コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.461 )
日時: 2013/01/21 22:27
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)

第17章 家出少女の死にかけ人生


 ハイ、皆さん久しぶり! 俺の事を覚えているかな?
 これだけじゃ分からないよね。神威銀の兄の神威白刃です。まったく、相変わらず出番が少なくてもう……。
 さてまぁ……ね。今俺の目の前には大変な人物が行き倒れているんですよ。誰かって、分かりますでしょ? 銀を狙っていたあの秘密結社『リヴァイアサン』の連中ですよ。
 しかもあの幻術使いの六道音弥君だった。傷を本当に作っちゃう幻術を使った、あの1人クリスマスのオッドアイを持つあれ。
 どうしてこんなところに行き倒れているのかな? とか思ったけど、まぁとりあえず助けてあげる事にした。ほら、俺ってば優しいから。

「……六道音弥君?」

「しにます」

 すぐそんな返事が返ってきた。何でだ。
 いやいや、「しにます」ってどう考えても「死にます」だよね? ここで死んでどうするの。コンクリートのベッドで死んでどうするの。
 俺は音弥君をひっくり返して、じっとその顔を見つめた。目の焦点が合っていない。

「……どうしたの」

「……死んじゃうかもしれないDEATH」

「元気そうだね」

 冗談を言う辺り、本当に元気そうで何よりだ。
 俺はペチンと音弥君の額を軽く叩いた。うん……なんか、冷たいな。元々冷たかったっけ?

「……こんなところで行き倒れているけど、一体何があったの?」

「……『リヴァイアサン』の社員食堂がつぶれたので、辞めてきた。寝床あっても食えないんじゃ仕方ないし」

「……そんな酷な事がね」

 いやぁ、ここで普通なら黒影寮に押し付けるけど、困った事に辞めたとはいえ黒影寮の敵。預ける訳にはいかない。
 妹の危機は俺の危機。ここで味方へ敵を押し付けるような事はしないし、可哀想。銀がびっくりしそうだから嫌だ。怖い。

「…………あのさ、提案なんだけど、どうせならうちにおいでよ」

「……え?」

 よく聞こえなかったとでも言わんばかりに、音弥君が訊き直してきた。
 だから、家に来いと俺は教える。銀に任せるのも嫌だし。ていうかそのあとに黒影寮のメンツから何かやられそうだから、自分が犠牲になるぐらいならいいかー的な感じで。
 音弥君は1も2もなく飛びついた。よかったよかった。

***** ***** *****〜零視点〜

 渋谷零。知っての通り、英学園特別クラスの教師をしています。空気使い(エアロマスター)と言います。
 まぁ、そんな事は置いといて。
 俺の目の前には、何故か『リヴァイアサン』の連中が落ちていた。確か、ノア・ウミザキ。王良と同じような力を持っていたような気がする。えーと、

「プランナー?」

「演奏者(プレイヤー)です……ごめんなさい」

 ノア・ウミザキは何か知らんけど俺の言葉に答えてきた。
 あー、そうか。そうだよな。楽器で相手を操っていたような気がするようなしないでもないような。詳しくは第12章辺りをチェケラ☆
 で、俺はむなしく休日出勤をしていた訳ですが、学校の敷地内で倒れているとは一体どういう事だよ?

「……まぁ、その、だな。何があったのか聞いてやらんでもないが。ジュースとか飲めないものと思え。財布を持っていない」

 ていうか、1人で無事に職員室にたどり着けるか問題。
 ノア・ウミザキは「……大丈夫です」とだけ答えた。お、案外話が分かる奴でして。

「……実は、『リヴァイアサン』の社員食堂が閉まっちゃいまして……。住処がないので家出を……」

 そういえば、確か夢折梨央辺りが「『リヴァイアサン』はボランティアでやってんだよ」とか言っていたような気がするな。
 なるほど。給料が出ない代わりに社員食堂と社員寮で賄っていたのか。給料が出るならまだ残っていたかもしれないが、給料が出ない上に食事の面が絶たれてしまえば話は別。
 このヘタレっぽい演奏者でも、おそらく『リヴァイアサン』を辞めてくる事を決意したのだろう。

「……リネさんも音弥君もみんな出て行っちゃいました……。僕1人だけ残っているのも嫌なんです」

「……他の奴はどうしたんだ?」

「えぇ、みんな辞めていきました。紅さんに至っては『おいしい血を提供してもらえるからここに残ったのに、がっかりだわん』とか言いながら……すみません。似てませんよね」

 口調云々じゃねぇよ、俺が言っているのは。
 あぁ、でもこいつはよほど辛いんだろうな。何せ、ボランティアでやっていたはずなのに、給料なしでこれから生きていけって言うのだから。
 こいつの見た目年齢は、……まぁ奴らと変わらないだろう。何歳なのかはたして分からないが。

「だったら俺が養ってやる」

「……え?」

「基本的な家事はできるか?」

「あ、ハイ……心得ていますが」

 それなら安心だ。
 特にテスト期間になると、テスト内容を考えるのに時間がかかるから学校にこもりっきりになる。帰るのが基本遅いからな。
 だからこそ、こいつに料理とか作っといてもらいたい。独り暮らしだし、ちょうどいいかもな。

「……その代わり、学校には通え。特別クラスに手引きしてやる」

「……本当ですか?」

「本当だ」

 何やら泣きそうな顔でありがとうございますと連呼された時は、もうこりゃ末期だったんじゃないかと思ってしまうぐらいだった。