまで楽しくなってきちゃいました。しかも振り付けまで完璧です。


「……あの、すみません」


 その時、声がかけられました。
 私達の前に現れたのは、白髪で琥珀色の瞳を持ったきれいな女性です。一体どうしたのでしょう?
 ちなみに言いますが、私達は海の近くの防波堤にて、この馬鹿騒ぎをしていました。風鈴を階に求めに来た人ならば、お店がやっている時に来ると思いますが。
 その女性は、にっこりと笑いました。

「ここに、神威銀さんっていらっしゃいます?」

「え、あの、私がそうですが」

 すると、女性に警戒してなのか、黒影寮の皆さんが私を取り囲みました。もちろん、戦争組もです。

「一体何の用だ?」

 嵐さんが手のひらからスパークを弾けさせながら、彼女に問いかけます。
 女性はフフ、と笑いますと、お尻からしっぽを生やしました。……え?

「こら、美桜。一体どこに行っていたのですか」

「怜央。発見したわ。この子でしょ、銀の鈴って」

「えぇ、確かにそこの小娘がそうですけど」

 こ、小娘って……! 丁寧な口調でなんていう事を!
 私は鏡の中にいる鈴に強い口調で言いました。

「私と代わりなさい!」

「おっけー。代わるよ」

 もう怒りました、鈴に任せます。
 視界が一転して白影寮に来たところで、私は鏡の中から彼らの名前を聞きました。
 白髪の女性の隣に立った、着物を着た青年。紳士のような顔をしていますが、どうやら口は悪いようです。

「私の名前は朝霧怜央。こちらは使い魔の朝霧美桜で、白狐です。あ、私は陰陽師なのですよ?」

 怜央さんは行儀よくお辞儀をして、

「ではさっそくですが、神威銀を渡してもらえないでしょうか?」