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Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。俺ら戦争が乗っ取った! ( No.365 )
日時: 2012/05/25 22:08
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
参照: テストなんてくそくらえ。

第13章 黒影寮の問題児が妖精を拾ったようです


 蒼空さんの瞳が赤くなりました。理央さんが言うには、これは『紅月モード』と言うのだそうです。この能力があれば負けなしだとか。
 それははたして、『リヴァイアサン』にも効くのでしょうか?

「蒼空ー、って二階堂紅月(ニカイドウ/コウゲツ)の方か。じゃあ今は話しかけない方がよさそうだな」

 羽傘さんが番傘を肩に担いで、こちらへやってきました。どうやら美桜さんはぼろぼろに叩きのめしたようです。

 山下愁より解説。
 紅月モードというのは、蒼空の前世である『二階堂紅月』を呼び起こすというものである。
 この時は重力操作など蒼空特有の能力は使えないが、爆発的に筋力を増加する為、今は昴にも匹敵する脚力・怜悟に匹敵する腕力・空華と翔に匹敵する攻撃力が備わっている。
 ある意味無敵状態なのだが、蒼空には自覚なし。

 蒼空さんは怜央さんを睨みつけたまま、肩に手をかけました。肩に乗っているのは、小さな妖精のリデルさんです。
 リデルさんを手のひらに乗せると、私に押しつけました。

「リデル。敵の数だけ教えて」

「わかったのー」

 リデルさんは私の手のひらで敬礼すると、素早く私の頭の上に乗りました。途中で羅さんが悲鳴を上げていました。
 蒼空さんは軽くほほ笑むと、日本刀を握ります。
 怜央さんは眉をひそめていました。

「何ですか、その紅月モードなんて。『リヴァイアサン』の報告書にはない事ですね……」

「何を話している?」

 どうやら自覚がないようです。
 怜央さんはボロボロにされて砂浜の上に寝かされている美桜さんへちらりと視線を投げ、ため息をつきました。

「私の使い魔をよくもあんなまでにボロボロにしてくれやがりましたね。私も穏やかではありませんよ」

「言ってろ」

 怜央さんはお札を数枚取り出して、空へ向かって投げつけました。

「『古より使えし魔よ。我が命に従い、彼のものを滅せよ』」

 底から響く声で、怜央さんは呪文を唱えました。
 お札が黒く染まって行き、ぼんやりと影のようなものが現れます。それを見たディレッサさんが、興奮したように言いました。

「あれって死霊じゃん! 使えられるんだ! 食ってみてぇ!」

「食べれるならどうぞ」

「え、いいのマジで? うわっほー、いただき——」

 ディレッサさんが死霊とやらに食らいつこうとした時、蒼空さんが刀をディレッサさんに突きつけました。一体何をしようとしているのですか?!

「邪魔するな。これは俺の戦いなんだよ」

「だって死霊って食った事ないもん! 滅多に出てこないし、天国にもいなかったしさ。だから食わせろつべこべ言わずに!」

 ザンッと。ディレッサさんの髪の毛が数本舞いました。
 何が起きたのでしょうか?

「お前の存在を——消すぞ」

 鋭い眼光でディレッサさんを睨みつけます。
 ディレッサさんは何も言わずに引きさがりました。その表情は難しそうな感じです。
 蒼空さんは死霊の方へ向き直りますと、日本刀を空中に滑らせました。まるで予告ホームランのようです。

「紅瞬月(クレナイシュンゲツ)」

 トンッと音がしたと思ったら、蒼空さんが消えました。
 次の瞬間、死霊達が粉みじんまで切れてしまったのです。

「死霊は、普通の刀では切れないはず……。一体何をどうしたら切れ——」

 怜央さんの首筋に、日本刀が突き立てられました。蒼空さんが赤く輝く鋭い目で怜央さんを睨みつけ、低い声で言います。

「この刀でお前の首を掻っ捌いたらどうなる?」

「……血を流して哀れに死にますか。いいでしょう、それもまた一興。子孫を残せなかった事は悔しいですが、これでも精一杯生きたつもりです」

「馬鹿か」

 これには、嵐さんが言いました。戦争組の皆さんも頷いています。
 怜央さんは再び眉をひそめて、戦争組に問いました。

「では何だと言うのです? 死ぬ以外にあるのですか?」

「紅月モードの刀は切れない。不思議な力——まぁ幽霊とか、お前の能力とかだけを切るんだよ」

 合点がいきました。
 だから蒼空さんは先ほど『切れない』と言っていた死霊を切れたんですね。能力を切るとは——どういう事でしょうね。ディレッサさんと同じような感じでしょうか?

「ピンポンポン。大正解」

「おい、そこの30代のおっさん。銀ちゃんの心の中を読むんじゃねぇよ」

「さっきから口に出していた銀ちゃんは咎めないの? 心なんか読めないよ、天音じゃあるまいし」

 ディレッサさんと同じ————?

「あれは俺の力が含まれているね。まぁ鈴に調伏される前に力を分け与えるみたいな事をやっていたから、それの類かも」

 でも、普通は神社とかに祀られているんだけどなー、とかディレッサさんはつぶやいていました。
 蒼空さんは怜央さんを突き飛ばします。砂浜の上に転がった怜央さんに刀の切っ先を突きつけ、蒼空さんは言いました。

「お前の能力は切りたくない。だから————3秒以内にここから立ち去れッッッ!!」

 怜央さんはその怒鳴り声を聞いて、舌打ちをしました。砂浜に転がっている美桜さんをお札の中に収めますと、静かに立ち上がります。そして煙のように消えました。

「フフフ。ではまたお会いしましょう——いつか」

「もう会いたくねーや!!」

 蒼空さんは誰もいない空に向かって叫び声を上げました。

***** ***** *****

 翌日の駅のホーム。戦争組の皆さんが見送りに来てくれていました。
 緑色の電車に乗る際、理央さんが拳を蒼空さんに突き出します。

「祭りで稼いだ金は、東京に行く時に使ったる。今度はこっちがお前に会いに行ってやるから、黒影寮に泊まらせろよ」

「寮長に言ってください」

 蒼空さんは苦笑いで理央さんが突き出した拳に、拳をぶつけました。
 駅のホームに汽笛が鳴り響きます。蒼空さんは電車に乗り、窓を開けました。

「戦争組、まだよろしくな! 卒業したら、絶対こっちに戻って来るから!」

「約束だぜ、蒼空! それまでリーダーは俺だ! だけど、いつまでも戦争組のリーダーはお前だ!!」

 そんな友情を見せつけてくれました。青春ですね。
 ホームを離れ、海が見える道を電車は行きます。

「蒼空さん」

 私は海を見つめる蒼空さんの背中に声をかけました。

「いいお友達ですね」

 蒼空さんはこちらへ振り返り、満面の笑みで言いました。


「だって、戦争組だからな!」