コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。7月7日は神威銀の誕生日! ( No.430 )
- 日時: 2012/10/01 22:53
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
第15章 皇高校ホスト部!!
〜空華視点〜
「あー、もう! 面倒くさいな本当に! さっさと神威銀を渡してくれればこっちだって仕事が終わるのに……。何、何なの黒影寮に神様野郎どもは! 俺らに恨みでもある訳!」
「そんなのねぇけど、銀を連れて行くっていうだけでなんか腹が立つんだよ!」
翔が廊下を焼かんばかりに地獄業火を噴出した。いやいや、これ校舎全焼しちゃうから。
あーぁ、神様も悪魔も天使も鬼もカオスだよカオス。こんな状況で一体どうやって文化祭を楽しめって言うんだか……。
こうなったら『記憶の仕事人(メモリアルワーカー)』を使うしかないのか? 夏休みにストックしてまだあるから大丈夫だと思うんだけど。
「……空華」
「どしたの、怜悟」
と、そこへいきなり怜悟が珍しく口を開いた。
何か考えがあるのか、その紫色の瞳が決意に満ちているような気がする。ふむ、怜悟はシャーマンだ。それも刀を操る。戦闘要員としては上出来。
ちょうど翔の方も疲れているように見えるし、リネを今のところ相手している現と天谷は——まぁ頑張れそうか。頑張れ。
「……考えがあるんだな?」
コクリ、と案の定頷いた。
よしよし、考えがあるのなら聞いてやらんでもない。
「……エンジを憑依する」
「エンジ?」
「この子」
ボウ、と怜悟の隣に立つ軍人さん。頭から血を流していて怖いが、どこか精悍な顔つきをしている。
その軍人さんはこっちの視線に気づいたのか、かぶっていた平たい学生帽を脱いで一礼した。
「銃の達人」
「……そこはいいんだが、お前の得物は刀だろ? 大丈夫なの?」
「平気」
怜悟は誇らしげに刀——野太刀を掲げて見せると、それを銃へと変形させた。すげぇ?!
「霊の得意な武器に合わせて変形できる」
「なるほど。それで怜悟は後衛に回ると……前衛は? 翔か? 昴か? 蒼空か?」
俺様ではない誰かを示して行くが、フルフルと首を横に振った。
じゃあ何だよ。誰だよ。
「空華。と、つかさ」
「……ん。分かっていたよ分かっていた。予想していたけどね。けどねけど、……つかさ?」
俺様はそこがびっくりだった。
そりゃつかさはナイフ投げが得意な戦狂者(バーサーカー)だけど、そいつを前衛に? 何で?
俺様は分かるよ。だって忍びだし。だけどつかさは黒影寮にいる男装女子だよ? そいつを前衛に立たせてどうするの?
「僕でよければお手伝いしますが」
「だから」
「いや、それで前衛として放り込むのはどうかと俺様思うな! つかさは女の子だよ、分かる?」
そう言うと、つかさはフフと笑った。手に構えたナイフが妙にギラリとしていて怖い。
「僕を心配してくれているのですか? フフ、ありがとうございます。ですが心配無用です。体は女ですが——銀ちゃんを泣かせた罪は重いとあいつらに知らしめてやりますよフフフフフフ」
怖い怖い。トランスしてるトランス。
このままだと相手に真っ先に襲いかねないな。俺様もつかさに合わせないと。それだったら——うん、初代より8代目の方が合うかな。
俺様はゆっくりと目を閉じて、意識を集中させる。奥底にいる自分とコンタクトを取り、
『ん? 何じゃ、空華。貴様、またワシが必要なのか?』
『今回はお前じゃねぇよ8代目だよ。……つー訳で来てくれるか?』
『やーだ面倒くさい。何で俺が行かないといけないの? それなら空華、お前さんがやればいいじゃない』
『つかさが相棒じゃついて行けないよ! それより俺様は術式を組む方が上手いからね! 舐めんなよ体術馬鹿!』
『分かった分かった。ハァ……出番かぁ。面倒だな』
バトンタッチ☆
俺様は引っ込み、代わりに8代目が俺様の体を支配する。
