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Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.452 )
日時: 2012/12/10 22:48
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Mj3lSPuT)

 夜の風が、俺様の髪を揺らす。
 江戸の町は今は静まり返っている。星明りしかない夜は、とても冷たく静かで——恐ろしかった。
 だけど、そんな事は知らない。俺様にとっては、この夜は『仕事』だ。今宵も、仕事をこなさなくてはいけない。
 そう、忍びとしての仕事————暗殺の仕事を。

「……さぁ、今日も行きますかね」

 ぐい、と口元まで布を引き上げて、屋根から飛び降りる。
 足音も立てずに地へ降りて、夜の江戸を駆け抜けた。


 第16章 カゲロウタイムスリップ


 〜昔の空華視点〜


 ……昼間の江戸はとても賑やかなのに対し、夜の江戸はあまりにも静かだ。いや、もう少し人通りの多いところに行けば賑やかさはあると思うが、今回の依頼は『辻斬り』を始末しろと幕府から仕っている。
 ちなみに、王良家は幕府に昔から仕える御庭番だ。汚れ仕事はお手の物。誇って言える訳じゃないが。
 日野宮と佐助を連れて、俺様は江戸の町を駆け回った。
 うん、怪しい奴は見ないな。どうしたんだろうな。

「……いませんね、頭」

「あぁ。それに静かすぎる。……ちゃんと見張ってろ、いつ現れるか分からないぞ」

 気の抜いた佐助を叱咤し、俺様は辺りに視線を巡らせた。
 こんなにも静かすぎるのも異常だ。辻斬りがもう出てしまっているのか?
 俺様の中にあの銀髪の少女——神威銀の姿が思い浮かんだ。いや、銀ちゃんがここにいる訳ないじゃないか。大体銀ちゃんには「任務だからついてこないでね」と言ってあるし、他の連中も置いてきた。監視もさせてあるし。だから大丈夫、だと思いたいんだけどな。
 銀ちゃんは「お気をつけて」とか笑顔で言っていたけど……まさかねぇ?

 その時だ。
 俺様の頭に言葉が浮かんできたのだ。

「?!」

 こめかみを押さえて、俺様は立ち止まる。
 これは王良家の術で『相思伝達の術』という。頭に相手の思いを伝える事ができるのだ。頭の中に響いた声はこう。
 ————侍が神社へ強襲。取り壊そうとしているらしい。

「日野宮、佐助! 帰るぞ!!」

「どうしたんですか、お頭!!」

 日野宮が叫ぶが、俺様は踵を返して江戸の空を飛んだ。
 銀ちゃん……無事でいて!!

***** ***** *****〜銀視点〜

 こんばんは、神威銀です。今、私はこの神社に身を隠しています。
 ところで、何でしょうか。外が騒がしいのですが……何かあったのでしょうか。

「あの、外が騒がしいようですが」

「えぇ問題ありません。大丈夫ですよ」

 傍にいた深緑色の着物を着た男の人に訊いてみたのですが、そんな事が返ってきました。本当に大丈夫ですかね。
 ていうか、外から聞こえてくるのは悲鳴のようなものなのですが……本当に大丈夫ですか?
 鈴とも連絡がつきませんし……あれから何度も鏡に話しかけたのですが、どうしてもつながらないんです。どうしてでしょう。誰にもつながらないんです。
 それでも、外で誰かが傷ついている事に、私は我慢がなりませんでした。急いで部屋に戻り、三面鏡へ怒鳴ります。

「誰か、誰か答えてください! 私の、私の周りの人が大変なんです。誰か助けてください!!」

 バンバンと鏡面を叩きますが、誰も応答しません。してくれません。
 誰か、本当に助けてほしいのに……誰か……!!

「日出さん、日暮さん! ディレッサさん! ヴァルティアさん! クロエルさん! ソードさん! 天音さん、天谷さん、天地君、天羽さん!! アカツキさん!! 返事を、返事をしてください!!」

「どうしたの? 銀ちゃん」

 すっと、私の隣に誰かが降り立ちました。
 黒い三つ編みに茶色の長そでシャツ、そしてオーバーオールに窓の形を模したバッチをしている少女です。あぁ、知っています。唯一鏡の中にいない神様——トビラさんです。
 トビラさんはきょとんとした様子で首を傾げて、

「どうしたの? 何で、そんなに必死に鏡の中に話しかけているの?」

「トビラさん……あの、何でこんなところに。誰も、私の話を聞いてくれなかったのに……」

「私は夢を司る神様だよ? 現実には行けないけど、夢なら私のテリトリーだから」

 フフン、と自慢げに胸を張るトビラさん。あぁ、この人がいてくれてよかったです。
 私はトビラさんの手を取って、頼みました。

「お願いです、助けてください。王良家の人が、外で何かをやっているんです……!」

「ふーん……まぁいいよ。頑張ってみるよ」

 にっこりとした笑みを浮かべると、何か日記みたいなものを持って外へふらふら出ていきました。男の人達の横を通り過ぎていきました。気づかれないんですか。
 空華さん……どうか無事でいてください。
 私は心の中で祈っていました。

「……銀ちゃんー、終わったよ?」

「え?」

 トビラさんがそう言ったので、私はふとトビラさんの横から外をのぞきました。
 神社の境内には、刀を持った男の人がたくさん転がっていました。幸いなのは、全員血が出ていない事です。王良家の人達は1人もいません。というか境内の横でぽかんと立ち尽くしていました。

「……あの、トビラさん?」

「大丈夫だよ。だって仲間はよけたから」

「だから、あの、どうして全滅を? 少し捕まえるだけで、動きを止めるだけでいいと思うんですけど」

「大丈夫だよぉ」

 ケタケタと笑っていますが、本当に大丈夫ですかね。


「……銀ちゃん? これは一体どういう事かな?」


 その時、私は見てしまいました。
 あの、空華さんが不思議そうな表情で、首を傾げていました。

「これは一体——何?」


 それから状況を説明するのに、30分を要しました。