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Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。俺ら戦争が乗っ取った! ( No.364 )
日時: 2012/05/23 15:33
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
参照: テストなんてくそくらえ。

第13章 黒影寮の問題児が妖精を拾ったようです


 〜空華視点〜


 それから、蒼空達『戦争組』はすごかった。
 人海戦術とでも言うべきか、戦争組の人数は半端なく多い為、その人数と能力を生かして静かな町の中を走り回った。
 もちろん、翔も俺様も抜かりはない。
 俺様だって、我流忍術家の現当主だからね! 負ける訳にはいかないの。

『蒼空!』

 そこへ、蒼空の名前を携帯のメモ画面を使って打ち込んで、金髪の奴が走って来た。ついでに黒髪の奴も。
 確か、蒼空は金髪の方を奏人、黒髪の方を嵐先輩と呼んでいた。兄弟なのだろうか?

『見つけた! 海の方にいる!』

『でかした』

 蒼空も返答を携帯に打つと、全員に指示するメールを送る。怜央を見つけたとメールを送ったのだろう。
 すると、そろそろ時間が切れ始めているのか、だんだんと辺りに音が戻って来た。

「……チッ音が戻り始めた!」

 翔の声が小さくだけど聞こえてきた。
 海の方に、怜央がいる。ここから大体2キロぐらい。俺様は忍び。
 よし、大丈夫。イケる!

「先に行く!」

「空華!」

 地面を蹴り、星が瞬く夜空を舞う。冷たい海風が頬をなで、錦海町が目下に広がった。
 俺様は家の屋根を伝い、海へと向かう。俺様の足に敵うのは——昴か同じ忍びぐらいだよな。

「……おや、あなた1人ですか?」

 暗い海を眺めていた怜央が、こちらを振り返った。傍らには白髪の狐——美桜がいる。

「貴様なんか、ワシ1人で十分だ」

「ほう、それが噂に聞く王良家初代当主ですか。さぞかし強いでしょうね」

 いけない。銀ちゃんが絡んでいるから初代当主を出してしまった。
 相手が翔みたいな死神ならまだしも、初代当主を出すには早すぎる。俺様1人で十分だ。

「思わず出しちゃっただけだ。お前なんか、俺様で十分なの。黒影寮だって戦争組だって、使わせる訳にはいかないんだから」

「そいつは心外だ。戦争組を舐めてやがるな、この眼帯」

 俺様の声に答えるように、女の声が降って来た。続いて体。黒い髪を舞い上がらせながら着地したのは、番傘を持った女の子だった。
 蒼空は羽傘ちゃんと言っていたか?

「逆羽傘さんですか。どこぞの馬の骨とも知らない小娘が、銀の鈴を守るとは到底思えませんけどね」

「だろうな。でも、あの銀ちゃんって子——とってもいい子じゃん。優しいし気遣ってくれるし、こんな怖そうな顔をしているあたしにだってあの子は近づいてきてくれた。だったら守ってらやらなきゃ」

 羽傘ちゃんは、両目を深紅の色に染めていく。
 番傘を構え、羽傘ちゃんは砂浜を蹴り上げる。女性とも思えない脚力を使って、空を飛び、怜央に番傘を振り下ろすが。

「私がいるのを忘れてない?」

 隣にいた美桜が、しっぽで番傘を受け止めた。
 犬歯をむき出しにして、羽傘ちゃんは激昂する。

「どけ、このくそ狐! あたしの邪魔をするな!!」

「いくらだって邪魔してやりますわよ。ほらほら、来なさいよ!」

 もう1本のしっぽで羽傘ちゃんを横薙ぎに吹っ飛ばす美桜。だけど、羽傘ちゃんはくるりと宙返りをして事なき事を得た。
 あっちは問題なさそうだね。
 だったら、俺様はこっちの方をやりますか。

「美桜にやられていれば、楽に気絶できましたのに。私ですとそうはいきませんよ?」

 怜央はお札を取り出した。それを俺様に向かって投げつける。
 ひょいと軽い調子でよけた。お札は俺様の足元に落ちる。下手くそだな。

「投げるってのは、こうするんだよ!」

 俺様はベルトから苦無を1本抜くと、怜央に向かって投げた。
 が、どういう訳か、的確に怜央の目を狙ったはずなのに、苦無は何かに弾かれた。どういう事だ?

