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Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.487 )
日時: 2013/04/22 22:00
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)

断章 下剋上☆黒影寮!!


 〜視点なし〜


 とにかく、神威銀の従兄が神楽伊月である事が判明した。とりあえず。
 しかも不思議な力について既知であるというのである。何なんだ、この少年。というかこの集団?
 なおかつ、この集団の中には黒影寮の猫耳少年・篠崎蓮の弟である燐がいると来た。肉体を獣化させる術を持つ『肉体変化(メタモルフォーゼ)』を知っていたのだから。
 ……もう何なのこの集団? と問いかけたくなる。

「という訳で、こうして遊びに来た訳ですけど。ま、遊びに来ても何もする事がないってねー! あはは」

 ケタケタと楽しそうに笑う伊月。そんなに楽しい事でもあったか。
 翔と昴は顔を見合わせ、空華は頭を抱え、蓮は燐に抱きつき、悠紀は口をあんぐりと開けている。まさかこの集団が不思議な力について知っているとは思わなかった。
 まず黒影寮にとっての1番のニュース? というか情報は、神楽伊月が神威銀の従兄だという事だ。つまり、血がつながっている。

「……あはははははは。もう笑うしかないんだけど。何が何だかさっぱり分からなくなってきたよ、俺?」

 昴は棒読みでげらげらと笑った。彼の声に感情が込められていないのは、怒っている時を覗いてまずありえない。
 頭のいい翔ですら、この状況を上手く読めていないのである。何が何だか訳が分からなくなってきているのだ。死神なのに。

「テメェは……どこまで銀の力を知っている? そして俺らの事は知っているのか?」

「不思議な力を使うって事ぐらいしか知らないけど……それはあくまで仮説。俺がただそう思っているだけであり、違うかもしれないからね。銀の力については幼い頃から知っているんだよ。銀の鈴だっけ? 不思議な力を増大させる不思議な力。俺の力に何の役にも立たないから放っておいたけど」

 …………ん?
 そこで、黒影寮全員は動きを止めた。
 俺の力に何の役にも立たないから、放っておいた?

「……テメェも何か力が?」

「優月のようにゲームをやりながら人のパンチをよけたり、燐のように薬を作ったりできないけどね。俺の力はいたずらに脳みそが働くぐらいかな?」

 あはは、と笑いながら伊月は笑う。それでいいのか?
 いたずらとは普通に考えて、それでいいのだろうかうん?

「…………いたずらって何をやってるの?」

「他校乗っ取って英語の授業ボイコット」

 伊月が答える前に優月が口を挟んだ。
 さらにそれに燐が続く。

「あとは仲間がカンニングしたと疑われたんですが、疑った奴を退学させましたね」

「あとはバスケ部の先輩を助ける為に、試合をぶち壊したりとかねー」

「……顧問に『お母さん』って言った」

「あとはそうですね。部長の婚約者にロリコン疑惑がかかっていたので、諦めさせましたね」

 なんだかすごい事をやっている気がするのは気のせいか?
 再び黒影寮は顔を見合わせて、吹き出した。ただの人間がここまでするとは考えられないからだ。

「あははは! 何でそこまでするかね。能力者にもそれぐらい効いたら面白いのにね!」

 昴が手を叩いて笑っているところへ、思い切りドアが開いた。
 何事かと思ったら、銀が泣きながら食堂へ飛び込んできたのである。リネは苦渋の顔を浮かべ、羅や白亜は申し訳なさそうな顔をしている。

「え、えぇ?! いいいい一体どうしたの銀ちゃん?!」

「ふぇぇぇぇえん……へん、変なおじさんに……おじさんにぃ……! 買ったお洋服を盗られましたぁ!!」

 銀が泣きながら叫んだ。そのあと、机に突っ伏して泣く始末。従兄である伊月がいるのにもかかわらず、彼女は声を上げてわんわん泣いている。
 落ち着いているリネが事情を説明してくれた。
 何でも、銀達がショッピングモールから出たところで買った洋服が変な男にひったくられる。
 ここで物質分解の羅が男を物質分解させようにも、何故かできない。白亜が命令しても洗脳されず、おまけに創造主の能力をフルに活用したリネでも太刀打ちできなかった。
 理由はそう——男が『能力ブレイカー』なる不思議な力を一切無効化する能力を持っていたからだ。もちろん、銀の神様達も効かないと判断して、泣く泣くこうして帰ってくるしかなかったのである。

「……せっかく、リネさんに可愛いお洋服選んであげたのに……」

「大丈夫です、銀様。私は銀様が小さくなったお洋服だけで十分ですよ。昴様のお姉さんからお古のお洋服ももらっていますし」

「あれ、もらっていたの?」

 本人・昴が知らない様子である。
 すると、今まで閉口していた伊月が口を開いた。


「……許せないな」


 その声は、少しだけ低く感じた。さっきの口調からは考えられない伊月の声——多分、彼は怒っているのだろう。
 睦月をちょっと読んでサイコメトリーをしてくれと頼んだところ、彼は確実に怒っていた。しかもとても。火山が噴火するのではないかと思うぐらいに。

「銀! 大丈夫、その洋服は絶対に俺が取り戻す!」

「え、伊月……どしてこんなところにいるんですか……?」

 漆黒の瞳から透明な涙をぽろぽろと落とす彼女に、伊月は力強く言う。
 それから悠紀に「ちょっとノートパソコン貸してもらえる?」と頼んで拝借すると、何やらガタガタとすごい勢いでキーをタイピングし始めた。
 画面に広がるは、無数の英語と数字と黒いディスプレイ。まさか、ハッキング?

「ショッピングモールの監視カメラをハッキングして、いつに盗まれたのか割り出す。そしてその割り出した人物を特定する——めるちゃん、頼んだよ」

「……任せて」

 めるはコクと頷くと、伊月の隣に腰かけた。
 伊月がめるにディスプレイを見せた時には、ぼやけた映像が映し出されていた。人がたくさんいるが、銀は分かりやすい。銀色の髪をしている少女が画面左端に映っている。ややしゃがみ込んでいるのは突き飛ばされたか。
 徐々に伊月が解像度を上げていき、盗んだ男を割り当てる。その映像をめるは凝視して、「ん」と声を上げた。

「覚えた?」

「ばっちり」

「その顔をなるべく似せて紙に書いて。絵が完成したら——まぁ、その、誰かしらにその人物を読み取ってもらって。俺らは動きやすいように町を散策してくる」

「おい! テメェらは、一体何をする気だ? 相手は能力が効かないんだぞ!」

 翔の声が伊月の背中にぶつけられる。
 伊月は振り返ってにっこりと笑うと、

「何を言っているんですか」

 自信満々に答えた。

「能力が効かないなら——能力を使わなければいいじゃない」