コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.456 )
- 日時: 2012/12/31 22:21
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Mj3lSPuT)
浮遊感。
浮遊感。
浮遊感、そして感覚が戻ってきます。
重い瞼を開けてみますと、そこに広がっていたのは白い天井でした。あぁ、病院の天井ですね。分かります。
となると、私は病院のベッドに寝ているという事ですよね。耳元でピッピッという音が聞こえますので、多分寝ていたんですね病院で。
「ぎ、んちゃん?」
唖然としたような声が聞こえてきました。だるい体を何とか起こして声の方を確認してみますと、そこには空華さんが立っていました。
エメラルドグリーンの瞳を目いっぱい開いて、私を見ていました。何か私の顔についているのでしょうか?
「……起きたんだ……よかった……!」
私は——平成に戻って来たようです。
第16章 カゲロウタイムスリップ
空華さんはその場に崩れ落ちました。ドアに背を預けて、ずるずると床に座り込んでしまいます。
私はしばらく空華さんを見ながら放心状態です。何でしょう、何ででしょう……。すごく、悲しい気持ちが、心の中にあるんです。冷たいものが、私の心をむしばんでいるんです。
「……よかった、よかったよ……このまま銀ちゃんが、目覚めないならどうしようかと……!」
「……空華さん……翔さんは? みなさんはどこに——」
珍しくエメラルドグリーンの瞳から涙をぽろぽろと流しながら、空華さんが答えを返してきました。
「……翔はこの辺りで銀ちゃんの魂を見つけようとしばらく必死になって探していたから、寝てる。昴達も。怜悟と睦月は黒影寮で待機。白刃さんが泣き崩れたから、それを慰めるのに」
みなさんにご迷惑をおかけしたようです。今度お礼をしなくては。
でも、私の心の疼きは取れませんでした。そうです、きっと……きっと、あの人のせいで。
「空華さん……」
「なぁに、銀ちゃん」
「すみません……少し、傍に来てもらっても、いいですか?」
床に座っているところ悪いんですけど、と付け足してから、空華さんに隣に来てもらいました。
見れば見るほど、あの人にそっくりです。
江戸時代、神社でカモフラージュの為に潜んで暮らしていた王良家の当主様。王良空華さん。初代の、空華さん。
19歳で、飄々としていて、でも私の事を思ってくれて。とっても、とっても嬉しかったんです。今の空華さんとは違った空華さんを見れたような気がして、新鮮でした。
でも、だから——あんな別れ方はしたくなかったんです。
「……、え」
私の耳元で、空華さんの声が聞こえてきました。
もちろん、それは私が空華さんを抱きしめたからです。空華さんに抱きかかえられた時と同じように、心臓の音が伝わってきます。少しだけ早い鼓動を、刻んでいます。
「え、と銀ちゃん? どうしたの一体?」
「……ごめ、なさい……」
「……泣いてる?」
自然と、この体温を感じていると、私は何故か涙が出てきてしまいました。
何ででしょう? でも、分かる事は……空華さんが生きていてくれて、本当によかったという事です。
「私、江戸時代にタイムスリップしてて……空華さんにお世話になったんですけど……『笑って』って……最後のお願いで、笑ってってお願いされても……あんな別れ方、で、笑える訳ないじゃないですかぁ……」
もう嗚咽で何を言っているのか分からなくなってきていますが、もうどうでもいいです。
空華さんが、いてくれるだけで私はいいです。
しばらく空華さんを抱いたまま泣いていると、空華さんが私を優しく抱きしめてくれました。
「泣いていいよ。思い切り泣きな……俺様が全部受け止めてあげる」
「……ハイ」
ありがとうございます、と言って私は空華さんの胸に顔をうずめました。
どうか、どうか神様。
空華さんを、みなさんを私の前から消さないでください。
もう、誰かを失いたくないんです。
たとえそれが、昔の人であったとしても……もう失いたくないんです。