「『悪しき呪いをその身にまとう者よ————』」

 その時、右目からビキリと音がした。
 激痛が脳髄を貫く。眼帯の上から右目を押さえ、俺様は砂浜に膝をついた。
 この痛み——まさか、この目の呪いを強くして俺様を殺そうと言うのか?

「『今こそ解き放たれよ。悪しき呪い——』」

 朗々とした声は、俺様の体を蝕んでいく。
 激痛に耐えきれず、悲鳴を上げてしまった。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!」

***** ***** *****〜蒼空視点〜

 全員を集めて海へ行こうとしたら、空に悲鳴が上がった。
 もうすでに博先輩のサイレントは解けている。この声は、空華の悲鳴?
 まさか。空華は忍びで、痛いのには慣れているはずだぞ? それなのに、何で悲鳴が起きるんだ?

「とにかく行こう!」

 海へは直線距離で2キロ。まっすぐ走れば海へつく。
 防波堤が見えてきて、俺はコンクリートの壁をよじ登って海の様子を見た。
 羽傘ちゃんと美桜が戦っている。どちらも互角だ。
 だけど、問題である空華は違っていた。地面にしゃがみ込んで、今にも倒れそうな状態で、眼帯がされている右目を押さえている。
 やっぱり空華の悲鳴?

「お前、何してんだ!」

 俺が向かうが早か、昴が反閇を発動させた。黒い陣を足にまとい、怜央に向かって蹴り飛ばす。

「闇解(アンカイ)!!」

 黒い魔法陣が怜央に飛んで行くが、何かの壁に弾かれてしまう。
 一体、何?

「野郎……空華の呪いを強化して、確実に殺そうとしているな! リネより凶悪だ!」

 鈴は緋扇を取り出し、それでディレッサと紫月を呼び出す。

「ディレッサ、怜央の能力を食えるか?」

「今は結界のようなものが張られてるから、今は無理」

「それも結構強力だよ。僕らの力でも、あの結界を破れないかもしれない」

 ディレッサと紫月は難しそうな顔で言う。何で紫月は翔に抱きついているんだろうな?

「え、だって久々の翔兄とイチャイチャできるし?」

「翔ちゃんは男ですけど」

「翔兄に気に入られたぐらいで僕様に敵うとでも思っている訳? この人間!」

 紫月は呆れている翔にしがみついたまま、昴を罵倒する。
 結界ねぇ。

「梓、任せた!」

「合点!」

 絶対殺しの梓を投入し、結界に触ってもらう。
 バチンという音がして、結界が破れた。さすが梓!
 俺は急いで空華に駆け寄る。

「空華、空華! 大丈夫か、しっかりしろ!」

「う、うぁ……」

 空華はふらりと俺の腕に寄りかかる。いや、これが可愛い子ならいいんだけど、BLじゃないんだからさ。
 あとから駆け寄って来てくれた黒影寮+戦争組に空華を渡す。

「銀ちゃん、空華を回復させておいてくれる?」

「か、構いませんが……」

 鏡の中から、銀ちゃんが不安げに言う。
 何故か? 俺は今、怜央と対峙しているからだ。理由は簡単、空華を傷つけたから。

「お前は、俺の大切な仲間を傷つけた。こんなになるまで傷つけた!」

「それが一体どうしたと言うのですか?」

 怜央は首を傾げた。
 どうしただと? ふざけるな、俺は仲間を傷つけられるのが1番大嫌いだ!

「お前は、絶対に許さない!!」

***** ***** *****〜銀視点〜

「お前は、絶対に許さない!!」

 蒼空さんがそう怒鳴ったと同時に、私と鈴は入れ替わりました。
 その時です。
 私は、蒼空さんの異変に気づきました。
 なんと、蒼空さんの右腕から刀の柄のようなものが見えたのです。蒼空さんは右腕の刀をずるりと抜きました。
 怜悟さんが使っているものとはまた別の、短い日本刀です。

「紅月モード」

 理央さんが言いました。顔はかすかに笑顔を浮かべています。

「このモードの蒼空は、最強だ!!」

 理央さんは、私達の勝利を宣言しました。