コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.445 )
- 日時: 2012/11/12 23:32
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
第16章 カゲロウタイムスリップ
それから1日が経過しました。フッと私は目を覚まします。
私はこれでも黒影寮の管理人代理を務めていますから、皆さんの栄養管理はきちんとしているのですよ。なので朝ごはんも栄養バランスを考えて作っている為、自然と5時起きになってしまうのです。
もう外が明るい——早くご飯の支度をって、
「ここは、江戸時代でしたね……」
そうです。この時代に黒影寮はないのです。
私はかけていた布団をはぎ、とりあえず伸びをしました。ひんやりした空気が気持ちいいです。
え、服装ですか? 着流しを1枚ほど着ています。これに昨日着せてもらった桃色の着物を着て赤い帯を締める予定です。
とりあえず着つけは1人でできるので、私は着物に着替える事にしました。
「——ハッ! ヤァッ!!」「その調子だ、日野宮! 頑張れ!」「今日こそ頭を倒せぇぇ!!」
何だか野太い声が庭の方から聞こえてきますけど。
そっと閉じられた襖を開くと、日野宮さんと空華さんが組み手をしていました。日野宮さんが一生懸命攻めていますが、空華さんは全ての攻撃をまるで最初から見えているかのような余裕のあるよけ方をしています。はっきり言いますと、優勢なのは空華さんです。
なるほど。修練を怠らないのですね、現実の空華さんに見習ってほしいところです。
「……これは、」
私だけ、客人扱いされているではありませんか。
昨日だって美味しいご飯をご馳走になった訳ですし。皆さんはこうして修練に忙しいのです。そうですよ!
ここは、私が——黒影寮管理人代理の神威銀が、サポートをしなくては!
「こうしてはいられません! 皆さんに栄養価のあるバランスの取れた食事を提供しなくては!」
そうです。私は家事をやってナンボの女です。客人扱いされてたまるかってんです!!
***** ***** *****〜空華(初代)視点〜
「そう言えば頭。昨日、異国風の女を連れてきましたよね? 大丈夫ですか、あの娘」
と、俺様に質問をしてきたのは呪術が得意な宮地(ミヤジ)だ。
それって神威銀ちゃんの事だよね。確かに銀色の髪なんてこの辺では見かけない——というかこの日本でも見かけないんじゃないかな?
大体、現在では鎖国だ何だ騒がれているから世間様も外国人には結構厳しいからね。出島の方に追いやられたらたまったもんじゃないよ。
「せやけど、あのトーサンかいらしかったなぁ。お近づきになりたいわー」
「田村麻呂(タムラマロ)はそこに正座しよーなー。呪い殺す」
宮地が印を結び始めたから、俺様は慌てて奴を止めた。こいつの呪いは半端ないからな。
田村麻呂と宮地は同郷の忍びだ。仲がいいからこうして喧嘩したりするんだけど、まぁ羨ましいっちゃ羨ましいんだけど。
俺様はどっちかって言うと、昔の記憶はない。というかそんなもの捨てた。あっても仕方ないし。
忍びは道具だ。戦に使われる道具。そう、こいつらと集まってはいるけど、所詮はただの道具だ。使えなくなればポイ。
「ま、日野宮は強くなったなぁ」
「からかわないでください」
日野宮の頭を軽くなでてやると、顔を真っ赤にして手を振り払った。こいつも女なんだよな、一応。
「さて、ここで修業は終わりにする。朝餉の時間だ——」
「お、お頭大変でさ!」
そこへ、1番下っ端の佐助(サスケ)が飛び込んできた。何だか息を切らせているようだが。
どうした、と訊くと、奴はとんでもない事を言ってきた。
「か、神威銀が見当たりません! 部屋にいないんです!」
んなっ?!!
おいおい、あいつここら辺の事を知らない女子だろ? そんな子がどこかに行ったって言うのか?
ここは社に作った空間だから、玄関から出れば普通に神社のはず——まだそんなに遠くへ行ってないはずだ!
「すぐに探知の術を組みあげろ、あの娘の居場所を特定しろ! もし捕まっていたりしたらやばいぞ!」
「誰が捕まったんですか? どこかへお出かけするなら、その汗を流してからの方がいいと思いますけど」
「そんなのはどうだっていいんだよ! まずは探さないと——って、俺様は今誰に話しかけた?」
いや、何か聞き覚えのある声がしたんだけど。
俺様はゆっくりと振り向いた。
そこには、まさしく探そうとしていた娘が立っていた。お玉を持って。
娘——神威銀はきょとんとしたような表情を浮かべて、首を傾げた。
「どうしましたか?」
一気に脱力。何をしているんだ、この子は。
「あの、朝ごはんができたんですけど……材料が足りなくて、あまりいいものが作れなかったんですが、ごめんなさい」
「ハ? あさごはん——まさか、お前朝餉を作ってたの?」
「窯でご飯を炊くのは初めてですけど、お粥程度ならできましたので! 楽しいですね!!」
にっこりと笑顔を浮かべた彼女の額には、大粒の汗が浮かんでいた。
まさか、な。客人として迎え入れたはずなんだけど、まさかねぇ……。
「それはそうと! まずは顔を洗って来てください、それから朝ごはんです! 少しの休憩を挟んでから、修業はしてください! 体に悪いです!」
「悪いも何も、それでは強くなりません。それに、私達は忍びです。道具風情に、そんな事をされても」
「シャラップです、黙りなさいです!!」
キーッ! と銀ちゃんが怒鳴った。うわぉ。
「いいですか! 生きていればみな人間です! 道具とかそんな悲しい事を言わないでください。強くなりたいのなら規則正しくやり過ぎない事です! 練習は私が見ます! 体調管理も修行のうちですからね!!」
「あ、あのー、銀ちゃん? ちょろっといいかね?」
「何ですか!」
ぷりぷりと怒っている様子の銀ちゃんに問いかける。
「えーとね、お前は休んでいていいんだよ? お客様なんだから」
「いいえ。居候させてもらう身ですので、そんなお気遣いは結構です」
そして再びにっこりとした笑みを浮かべると、こう言った。
「さぁ、まずは朝ごはんですよ!」