コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.478 )
- 日時: 2013/03/25 23:12
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)
第17章 家出少女の死にかけ人生
〜梨央視点〜
何で僕が黒影寮に捕虜にされないといけないんだろう、とか考えてみる。
僕は元々、こいつらの敵に位置する存在だったはずだ。神威銀の事を狙い、そして忌み嫌われる存在だったはずだ。それなのに、『リヴァイアサン』は社員食堂がつぶれたというくだらない理由で解散。
うわぉ。何たる事だ。こいつら本当に大丈夫か? 確かに僕らは能力者である前に人間だよ。でもさぁ、でもさぁ! 社員食堂がつぶれたからって……ねぇ?
いや、もうこの際どうでもいいか。
僕が何で捕虜になっているか。以前、ここの死神寮長・東翔に言われた言葉だ。
——お前を黒影寮に引き込む事が目的とでも言おうか。
何故、僕が黒影寮に引き込む事が目的なんだ?
僕には悪いが、ここの忍者である『王良空華』と同じような能力しか持っていない。狙撃ぐらいしか得意じゃないし、それに僕は未来人だ。
一体何の為に僕が仲間に引き込む必要がある。不思議な存在でも集めているのか? 何がおかしくて。
まさか、僕が神威銀を守れる存在とでも思っている訳? 冗談。そんな甘い考えじゃ世の中生きていけないよ。
確かに『リヴァイアサン』をノリで抜けたのは正直悪いと思っているけど、それでも僕は神威銀の敵として生きて行こうかと考えているよ。
読者のみんなにも悪いけど、あの娘を守って得するところなんてないでしょ。可愛い? 可愛い子はそこら辺にたくさん転がっているよ。
「……さて」
悪いけど。
現在深夜——黒影寮内。
僕は愛用のライフルを持って、外へ出る。ムシムシとした熱帯夜だ。暑苦しい、僕は暑いのが大嫌いなんだ。だから氷の能力を以ている訳なんだけど。
まぁいいや。こんな寮とはもうおさらばできるしな!
「……んぁ?」
黒影寮を出たところで、僕は見た。いや、見てしまったかな?
何をって、決まっているでしょ。
変態おじさんを。
あのドッキリ番組の変態おじさんじゃない。なんていうんかな……はっきり言うと、下着泥棒。
うっわお。下着泥棒なんて、漫画の中だけかと思っていたよ。違うんだね、そうじゃないんだね。
さてさて、下着泥棒が持っているものはもちろん下着なんだけど……あるえ? 何か見覚えのある下着が……ある訳なんだが。
「……って、あれまさか神威銀の奴じゃないの?」
僕は案外記憶力がいい。リネよりも頭がいいって自信があるね。実際、『リヴァイアサン』で頭がよかったのは僕なんだけど(ドヤ
まぁそんな話は置いといて。
まずいでしょ。同じ形としてもこのまま放っておいたらまずいでしょ。ていうかどこからそんなものを盗んできたんだよ、どんだけアクティブなおじさんなんだよ。
「……え、」
そこで僕は見てしまった。
下着泥棒のおじさんが、手のひらを丸く——まるでワイングラスでも持つかのように5指を曲げる。手が光り、何か布のようなものが転送されてきた。
なるほど。あいつも能力者か——しかも超能力の中の物質転送(アポーツ)か。堂本睦月がいたよな。
そうなると、妨害の仕方は簡単だ。奴の意識をそらせばいい。
僕は瞬時でライフルを構えると、下着泥棒へ銃口を向けて撃った。タァン! という高い音が夜空を響き渡り、下着泥棒の意識が途切れて物質の転送が中止される。
「何だぁ? お前は一体——」
「悪いけど、あの女をいじめていいのは僕だけなんだー」
黒影寮からあらかじめくすねておいたトマトジュースにストローを差して、押しつぶして飲む。完熟したトマトの味が、舌いっぱいに広がった。
美味い。はっきりと言おう、美味い。
だからこそ、僕は頑張れる。おそらくこの1杯の為にね。
「——死ぬ覚悟はできてる?」
***** ***** *****〜銀視点〜
遠くから銃声が聞こえてきます。
何でしょう、と思って目覚めますと、何やらすごく寒かったです。まるで一気に時が飛んで、冬が来てしまったかのように。
リネさんも当然目覚めて、地面から日本刀を取り出して外めがけて駆け出していきました。どこに行くんですか!
と言っても、リネさんは止まってくれません。それどころか、翔さんや昴さん、空華さん達も外へ飛び出していきます。何があったのでしょうか?
私も皆さんのあとを追いかけて外へ出ると、
「————あ、やっほー」
青白い月が見下ろす真夜中。月明かりしかないこの白雪町、黒影寮の前は——一面氷になっていました。
その真ん中に立ち尽くしているのは、水色の髪を持つ細い青年——梨央さんです。ライフルを片手に、ふらりとした様子で立っています。その手に握られているのは青い布のようなもので——
「って、それ私のぱ、ぱ、し下着じゃないですか! ぬ、盗んだんですか?!」
「何?! それってうらやま——ゲフンゲフン、ふざけた事をしてんじゃねぇぞ、夢折梨央!」
蒼空さん? 今さっき何やら『羨ましい』って言おうとしていませんでした? でした??
梨央さんはふいと視線をそらし、私へその——下着を押しつけてきました。
「返す。いらないし」
いる訳ありませんよ、何に使う気ですか。
すると、リネさんが梨央さんへ刀の切っ先を突きつけました。
「一体何が目的だったんですか。銀さんの下着を盗むという卑劣極まりない行為は許せません……死んで後悔してください」
「わぁ全力で疑われてるーすっごい清々しいねー。いいよーもうこの際下着泥棒扱いされてもー。敵だしー」
へらりへらりと笑って、梨央さんはリネさんの眉間に銃口を向けました。空色の瞳は、とても冷たい空気を帯びていました。
リネさんは何も言いません。梨央さんの台詞に何か引っかかるようでした。
「……じゃ、そういう事で。僕は行くわー、このまま野垂れ死んだ方が敵のようでいいでしょー? それとも今ここで殺していく?」
「処刑される前に」
梨央さんの台詞に答えたのは、なんと今まで沈黙していた空華さんでした。一体どうしたのでしょう?
「嘘ついているね。職業柄、嘘を見抜ける事ができるのよ。お前は下着泥棒じゃなく——むしろ、銀ちゃんの下着を取り返したって言ってもいいんじゃないかな?」
どう? と空華さんは首を傾げました。
梨央さんはから笑いを浮かべますと、「正解」と言います。どうして嘘を……
「だって僕は『敵』だもの。恨まれて当然だもの。それに——」
梨央さんは不意に私に近づき、デコピンをしました。ふにゃ?!
彼は、ドSな笑みを浮かべておいででした。
「神威銀をいじめていいのは——悪いけど、僕だけだから」
じゃ、僕はもー行くわー、と言って梨央さんは私達に背を向けました。
が、
「……逃がすとでも思ったか。昴」
「あいよ」
翔さんが指を弾いたかと思いますと、昴さんが高速で動き、梨央さんをシャイニングウィザードで沈めました。え?
「お前は黒影寮に入れる事を決定した。敵だろうがなんだろうが関係あるか。——俺が命令してんだから、なるんだよ」
久々に見ました、俺様寮長の姿。
と言う訳で、梨央さんの黒影寮入りが決定しました。