コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.464 )
- 日時: 2013/02/02 21:41
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)
第17章 家出少女の死にかけ人生
〜視点なし〜
轟白亜は皇中学高等学校のバスケ部に所属している。
そのバスケ部の活動で、外周を走っていた時だった。校門の前で2つの人影を見る。
1つは人間。艶やかな黒髪に端正な顔立ち、灰色の着流しを着た若い男である。
もう1つは狐——の耳をつけた女性。こちらは男と正反対で、腰まである美しい白髪に桃色の着物を着ている。
美男美女のカップルが行き倒れたか。白亜はそう思って、無視をする事にした。リア充に構っている暇などあるまい。あとで黒影寮の銀に報告してどうにかしてもらおう。
「……うぅ……最近の人は冷たいですね」
「……素直に助けてくださいって言えばよくないッスか? どうして言わないんスか」
まぁどうせ言っても助けねぇけど、と白亜は心の中で思ったが口には出さなかった。
人間の方がゆっくりと瞳を開け、立ち上がりながら着流しを払う。金色の瞳がとてもきれいだった。
「誰ッスか」
「朝霧怜央と申します。一応『リヴァイアサン』に所属していた者ですが」
その名前を聞いた瞬間、白亜は動いていた。
こいつは危険だ。まさか、自分を人質に銀を呼び寄せるつもりだろうか。そうなったら、彼女は絶対にやって来る。それだけは阻止しないといけない。
スゥ、と息を吸い込み、朝霧怜央と名乗った構成員へ命令した。
「今すぐ膝をついて両手を上に上げろ!」
今までスポーツ口調だった白亜で考えると珍しい命令口調——それこそが、白亜の力である『神の命令』の発動条件だった。
力強く言わないと動作しないのである。白亜は、洗脳を得意とする少女だ。
当然のように、朝霧怜央は白亜の命令通りに動いた。膝をつき、両手を頭の後ろで組む。まるで犯人でも捕まえるような雰囲気だ。
「……神威さんを呼び寄せる為に、人質として私を——」
「それは違うわ。怜央は何もしようとしていない、もちろん私も」
命令する際の声で起きたのか、狐の耳をつけた女性が白亜へ告げる。
白亜は眉をひそめて、怜央を見やった。
その通りです、とでも言うかのように、怜央は頷く。——が、その首はあまり動かなかったが。命令されて体が動かないのである。
「……お宅は名前、なんて言うんスか」
「朝霧美桜。怜央を放して」
「嫌ッス。悪いけど、どうしてこんなところにいるのか理由が知りたいんス。できれば説明をよろしく」
最後の台詞を命令口調にして、美桜へ洗脳をする。
美桜はため息をついてから、説明し始めた。
「『リヴァイアサン』の社員食堂がつぶれたのよ。寝床はあるけど食事がないのならいる意味はないわ。私は食べなくても平気だけど……怜央は違う。怜央は人間だから、食べないと死んじゃうわ」
「その通りです。美桜の言う通りですよ」
怜央はにこにことした笑みを絶やさずに言う。
何だか簡単に信用して平気なのか、と思う白亜。こいつらが嘘をついているという可能性も無きにしも非ずなのだ。
その時である。
「あれ? そこにいるのは白亜ちゃんじゃないか。どうしたの?」
カツカツとコンクリートの地面を硬い何かで叩く音。それが足音だと分かるのに、それほど時間を要さなかった。
白亜は誰かを確認する為に、後ろを振り向いた。
ぬるい風になびく銀色の髪に紺色の瞳。それから後ろに従える——赤と緑のオッドアイを持つ男。草野球の大会で見た事があった。幻術師の六道音弥だ。
「白刃さん! どうして六道音弥なんか……そいつも『リヴァイアサン』ッスよ!」
「分かってるよ?」
きょとんとした様子で返す神威銀の兄、神威白刃。
「でもね、コンクリートの地面で行き倒れていちゃなんか救いたくなるじゃない。だから救ってあげたの」
「……じゃあ、こいつらも『リヴァイアサン』を出てきたのは本当スか」
「およ、怜央と美桜じゃん。お前らも出てきたの? 結構最後まで残るかなって思っていたんだけど」
音弥がもの珍しそうな目で見てくる。
美桜は音弥を睨みつけた。それから耳をピコピコと震わせる。威嚇をしているのだろうか。
「うるさいわね。黙りなさいよ、消し飛ばすわよ?」
「……白刃さん。こいつら、一体どうすればいいッスか」
「従えれば? 餌付けすれば従うかもよ?」
「いや、私の家は家族がいるッス。拾ったなんて言ったら怪しまれるッス」
「んー、じゃあ僕が引き取ってもいいけど。怜央の洗脳を解いてあげて」
白刃が引き取ってくれるのであれば安心だ。白亜は洗脳を解いてやる。
スク、と立ち上がった怜央は、白亜と白刃へ頭を下げた。礼儀がなっている。
「それじゃ、こいつと一緒だけど勘弁してね? よろしく」
「……えー」
「美桜、文句言うんじゃありませんよ」
なんだか家族でも見ているような気分になった白亜は、去っていく4人を見送った。