コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。7月7日は神威銀の誕生日! ( No.412 )
- 日時: 2012/08/20 23:03
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
7匹の子ヤギ、続き。
ディレッサは仲間の狼に相談をしていた。
仲間の狼というのは、蓮である。そう、あの狼に変身ができる(デフォで猫)肉体変化少年だ。現在も、頭から銀色の狼の耳を生やし、しっぽを振っている。
「で? 一体何だってんだよ。何がしたいんだ?」
「だから、あの子ヤギどもを食いたいんだよ。ラム肉パーティー。でも面倒くさいからお前行ってきて」
「断る」
即答で断られた。蓮は大きなため息をつき、ディレッサへ忠告した。
「あそこの子ヤギどもは止めておいた方がいい。逆に俺らが食われるぞ? あっちには誰がいると思う? 昴とか空華とかならまだしも、翔にリネに紅だぞ? しかもあのつかさまでいやがる」
長女ヤギのつかさの名前を出した蓮は、ぶるりと震えあがった。
ディレッサはそんな蓮を見て首を傾げる。
「あの女ヤギがどうした?」
「つかさの恐ろしさを知らないからラム肉にして食おうなんて言えるんだよ。あいつが切れたら名に投げてくるか分からないぞ? 戦狂者(バーサーカー)だからな。もしかしたら翔の鎌を投げてくるかもしれないし」
だから行きたくない、と結論づける蓮。
そこまで話を聞くと、さすがにディレッサも行きたくなくなってきた。
だがしかし、ここで行かないとご飯が食べられない。ここ最近、水ぐらいしか口にしていないのだ。備蓄の食料もほとんど残っていない。骨を食えとか言われても「そりゃ無理w」の一言を返すと思う。
久々のカモなのだ。豪勢なものが食べたい。
「俺だって水だけの生活は嫌さ。だけど——あいつら食べるか?」
「じゃないと餓死しちまうのは俺らだ。世の中弱肉強食」
「だがしかし、ヤギ<狼って何だかなぁ」
「現実を見させるな。ともかく餓死が嫌ならお前も手伝え」
幸いにも、彼は肉体変化ができる。そしてさらに、1度触れた奴にはその声までもまねる事ができる。
ディレッサは魂だけが食べられる神様。わざわざヤギを丸のみしなくても、魂を食べられればそれでいいのだ。
「……で、これでいいのかね」
蓮は母ヤギ・神威銀に変化した。この劇をやる以前に銀に触れる機会はいくらでもあった。軽く触れるだけでもいいのだ彼の場合。
セミロングの銀髪を掻きあげ、銀の姿をした蓮は顔をしかめる。
「ばれたら俺死ぬかもしれない。墓作って行っていいか?」
「そうしよう。俺もあの少女容姿死神に燃やされるかもしれない。いや、鈴にお説教かな」
「……お前も大変だな」
「そうでもねぇよ」
2人はこれから起こるであろう出来事を想像しながら、半泣きしつつお墓を作り上げた。
***** ***** *****
コンコン、とノックする音が家の中に響き渡った。
ふと顔を上げる昴と空華。他の奴らは昼寝だの読書だのをしている。知育パズルは飽きたので、ゲームをしていたところだ。
「なぁ、何かノックしなかった?」
「したよな」
元から聴力のいい昴と勘のいい忍者の空華だ。ノックの音を聞き逃すはずがなかった。
昴は長男ヤギである翔に「誰か来たよ」と言う。
しかし、返ってきた答えは「んー」という変な声だった。聞いていないようだ。
「ダメだ、聞いてない。俺が出るか」
「手伝うよ」
反閇の力によってふわりと浮きあがる昴。そしてノブをひねってドアを開けた。
そこに立っていたのは、母親である銀だった。満面の笑みで手を振っている。
「うお、お母さん。お早いお帰りで」
「えーと……ただいまですよ。皆さんいい子にしていましたか?」
にっこり笑顔で言う銀。どこか口調が怪しい気もするが。
昴と空華がすがりつこうとしたところで、梨央が手を引っ張った。2人を床に叩き伏せると、目の前に立っている銀を睨みつける。
「い、一体どうしたんですか。梨央さん?」
「……俺は案外勘が鋭いのよー。そりゃもう、この眼帯忍び君みたいにねー。完璧にしっぽと耳は隠されているようだけど、雰囲気が鋭い。狼さんだね——篠崎蓮君?」
スカイブルーの瞳で睨まれ、銀——もとい蓮は舌打ちをして姿を戻した。銀色の髪に狼の耳を生やした狼男が現れる。その後ろからディレッサ。
「何しに来たのー」
「もちろん、食いに来たんだよ? お前らを」
ディレッサは平然と言ってのけた。梨央にライフルを突きつけられているという事も屁とも思わず。
「リベンジって奴か。紅にボロボロにされたのにいい度胸をしているじゃねえか」
顔に本を乗っけたままうたたねしていた翔が、身を起こす。今度はつかさを戦いに出すつもりなのか、彼女と視線を交差させていた。
しかし、ここで2人の反論。
「「だって食わなきゃ俺ら死んじゃうもん!!」」
それはあまりにも悲痛な声だった。
「最近は獲物も何か少なくなってきているしそろそろ引っ越しかなって思っていたりもするけど! 俺らにそんな余裕はないの。体力も根気もないの! ここで生きて行くしかないの!!」
ディレッサが足踏みをした。ぐらぐらと家に地震が発生する。
蓮も同じように反論した。
「世の中弱肉強食の世界だって言うけどな——まぁそれが自然の摂理なんだけど——ヤギ<狼ってありえねぇんだよ! 食わなきゃ俺らだって餓死しちゃうんだよ!」
「このまま刺し殺されるのだったらどっちがいいんだよ」
翔がつかさに「GO」と言った。迷わず向かってこようとする。
が、そこで異変が起きた。
「ち、力が入りません……」
くたりとその場に座り込んでしまうつかさ。持っていたナイフを落としてしまう。
何があったのかと思っていたら、ディレッサが唇を舐めた。
「んー、戦狂者ってコンソメチップスの味がするな。これならスナック感覚でいくらでもいけるわ」
なんと、ディレッサがつかさの能力を食べてしまったのだ。
「……チッ! 紅!」
「ダメよぅ。何でか分からないけど、血の針が出せない」
紅は何度も血の針を出そうと試みるが、いくら踏ん張ってもダメらしい。
また食ったのかと視線を向けると、案の定。
「うん。サバの味噌にの味だね。濃厚」
ディレッサが顔を緩めさせていた。
しまった。こいつは能力を食える事ができるんだ……!
「逃げろ、勝ち目はない!」
「逃がすか。全員能力食わせて無力にさせてやる!」
「いや蓮。正直俺、腹いっぱい」
「KYだなお前! いや、KYKだね! 空季読めない神様だね!」
「それを言うならKYGの方がいいな。空季読めないgod」
「KYG——空季読めないゴキブリ」
「何だとコラ! テメェをまず初めに食ってやろうか?!」
ディレッサと蓮が掴みあいの喧嘩になったところで、殺気が襲ってきた。
いや、これは翔の殺気ではない。まして昴や空華、怜悟やリネなどの殺気ではない。
油の少なくなったロボットの如く、ドアへ視線を走らせる。
「うふふ……何をしているのでしょうかね? お2人は」
そこに立っていたのは、緋扇を持った銀の姿だった。
この後、ディレッサは鈴に変化した銀に能力を吐き出させられた。
おしまい♪