コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。7月7日は神威銀の誕生日! ( No.419 )
- 日時: 2012/09/17 00:00
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
第15章 皇高校ホスト部!!
〜空華視点〜
「それでは俺は店のシフトがあるのでこれで。……文化祭、一緒に回れて楽しかったです」
別れ際に、シエルはにっこりと笑って、人ごみの中に消えた。最後まで銀色の頭がひょこひょこと見え隠れして、廊下の角を曲がる。
まぁ、しばらく回ったし、帰ろうかな。
「この後本屋寄ろう……予約していた洋書の新刊が発売する」
「あ、付き合うよ。俺も漫画が発売するんだよね」
「帰って寝よ……」
見ての通り、黒影寮もこんな感じにグダグダ感満載の雰囲気です。もう帰るモード満載。
その時、
「あーぁ、何でこうやって人ごみが多いかね。面倒くさいわー」
「梨央、きちんと仕事をしてください。帰れなくなっても知りませんよ? 私は別に構いませんが、貴方は未来からやってきたエージェントでしょう?」
「うるっさいな。お堅い戦闘馬鹿は黙って神威銀を探しなよ。それにしても見当たらないな……」
人ごみの向こうから、誰かがやってきた。
透き通るような水色の髪に水色の瞳、口の端で揺らしているのはトマトジュースのブリックパック。背負った棒状のものは、おそらくライフルだ。
そして一方、金色の髪の毛にロリ体系の女の子。顔をしかめて隣の男を見上げながら、辺りをきょろきょろと見回している。なんというか、傍から見れば挙動不審な外人。
夢折梨央とリネ・クラサ・アイリス。
「『リヴァイアサン』!!」
「うわ、何だ……。お前らか」
フゥ、とため息をつく梨央。何でそこでため息をつく。
いや、待てよ。ここで戦ったらどうする? 全員に俺様達の力がばれるに決まっているだろ!
それはまずい。銀ちゃんにただでさえ『ここの奴らの能力をばらさないようにする』っていう誓約をつけているって言うのに、俺様達がばらしてどうするんだよ!
「んー? どうしたの。襲ってこないんだ?」
「……くっ……」
歯噛みした。
ここで力を出して、こいつらを追い出す事は一向に構わない。だが、それは周りに人がいなければの話だ。
俺様達の力がばれる上に、周りに被害が及ぶ。銀ちゃんだってそれは望んでいない。
そんな気持ちを無視して、夢折梨央はにやりと笑った。
「攻撃できないんだ? 珍しい事もあるもんだねぇ。そこの俺様少女容姿死神君も、妙に大人しいじゃない? 世界を崩壊させる力、今ここで出しちゃいなよ」
ちらりと翔を見やると、苦い表情を浮かべていた。
周りの客が、「え? 何、戦い?」「世界を崩壊させる力ってww」とか言っている。が、確実に興味を持ち始めているのも事実。
……どうすれば、いいんだよ?
「あー、面倒くさ」
ズン、と重くなっていた中に響いた空気のように軽い声。面倒くさいと聞こえたあとに続く、カタカタと言う何かを叩く音。
悠紀は前髪で隠れた片目で、2人を睨みつける。
「……ねぇ空華。俺の声を大きくする事はできる?」
「へ? 声量を増幅させるって事か? まぁ、作れる事は作れるが……。一体何を?」
声量を操る術なんて聞いた事ないし……術じゃなくて魔法陣の方がいいかな。体の1部を特化させるっていう魔法陣があったはずだけど。
悠紀はノートパソコンを閉じて、にやりと笑った。
「——僕を誰だと思っているの? この場に置いて、僕の能力より優れているものはないと思うけど」
何か考えがある事か?
まぁいい、信じるしかない。
俺様は睦月と怜悟の影に隠れて、小さく魔法陣を描く。思い返して慎重に。日華や月華のように記憶力はよくないから、すぐには描けないけど確実にこなしていく。
魔法陣を描き、悠紀の喉元へと送った。ポウ、と光が輝く。
「……太陽——6の護符」
体の1部——悠紀の喉を特化させる。これで声量はかなり上昇したはずだけど。
悠紀は「あー」とか「うー」とか声を確かめる。そして何かを決めたようにコクリと頷くと、窓を開けて全校生徒・全客に聞こえるように声を張り上げた。
「【これより行う事は全て夢だと定義づける! 全て夢、まやかし、気のせいであり、決して現実で起こる事はない!】」
その声を聞いて、生徒・客の目線は全て悠紀へと注がれた。
窓から入ってきた生ぬるい風が、俺様達の頬をなでる。じわりと汗が浮かんだ。
「【だから貴様ら全員、今ここで眠りやがれ!!!!】」
バチンッ!! という音がして、スイッチが切れたように皇高校が静かになる。何の音も聞こえない。人であふれかえっていた廊下は、人で埋め尽くされていた。しかも全員寝ている。
そうだ。悠紀は言葉使い——人を言葉で操る事ができる!
「本気になれば何でも出せるし誰でも操れるしできない事はない。だけど僕の会話に文章として混ざっていないと発動されない。面倒な能力だよね」
いつの間にか悠紀の声量は戻っていた。やっぱり魔法陣は結構つらかったな。俺様もあやふやだったし。
だけど、ここで戦える舞台は整った。
俺様は遠慮なく、苦無を構える。
「小童どもが……頭が高々いわ!!」
昔の口調で、俺様は吠えた。
***** ***** *****〜銀視点〜
一体どうなっているのでしょう?
全員が眠ってしまいました。羅さんも、白亜さんも、クラスのみんなも、お客さんも全員寝てしまっています。
そう言えば、先ほど遠くから悠紀さんの声が聞こえてきましたね。言葉使いで何かをしたのでしょうか?
え?! こんな人がたくさんいる地元で?! 黒影寮の皆さんはただでさえ有名人なのに!!
「銀! 全員寝ちゃったけど、一体——!」
「鈴、助けてくださいぃ! 黒影寮の皆さんの力がばれてしまいそうで怖いですぅ!」
「ちょ、いったん落ちつけ! 怖い怖い! お前に泣かれると慰め方が分からないから怖い!」
でも、涙が止まりません。ばれてしまったら、私はあの人達と一緒にいられません……。
鈴は鏡の向こうで心配そうな表情を浮かべていました。
「……銀。大丈夫だって。俺がついてる。俺が何とかするから」
「……鈴」
「だから、安心してこっちにおいで」
その声を聞いて、私は安心しました。
もう、全部鈴に任せましょう。
——お休み、と鈴が耳元で言ってくれたような気がしました。