コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.467 )
- 日時: 2013/02/18 23:03
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)
第17章 家出少女の死にかけ人生
何やら外が騒がしいような気がしないでもないんですけど……一体何かあったのでしょうか?
私はふと顔をそちらの方へ向けました。怜悟さんが何やら怪訝そうな顔で、外の方向を睨みます。リネさんは相変わらず、人参と奮闘していました。
洗濯物を取り込んでとお願いしたはずなのですが……喧嘩でしょうか。また空華さんと翔さんの喧嘩ですかね? お2人さんも相変わらずです。しばらくディレッサさんに言って能力を取り上げてもらいましょうか。
そんな鬼畜な事を考える私ですが、きちんと吐かせて能力をお返しするのであしからずです。
「あれはきっと、夢折梨央が来たんです」
「え、分かるんですか?!」
「銃声が聞こえます」
リネさんがさも当然とでも言うかのような口調で言います。何でそんな平然と言えるんですか!
「……行く?」
「行かなくても大丈夫でしょう。今の黒影寮の皆さんなら問題なく勝てると思いますよ」
「どうしてそんな事を言えるんですか……? 相手は夢折梨央さんなんですよ? 氷漬けにされちゃったら……!」
「最近、夢折梨央は本業の方に顔を出していましたから。社員食堂がつぶれた事を知らないんですね。だから同じく辞表を叩きつけたところで路頭に迷っていました。腹いせに黒影寮に喧嘩を売ろうと考えたのでしょう。浅はかですね」
リネさんは嘲笑交じりに答えます。
なんだか現実味のある答えでした……リネさんも実際にそうしようと考えていたのでしょうか。
聞いたところによれば、梨央さんは社員食堂を利用せずに本業の給料だけで生活をしていたようです。そこでいつも活動していた『リヴァイアサン』のメンバーが消えている事が判明し、ノリで辞めてきちゃったのでしょう。
確かに、浅はかな考えです。
「……確かに夢折梨央は狙撃者としての腕前はおそらく王良空華よりも上です。ですが、おそらくそれだけです。他の術で立ち向かわれたら、たまったものじゃありませんから」
……いや、確かに納得できる意見ですけど。
もともと仲間だったんでしょう? そんな簡単な考え方でいいんですか? というか考え方がひどくないですか?
「夢折梨央は昔からムカつきますから」
リネさんは眉1つ動かす事なく、そう答えた。
ならいいんですけど……いや、よくないんですけどいいです。もうこの際気にしません。さっさとお夕食の準備をしましょう。
すると、空華さんと翔さんが食堂へやってきました。ぼろぼろになった梨央さんを抱えています。
「……あー、悪い。銀ちゃん、夢折梨央を回復させてやってくれない? さすがにやりすぎちゃって……えへへへ」
「いや、えへへへじゃないですよ! この荒れ様は一体どうしたんですか? ぼろぼろじゃないですか!」
気絶させるどころか、もう死にかけてません?
空華さんは飄々とした笑みで、私の質問に答えました。
「何か訳分からず襲ってきたから、とりあえず迎撃したの。そしたら思いのほか力が強く出ちゃったらしくて! 見事にヒットしてねぇ」
「笑い事じゃありません! 私でも意識を回復させるのは難しいです……。空き部屋が1つあったと思いますので、そこに運んでください! 私が治療します!」
とにかく、今は梨央さんを治してあげないといけません。
***** ***** *****
何とか梨央さんの外傷は回復させましたが、それでも梨央さんは目覚めません。夜になっても眠ったままです。本当に強く出しすぎちゃったらしいです。
怜悟さんに頼んで梨央さんの監視を頼み、私は早々に布団に入る事にしました。
さて寝ようと思って布団に入ったところで、コンコンと控えめなノックが響きました。
「誰ですか?」
「……リネ・クラサ・アイリスです」
ポツリとした声が、ドア越しに聞こえてきました。
私が「どうぞ」と声をかけると、リネさんはおずおずとした様子で入ってきます。現在身につけているのは、つかささんから譲り受けた兎柄のピンクのパジャマです。
「……あの、一緒に寝てもいいですか? 今日は、誰かの隣に寝たくて……」
「構いませんよ。どうぞ」
私が少し場所を移動しますと、リネさんはごろりとベッドに横になりました。何だか子供に見えて仕方がありません。
そういえば、リネさんとはそれほど年齢は変わらないはずです。それなのに、リネさんは大人っぽいように見えます。
「……神威銀。申し訳ないです……」
「何がですか?」
「助けてもらって、です。もともと、私は身寄りのない戦闘民族でしたので。とある西の島で育ち、そこから『リヴァイアサン』に拾われてきました。あぁ、私はこの人の為に戦おうと決心したのです」
細々としゃべるその声は、かすかに震えているような気がしました。
鏡の向こうで話を聞いていたであろう鈴が、「……っ」と声を漏らします。意外だったのでしょうね。
「忠誠心が強いとはよく言われます。命を救ってくださったのだから、それ相応の働きはしなくてはならないと思ったからです。もちろん、神威銀——あなたに対してもです」
「……そうですか」
「ハイ。私は何とも思っていません。ただ戦うだけが取り柄のこの私ですから、あなたの矛となり盾となる事ができるでしょう。黒影寮の皆さんが守れないところでも、私はあなたを守りたいお思います。……おかしいですか?」
見上げた忠誠心だと、私は思います。
空華さんから前に聞きましたが、「忍びとは技を売る職人みたいなものだからね。主様を決めるのは勝手だけど、伊賀とか甲賀とかで忠誠心の強さは違っていたかな」と妙にリアルな話を聞きました。
忍び以上の、絶対的忠誠心。
私は、素直に感心しました。
「……そんなに忠誠を誓わなくてもいいです。確かに私は皆さんがいますし、鈴も神様もいます。リネさんも、同じです」
「同じ……?」
「黒影寮の仲間、です」
にっこりと笑って、私はタオルケットをかけました。
さぁ、明日は学校です。早く寝ましょう。
「おやすみなさい、リネさん」
無意識のうちにそういうと、答えが返ってきました。
「おやすみなさい……」