ゆっくりと目を開いて、8代目は辺りを見回した。怜悟→つかさ→夢折梨央とリネ→神様達→翔の順番に目を移して行き、
「面倒くさいな」
一言つぶやいた。緩慢とした動作で立ち上がると、滅多に使わない小太刀2本を逆手に構えた。
つかさもそれを見て立ち上がり、バリアの向こうにいる敵を見据える。
「おい娘。俺の足を引っ張らないようにね? 容赦しないつもりだし。面倒くさいから早く帰りたいんだけどね」
「こっちの台詞ですよ」
それから、8代目とつかさは飛び出した。
***** ***** *****〜視点なし〜
8代目とバトンタッチした王良空華は、逆手に持った小太刀でリネを上段から切ろうと振り上げる。
だが、そこは『リヴァイアサン』。反射神経を使って操っていた剣で小太刀を受け止めた。
「な、王良空華……!」
「残念。名前はそれだけど、8代目の方」
空華は無表情に言うと、力加減なしでリネの腹を蹴りつけた。性別? 何それ美味しいの? とでも言うかのような威力である。
ノーバウンドで細い体が吹っ飛び、廊下に叩きつけられたリネ。そこへつかさの速攻。
ナイフをトランプのように構えたつかさは、女子とは思えない跳躍力を見せ、今まさに立ち上がろうとしているリネの首筋に向かってナイフの切っ先を突きつけた。
「……何ですか。殺しはしないんですか?」
「それをやったら、銀ちゃんはますます悲しみますからね!」
ナイフを放り捨てると、つかさはリネの顔面めがけて殴りかかった。
とっさに拳をはたき落し、リネはつかさの服の襟首を掴んで放り投げる。背中から落ちたつかさは、苦悶の声を上げた。
「やはり女子じゃ敵わないじゃん」
空華はそんなつかさを馬鹿にしたように嘲笑う。
つかさは舌打ちをして空華を睨みつけ、
「うるさいですね。君だって何かしましたか?」
「そこの女の子を蹴ったけど?」
「それだけですか! それだけですか!!」
それだけだよ、と空華は答える。そして笑った。
ぞっとするほど、きれいな笑顔。
「……だって、それ以上必要?」
な、とつかさが唖然と口を開いた時、リネの姿はいなかった。
リネが動いたのではない。空華がリネを殴り飛ばし、壁に叩きつけたのだ。
「あっはっはっはっは。『リヴァイアサン』ってこんなに弱いんだ? こんなのに負けているようじゃ、本当に黒影寮かい? むしろ黒寮じゃない」
どこが影? と空華はケタケタと笑いながら言った。
初代当主の王良空華よりも、彼は残忍で。残酷で。冷酷で。無情で。
現代当主の王良空華よりも、彼は強くて。気高くて。怖くて。明るくて。
8代目の王良空華は、誰よりも体術・剣術・武術に優れ、ずば抜けて身体能力が高かった。まさにリネ・クラサ・アイリスとは比べ物にならないくらいに。同時に彼は無情で残酷で、女が相手だろうと容赦はしなかった。
「さて、面倒くさいし現代の空華にも怒られるのは嫌だし」
空華は梨央と争っていた翔の襟首を掴んで黒影寮の集団に放り捨てた。
「ハイ死神君はちょっと引っ込んでいましょうね? そこのシャーマンは何か考えがあるんじゃないの?」
「ははは。王良家8代目当主殿よ、手はもう打った」
エイジを憑依した怜悟は楽しそうに笑った。白煙立つライフルを肩に担ぐ。
ん? と梨央は足元を見た。
いつの間に書かれたか——それは、魔法陣だった。しかも拘束系の。
「な、嘘!」
「嘘なものか」
魔法陣から紫色の糸が放たれる。梨央の腕が、足が、胴体がそれに絡め取られて動けなくなった。
空華はそれを愉快そうに笑い飛ばす。
「さて、どうする? 『リヴァイアサン』の懐刀のリネも消えた。残るお前さんも殺しちゃってもいいんだけどそれだと神威銀っていう子が悲しむだろう? だったらここでご退場してもらうしかないよね?」
糸が揺れる。嫌な予感がする。
「ま、待って。ここから投げ出すとかそういうのは——」
「うん? まったくもってその通りだけど、どうしたの?」
平然と、きょとんとした様子で空華は言った。
それから、梨央が窓の外へ投げ出されるまで、それほど時間はかからなかった。