コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.460 )
- 日時: 2013/01/14 21:48
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)
こんにちは、この小説で文章を語るのは初めてですが、精一杯頑張りたいと思います。
リネ・クラサ・アイリスと申します。以後お見知りおきを。
私はご存じの通り、黒影寮と敵対する秘密結社『リヴァイアサン』に所属しています。その『リヴァイアサン』はボランティアらしく、給料もろくに出ません。
鬼畜でしょう?
鬼でしょう??
そんな会社で私は働いているのです。しかし、社員食堂と寮があるので私は何とか生きていけます。
が、
『本日より、社員食堂は閉めさせてもらいます。長らくのご愛顧、ありがとうございました』
これは一体どういう暴言ですか。私をいじめて楽しいんですか。
私は我慢なりませんでした。これから自炊しろっていうんですか。給料の出ないここで生きていたのだから金なんてありません。
だから私は家出をしました。
『本日で「リヴァイアサン」を辞めさせてもらいます。今までお世話になりました』
辞表を社員食堂に張り付けて、私は飛び出しました。
行くあてなど、もちろんありません。もう野垂れ死んでやります。
第17章 家出少女の死にかけ人生
みなさんお久しぶりです、神威銀です。上の文章はどうやらリネさんがやったようですね。
さて、私は現在、買い物に来ています。ノートとシャーペンの芯が足りなくなってきたので買い足しに行こうとした所存です。「1人で大丈夫?」などと蒼空さんが言ってきましたが、大丈夫ですと言って1人で来ました。
……そして見てしまいました。
何を? 決まっているでしょう。行き倒れている人を。
「……あの」
金色の髪に小柄な体。間違いなくリネさんです。『リヴァイアサン』の。
……一体どうしたのでしょうか。うつ伏せのままピクリとも動きません。まだ残暑も残っていますし、もしかして熱中症とか?!
「だ、大丈夫ですか?!」
敵対しているとはいえ人です。私はリネさんを助け起こしました。
金色のまつ毛を震わせて、黒い瞳でリネさんは私を見上げてきました。
「か、むい、ぎん……」
「大丈夫ですか? 今救急車を——」
「おな、か、へり、ました……ガクッ」
「……え?」
耳を疑いました。
今、彼女は何と言いました? お腹が減りました?
確かにリネさんのお腹からは、空腹を意味するであろう腹の虫が泣いていますが……えぇ?
「……リネさん。黒影寮まで来れますか? 歩けます?」
「……なんで……」
「ご飯、作ってあげようかと思いまして……」
リネさんの瞳がきらりと輝きました。
***** ***** *****
ノートとシャーペンはまたにして、私はリネさんを抱えて黒影寮まで戻りました。
戻った時にはすでに屍状態になっていましたが、料理を前にして飛びつきました。狼の如くご飯を食らっています。
……大丈夫でしょうか。のど詰まらせませんでしょうか。というかかなりの量なんですけど……結構食べてますよね。足りますかね?
「ふぅ……」
大きな丼から顔を上げたリネさんは、満足げに息をつきました。
「ありがとうございます。命を救われました。この恩は一生をかけて返したいと思います」
「あの、どうして道の真ん中で行き倒れていたんですか?」
興味本位で訊いてしまいました。
リネさんは「あぁ、それですか」と何だか平然とした様子で答えました。
「『リヴァイアサン』の社員食堂がなくなってしまいましたので家出をしました。辞表も叩きつけて正式に『リヴァイアサン』を辞めてきました。寝床があっても食事ができないのならいる意味がありません」
フン、と鼻を鳴らして『リヴァイアサン』の文句を言います。
……というか黒影寮の財政も分からないんですけど。どうやら英学園から援助が出ているようですけど……そこはどうなんでしょうね?
月に何円出ているのかを把握しているのは寮長である翔さんと副寮長の昴さんだけです。私は月々の出費を計算して、翔さんに提出しているだけです。
リネさんにも『リヴァイアサン』の文句が募っているのでしょうね。
「ご飯が食べられると聞いたから私は『リヴァイアサン』に所属したのに……何の仕打ちですか。意味が分かりません」
「は、ハァ……要するに、よほど怒っている訳ですね?」
「えぇそうです。あんなクソみたいな会社に所属していた私が馬鹿だったのです。社長の顔すら分からないあの会社に所属する価値すらなかったのに……私の目が曇っていました」
ミシリ、とリネさんの手の中の丼が音を立てます。止めていただけるとありがたいんですけど。
そうとも知らず、リネさんは黒いオーラを立ち上らせています。怖いですよー。
その時です。
「何でお前がこんなところにいるんだ、リネ・クラサ・アイリス!!!」
苦無がどこからか飛んできました。
空華さんです。魔法の記された本を抱えたまま、空華さんは苦無を投げつけました。見事にリネさんのこめかみを狙って。
リネさんは床からダガーナイフを生成しますと、飛んできた苦無を弾き落としました。甲高い音が辺りに響き渡ります。
「……どういうつもりですか。ここの住人はやけに荒っぽいですね」
「また銀を狙ってきたというのなら、黒影寮総出でテメェをぶち殺す。飛んで火にいる夏の虫という訳だ」
今度は炎の刃です。
リネさんはくるりと器用に宙返りをして、炎の刃をよけます。
もちろん炎の刃を投げつけるという攻撃をしてきたのは、翔さんです。我らが寮長、炎の死神です。
「安心してください。私はもう神威銀を狙うつもりはありません」
「嘘つけ。信用ならん。今まで敵として動いていたテメェの、銀を狙わないという言葉を簡単に信じろと言うのか?」
「えぇそうですけど?」
「マジで殺してやろうか」
蒼空、と翔さんが号令をかけますと、蒼空さんが立ち上がらないようにリネさんの体を重量操作で重くしました。
リネさんが舌打ちをして、翔さんを睨みつけます。
「さて、ここでどうしてやろうか。普通なら何の為に来たと拷問して吐かせるが……」
「ま、待ってください! リネさんを連れてきたのは私です! 責めるなら私を責めてください!!」
私は今にも攻撃してきそうな翔さん達黒影寮の皆さんの前に出て、抗議しました。
何だと? とでもいうかのように、翔さんが眉をひそめてきました。
「……道で行き倒れていて……可哀想で」
「まったく、銀ちゃんらしいっていうかなんて言うか」
「神威銀は悪くありません。悪いのは『リヴァイアサン』です。私にご飯を食べさせてくれた神威銀はマジで神様です。あがめてもいいです」
ていうかなんて事を言ってんですか、この人?!
そしてついにリネさんは、爆弾を投下しました。
「そうです。信用できないというのなら監視すればいいでしょう。私は——黒影寮の犬になりましょう」