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Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。7月7日は神威銀の誕生日! ( No.417 )
日時: 2012/09/03 22:29
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

第15章 皇高校ホスト部!!


 〜空華視点〜


 シエル——何だか不思議な印象を持つ奴だった。どこか知っているようで、知らないような感じの奴。
 そんなシエルは、こちらの視線なんか気にせずにカラオケのマイクを手にして歌い始める。
 滑らかな低音ボイスが教室内に響き渡った。これは、確か『雪のツバサ』だったかな? アニメのエンディング。炎華が好んで見ていたんだけど。
 上手いな……男の俺様でも上手いと感じる。プロだったりするのか?

「貴方の望む俺になりましょうと言っていたけどさ、あれってどういう意味?」

 きょとんと首を傾げて、蒼空は羅ちゃんに訊いた。
 羅ちゃんは心底面倒くさそうな顔をして、そっぽを向く。あー、さすがイケメン嫌い。
 よし、じゃあこうしようか。つかさを使う事にする。

「ねぇ、羅ちゃん——どうしてか教えてくれない?」

 つかさはもともと女の子。普段は髪の毛が短いけど、ちょっとしゃべり口調と声を変えれば女の子に戻れる。
 仕方ない、とでも言うかのように羅ちゃんは説明してくれた。

「どういうしゃべり口調の奴になってほしいか、とかだよ。性格とか? 外見は無理だとしても、しゃべり口調なら結構似てるよ。さっきの冒頭のしゃべりだって、そこの少女容姿死神に似てただろ」

 コーヒーを飲んでいた翔は、紙コップを握りつぶしそうになるが、必死に昴がなだめていた。
 なるほど。確かにあの時、『テメェら、盛り上がってるか!』なんて言っていたような気がする。口調は翔に似ているな。翔が言えばだけど。
 と、ここでシエルが歌い終わったらしい。ひょこひょこと客席を歩いて、お客さん1人1人に笑顔で挨拶をしている。できた店員だ。

「いらっしゃいませ。ようこそ、喫茶びーすとへ」

 胸に手を当てて、シエルは俺様達に向かってお辞儀をした。そして流れるような動作で、近くにいた俺様の手を取ってキスを落とす。
 もういいや。気にしない、俺様。無心になれ、無心に。無心だけが救ってくれる。

「今日はどちからからおいでになられましたか?」

「あ、黒影寮からです」

 律儀に昴が答えた。そのあとに蒼空が「そうだぜ☆」というキラキラしたオーラ全開で言う。
 シエルはにっこりとした笑みを浮かべて、

「それはわざわざ。ありがとうございます」

 そしてシエルは他のお客さんに挨拶をしにその場を去った。
 さて、もう行くか。銀ちゃんを探してみないと。

「羅ちゃん、お勘定」

「1700万円」

「高ぇッ!!」

  ここはぼったくり喫茶か! 利益取り過ぎだろ!
 白亜ちゃんに確認したところ、どうやら470円だった。何の恨みがあって『1700万円』なんて答えるんだろうね……怖いね。

***** ***** *****

 銀ちゃんを探しつつ、色々なところを回ってみた。
 お化け屋敷はさすがに怜悟とかいるから別に怖くはなかったな。オカマ喫茶なんていうふざけたものまであったからちょっと興味本位で入ったらすごく怖かった。あれは記憶に残したくないと言うので、記憶の仕事人を発動させて忘れさせた。
 軽音部のライブとか、吹奏楽部の発表、茶道部なんかは翔が乱入して代わりにお茶を立ててたし、昴はダンス部に参加して一緒になって踊っていた。睦月は手品同好会に誘われてマジックの実験台になっていたけど超能力でどうにかしたし。怜悟は剣道部に勝負を吹っかけていた。悠紀は文芸部に言って冊子をもらってきたし。
 結構色々と楽しんでいる様子だった。

「……あの、すみません」

 と、そこで不意に声をかけられた。
 振り返ると、そこにいたのは黒髪に青と黒のオッドアイ、そして学ランにヘッドフォンという格好をした男——シエルだった。
 何故か息を切らせて、こちらに走り寄ってくる。

「あー、よかったです。見つかりました」

「一体どうしたの?」

 シエルは黒い何かを差し出してくる。まぎれもなく、これは俺様の財布だった。
 わざわざ届けに来てくれたって言うのか?

「財布を落としちゃったら、さすがに困りますから。よかったです」

 にっこりとした笑みを浮かべるシエル。できた子だ。

「あれ? 今営業中じゃないの? 休憩?」

「あ、ハイ。働き過ぎだと言われてしまったので、しばらく休憩です。1時間ぐらい、でしょうか」

 腕時計を見やり、シエルはつぶやく。
 じゃあ——

「よかったら俺様達と回らない?」

「え?」

 シエルはきょとんとした様子で首を傾げた。
 だって、そうじゃないか。シエルだってこの学校の生徒だし。構内の設備には人1倍詳しい——少なくとも俺様達に比べたら。

「え、でも、お邪魔じゃ——」

「構わない。こちらも敷地内を知っている奴が1人でもいてくれるだけで助かる」

 黒影寮代表の翔も、そう言ってくれた。ほーら安心。
 シエルは「うーん」と唸ってから、ゆっくりと頷いた。

「俺でよければ、皇高校の中を案内しますよ」


 と言う訳になったので、最初はどこに行こうかという話しあいになる。
 シエルのお勧めの場所がある、という事なので俺様達はそこへ足を運ぶ事にした。
 そこは体育館——軽音部の奴らがライブをやっていたような気がするけど、どうして再びここに来たんだろう?

「俺は演劇部だった事があるんです。中学3年間は演劇部のホープと呼ばれていましたよ。それで今回、急きょ出演依頼が出ちゃって……コメディものなのでよかったら見てください」

 へらりと笑うシエルは、俺様達から離れて舞台の方へと行ってしまった。
 パンフレットに書かれた演劇部のタイトルを見てみる。そこにはこう書いてあった。

『水無月寮の愉快な仲間達』

 何だか、なぁ……。何でだろ。黒影寮っぽい匂いがするのは何でだろ。
 そこでブザーが鳴り、幕が上がる。