コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.470 )
- 日時: 2013/03/11 22:12
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)
- 参照: テスト爆発しろ
第17章 家出少女の死にかけ人生
〜視点なし〜
夢折梨央は、暗い部屋の中で目が覚めた。
体を起こすと、そこにはベッドしかない簡素な部屋——というか簡素すぎではないだろうか?——が広がっていた。太陽の光がないところを見ると、どうやら夜のようだ。
自分が使っているライフルが壁に立てかけてあるところを見ると、自分の部屋にでも戻って来たのかと錯覚してしまう。
が、違う。自分はそう——黒影寮に連れてこられたのだ。
「くそ……敵にさらわれるとは一生の不覚」
「ならばその『一生』を今ここで終わらせてやろうか?」
ジャキリ、と自分の首筋に何かが当てられた。
短い刃——ナイフ。視線でナイフをたどると、琥珀色の髪が見えた。黒影寮の国枝つかさである。
さらに部屋の奥——入り口付近では、寮長である東翔と副寮長である椎名昴がそろって立っていた。なんだか眠そうなのはこの際気にしないでおこう。
「……何が目的だ?」
「目的……そうさな、お前を黒影寮に引き込む事が目的とでも言おうか?」
翔が告げる。可愛らしい顔して本当に偉そうな口調の死神だ。
当然、その言葉に梨央は眉をひそめた。
もともと敵同士だったのだ。なのに何故、今更黒影寮に引き込むという話になる。つまり、遠回しに『仲間になれ』と言っているではないか。
「こちら側につけば、鈴の能力を使って未来に返してやる事もできる。おそらく空華もタイムスリップ系の術式ぐらい組めるだろ。路頭に迷うのと仲間になるの、どちらが得だと思うか?」
「馬鹿でも分かる答えだね。当然、そっち側についた方がいいかもしれないよ。だけど、僕はそんな簡単に首を縦に振る男じゃないよ?」
夢折梨央はあくまで『狙撃者(スナイパー)』だ。その矜持というものがあるのだろう。
彼の狙いは神威銀という少女——そいつをまぁどうにかするまで、彼は決して仲間になんてならないつもりでいた。のに。
「ならば時間をやる。それまでに決めるんだな、黒影寮の仲間になるか——死ぬか」
ゾクリ、と。何かが背筋を這い上がった。
つかさが突きつけるナイフが怖い訳じゃない。翔の言葉が怖い訳じゃない。
忘れていた。
この黒影寮は————能力者の集団なのだ。秘密結社『リヴァイアサン』とは比べ物にならないぐらいの、能力者を兼ね備えた危険な館。
1人残された梨央は、バフッと布団を拳で叩いた。
***** ***** *****〜銀視点〜
おはようございます、神威銀です。
リネさんも私と同じ時間に起きて、弁当の準備をしてくれています。今日はお兄ちゃんが黒影寮に来て、リネさんを見ていてくれると言うのでお願いしました。
徐々にリネさんも料理の腕が上達してきたかな、と思います。もともと刀などを扱う事に長けていましたので、包丁の扱いはお手の物でした。
……そのうち黒影寮の皆さんの命を狙いそうで怖いですねぇ。あ、でも、
ケース1 東翔
「覚悟!!」(包丁振り上げ
グサッ(刺さる
「痛ぇ……何するんだ」(でも死なない。だって死神だもん☆
ケース2 王良空華
「覚悟!!」(包丁振り上げ
グサッ(刺さる
「……何してんの?」(変わり身の術で回避
ケース3 月読怜悟
「覚悟!!」(包丁振り上げ
キィン(弾かれる
「覚悟するのは、お前」(幽霊オプションで刀を突きつける
あー、その他大勢が包丁だけで死にそうにありませんね。おそらく核兵器にも対応するんじゃないでしょうか。特に昴さんが原子爆弾なんかを大気圏外まで吹っ飛ばしそうな感じがしますけど。
それどころか、黒影寮1つだけで世界が征服できそうですね! まず悠紀さんの言葉使いで相手を屈服させて、見せしめで翔さんが何かしちゃったりするんでしょうか。
……うわぁ、見たくありません。嫌です、そんなの。
「……銀さん、大丈夫ですか?」
怪訝そうな顔をリネさんが向けてきたので、私は慌てて「平気ですよ」と言った。妄想がばれましたかね?
世界征服……見てみたい気もしますが、見たくありませんねぇ……。
「世界征服ぐらいできるよ? 人を屈服させるのにまずは精神から破壊していくから、その人の大切な人をかっさらって殺してやるぞという感じの脅しを政治家に働きかけて——」
「ぎゃあ!! 空華さん、いきなり背後に立たないでください!! 危うく殴りそうになりましたよ?」
私の口から心臓が飛び出すかと思いました。
きょとんとした様子で、空華さんが牛乳を飲んでいたんです。私の心を読むのは止めてくださいよ!
空華さんは面白そうに笑っていました。
「いやぁ、銀ちゃんが『世界がほしいです!』って言ったら俺様頑張っちゃうところだったよ? 持てる力全て出し尽くして神をも屈服させる自信があるね」
にやりと笑った空華さんがやけに恐ろしいです。きっとそれは、翔さんの事を言っているんですかね……?
い、嫌ですよ。翔さんを屈服させないでください可哀想ですっ!
「冗談だよ、冗談。俺様もそこまで鬼じゃないさ。そうだねー、世界中の人が銀ちゃんを見ただけで跪くような呪いでも開発してみようかな」
「止めてください鈴をけしかけますよ?!」
「あれ、俺ダシに使われてる?」
鈴が怪訝そうな声を、鏡から発しました。すみません、冗談です。
空華さんはケタケタと笑いながら「着替えてくるわー」と言って部屋へ戻っていきました。
もう、空華さんはいつもそうなんですから……。
「……王良空華が好きなのですか?」
「ふぇ?!」
リネさんの突然の質問に、私はびっくりしました。一体何を?!
くりくりした黒い瞳で私を見上げ、リネさんは首を傾げます。
「違いますか?」
「え、あの、えぇ?」
「おい、リネ・クラサ・アイリス。銀が困っているからその辺にしておけ」
今度は眠たげに欠伸をしながら、翔さんがやってきました。手には分厚い洋書が握られています。何を読んでいるのかさっぱりです。
リネさんは相も変わらず無表情で、「そうですね。分かりました」と頷きました。
……リネさんと恋の話は難しそうです。