コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。俺ら戦争が乗っ取った! ( No.378 )
- 日時: 2012/06/04 22:07
- 名前: 山下愁 (ID: GlvB0uzl)
第14章 もし黒影寮の管理人代理が町の草野球大会の広告を見たら
と言う訳で、さっそく野球の練習に入ります。
監督として我が兄・白刃お兄ちゃんと、零さんがやってきました。ありがとうございます。
「それにしても、黒影寮のメンツで野球ねぇ」
零さんが中庭のベンチに腰をかけつつ、面倒くさそうな目を向けます。その視線の先にいるのはもちろん黒影寮の皆さんです。
本音を言うなら、考えられません。不思議な力を持ち、スポーツなんてあまりやったところを見た事ありませんので。でも、珍しく皆さんは乗り気でした。
ただ、少し不安そうな顔で零さんが言います。
「ただなぁ……寮長君がねぇ」
「翔さんがどうかしましたか?」
私が零さんに問いかけますと、零さんは苦笑いで答えてくれました。
「いやぁ、あいつ死神じゃん? 結構前から生きているじゃん。……それでかな、常識が少し抜け落ちているところがあってね」
「? 翔さんが常識知らずとでも?」
「まぁ、ぶっちゃけちゃえばそう。昴君に会う前は中国の山奥に住んでいたって言うぐらいだから、結構常識抜けててもおかしくないんだよね」
昴君が隣で教えてくれていたからかな、と零さんは付け足しました。
ここで改めて、翔さんと昴さんの仲の良さが分かりました。翔さんは昴さんに勉強を教え、昴さんは翔さんに生活を教えたのですね。優しい昴さんなら考えられます。
すると、翔さんがバットを持ってこちらにやってきました。
あれ? 昴さんはトイレでしょうか。いませんね?
「おい、ビッチ。この棒はどうやって使うんだ? 全員『お前なら知っているだろ』とか言って、使い方を教えてくれない」
翔さんは金属製のバットを掲げました。それを武器だとでも勘違いしたのでしょうか、零さんに向けて振り下ろします。
零さんは寸前で空気の弾を使ってバットの軌道をそらしました。
ここで殺人沙汰を起こそうとしていますけど……?
「これは殴る為の道具じゃないのか? 何を殴るのだ。撲殺より、焼いて殺した方が効率がいいと思うがな」
「これはバットと言って、人を殴る為に使うんじゃないんですよ翔さん? お前なぁ……野球のルールは知っているのか? 昴から教えてもらってないのか?」
零さんがベンチから立ち上がり、腰に手を当てて翔さんに訊きました。
翔さんは当然とでも言うかのように胸を張って、野球のルールを答えました。
「白い球を使って相手の頭を撃ち抜いた方が勝ちだと言う残忍なルールだ。それぐらい当然だ」
「どこか当然だ? それどこの世界の野球だよ。ありとあらゆる平行世界を巡っても、そんなルールにたどり着かないと思うけどな」
「? 地獄ではこれが当たり前だがな」
恐ろしいですね、地獄は。
そこへ、昴さんがトイレから戻ってきました。そして翔さんとバットを見て、けらけらと軽く笑います。
「翔ちゃん、それで零を殴ろうとしたの? それは人を殴る為のものじゃなくて、ボールを打つ為のものだよ」
「ボール? 野球のボールとは一体どれぐらいのものだ?」
「あ、睦月——! こっちにボールを1個寄こしてー。——あぁ、これこれ。この白い球ね。翔ちゃんが持っているその棒で、この球を遠くに飛ばして、指定の場所を走れば点を獲得できるの。ボールに触れられたりしちゃったらダメだよ、触れられないように戻ってこないとね」
「なるほど」
「そんで、ベースっていうのがあるんだけど、そこを守っている人がボールを持って踏んでいたらアウトだと考えてね。分かりやすく言うと、死んじゃうみたいな」
「分かった」
何だかよく分からないような説明を受けて、翔さんは納得したように頷きました。それでいいんでしょうか?
昴さんは翔さんからバットをもらいますと、先ほど睦月さんにもらったボールを宙に放りました。重力を伴い落下してくる白球を、昴さんは迷いもなく打ちます。
キィンッという鋭い音がして、白球は青い空へ飛んで行きました。
「こんなものでしょ」
ホームランを打った昴さんは、ボールが飛んで行った方向を見上げます。
「あんな感じに打てばいいのか?」
「そうだよ。できる? 俺がボールを放る?」
「頼む」
すると、空華さんが欠伸をしながらやってきました。
「なぁ、昴。今ホームラン打ったのってお前?」
「え、どうして?」
昴さんはきょとんとしたような表情で言いました。結構遠くに飛んで行ってしまった為、拾ってくるのは不可能だとでも考えていたのでしょう。
空華さんは昴さんにボールを押しつけ、再び欠伸をしました。
「ホームランボール。取るの結構大変なんだからね?」
「え、あれを取ったの? 結構飛んで行ったかと思ったんだけど」
「俺様は小学生の時に少年野球をやっていた事があるからねぇ。天華と一緒にさぁ。そん時、決まって俺様はセンターポジションでホームランボールばかり取らされてた」
さすが忍び、とでも言いましょうか。恐るべき跳躍力を見せてくれました。
何だか、粒ぞろいの野球チームができました……?