コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.453 )
- 日時: 2012/12/17 23:25
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Mj3lSPuT)
ピッとまた心臓の音を奏でる。
陽光を受けて眠り続ける少女は、とても美しいものだった。一言では表現できないぐらいに、その少女は美しい。
銀色の髪はつやつやと輝き、白い肌はきめ細かい。これで目覚めてくれれば、もう願いは叶うのに。
(神様、お願いします……)
少女の手を握り、少年は思う。
(俺様は、どうなってもいいから……この子を、助けてください)
第16章 カゲロウタイムスリップ
いやぁ、事情を説明するのに30分を要してしまいました。
あれですね。容易に神様を償還するんじゃありませんね。ていうか神様って言ってもトビラさんぐらいしか応答してくれなかったんですけどww
笑い事じゃありません。どうするんですか。無一文じゃないですか。神様出せないって私『銀の鈴』ですよね? その設定どうするんですか。どこに行ったんですか。
「なんかさぁ……銀ちゃん黒いオーラがとんでもなく噴出しているんだけど、どうしたの一体?」
空華さんが笑いながら言いますが、私にとってはそれどころじゃないんです。
どうしましょう。これでは帰れないじゃないですか。一体どうやったら帰れるんですか。
うーん……とうなる声が突如聞こえ、私の考え事は中断しました。空華さんが何やら難しい顔をしています。
「銀ちゃん」
「あ、ハイ」
何か迷惑でもかけてしまいましたか? 空華さんの事ですから、きっと悩んでいるのも自分のせいだと思い込んでいるでしょう。
「お祭り、行かない?」
ずるりと滑り落ちそうになりました。
このシリアスムード全開の時に「お祭り行かない?」ってどんなナンパですか。現代の空華さんでもやりませんよ、そんな事。
へらりと空華さんは私が知っている空華さんのように、飄々と笑って見せました。あぁ、止めてください。その笑顔は、彼の事を思い出してしまいます。
「今月は葉月——そして15日! 盛大な祭りが開催されるんですよ。それに俺様達も模擬店などを出そうかどうか悩んでいてね。売り子として手伝ってくれないかな?」
「え、売り子——ですか? 何を売るんですか?」
「うん。風鈴でもってね」
ほら、と空華さんが指をさした方向にあったのは、なんかガラス球を大量に生産している王良家の皆さんでした。……何しているんですか。
ガラス球を膨らましている人。それに絵を描いている人。軒下につるしている人と作業している人は様々です。
なんだか懐かしいですね。蒼空さん達と一緒に風鈴を売った事を覚えています。戦争組さんでしたっけ? あの人達はとても賑やかでした。
「……ハイ。売り子、お手伝いします」
「そういうと思ってね、着物も新調してきたよ。日野宮ー、着させて!」
「承知しました」
「きゃぁ?! 日野宮さんどこからやってきて——ちょ、ちょっと待ってください。いきなり引っ張らないでください! 助けて、助けてトビラさーん!!」
「無理かな。だって私も銀ちゃんの着物姿見たいしー」
薄情者! と心の中で叫びつつ、私は日野宮さんに引きずられていきました。
うぅ、わざわざ引きずらなくてもいいじゃないですかぁ……。
***** ***** *****〜?視点〜
その日はとても暑かったのは覚えている。
ただ人ごみの中を歩きに歩いて、誰かを探していたような気がした。いや、実際には探していた。
絹糸のように柔らかな銀色の髪。きめが細かい白い肌。整った顔立ちには常に笑顔を浮かべ、鈴を転がすような声で俺の名前を呼ぶ。
そんなお前を、愛していた。
だけど、
お前は死んでしまった。
「もう、空華さん!! サボらないでください!」
「サボってないよー、ただかわいい女の子がたくさんいるから観察を」
「日野宮さーん、空華さんが視姦していまーす」
「お頭、殺されたくなければ頭の上で手を組んで土下座してください」
「Σ」
何故だろう。俺はこの声を知っている。
鈴を転がすような美しい声。俺の心を満たしていく、彼女の声を。
ふと視線を上げると、そこにいたのは————まさしく彼女だった。
絹糸のような銀色の髪を持ち、きめの細かい白い肌。整った顔立ちには常に笑顔を浮かべ、鈴を転がすような声を夕暮れ時の空へ響かせる。
「見つけた」
***** ***** *****〜銀視点〜
風鈴屋は大盛況です。描かれている絵がきれいだとか何だとか。嬉しい限りですけど、私は売り子と言っても呼び込みしかやってませんよ?
隣にいる空華さんをちらりと見やると、しょんぼりとした表情で座り込んでいました。絣の入った紺色の着流しを着ています。エメラルドグリーンの瞳には、うっすらと涙が浮かんでいました。
「……そんなに女の子が好きですか」
「何だよ。男の子ですからね、俺様は。これでも19歳だよ?」
唇をとがらせて抗議の声を上げてきますが、私は無視をしました。19歳だからってどうという事は————
「え、19歳? ナインティーン?」
「ないんてぃいんって何? とにかく俺様は19歳だよ。若くして頭領なんてのになっちゃってるけどね」
なんて言って笑う空華さんは、まさしく私の知っている17歳の空華さんです。
あぁ、周りに黒影寮の皆さんがいてくれたら、お話ができるのに。なんて。
私らしくないです。今は、今は売り子の仕事に集中するんです!
「空華さん、演奏者の能力を持っていますか?」
「ぷ、演奏者? いやぁ、うん。よく知っているねそんなの。確か、管楽で人を惑わせる奴だったと思うんだけど……どしたの?」
「笛吹けますよね? それだったら演奏してください、即興で何でもいいんで!」
えー、とか言いましたが、空華さんは器用に術で笛を出しました。漆器で作られた黒い笛です。薄い唇に笛を当て、きれいな音を奏で始めました。
それに合わせて、私は歌います。
君が見た。この空のどこかに響き渡る。我が歌声は——波のよう。
ゆらりゆらりと舞い上がれ。恋を綴ったこの歌よ。
戦場へ行く兵士の君へ。平和を願って帰っておくれ。
夢を目指す少年の君へ。どうかその夢を叶えておくれ。
大切な人よ。どうかどうか、ご無事で。私はあなたの幸せを願います。
「……上手いね、歌」
歌い終わったあとに、感想を言ってくれる人がいました。お客さんでしょうか、いらっしゃいませと反射的に告げます。
が、その時。私は見てしまいました。
黒いコートに黒い髪。女の子のような顔立ち。ニット帽はかぶっていませんが、代わりに炎のような赤い髪紐で高々と髪を結いあげています。
東翔。
黒影寮の、寮長さんですが……。
一体、どうして?