コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.490 )
- 日時: 2013/05/13 22:33
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)
その日は、残暑が残っていて蒸し暑かったのを覚えている。
俺はいつものように、深夜に仕事へ出かけた。銀にはきちんと報告してあるし、副寮長である昴にも仕事である事を伝えた。
そして、通常通りに仕事を終えた俺は、黒影寮に帰ろうとした。
「翔」
俺の名前を短く呼ぶ人物。
ふと振り返れば、そこには俺と少し容姿が似た人物が立っていた。
兄の大地だ。普段は中国にいるのだが、今回は珍しく日本——しかも俺の目の前にいる。何の用だろうか?
「お前さ、銀ちゃんの事が好きなんだって?」
「……テメェにその事を話したか?」
この事は、誰にもばれていないはずだが。
すると、大地はため息をついて、
「銀ちゃんが泣く事になるんだとしても、お前は彼女を好きでいられるか?」
俺の思考が、凍りかけた。
……俺とした事が、すっかり忘れていた。
奴は人間。俺は死神。どちらが長生きか、火を見るよりも明らかだ。もちろん、銀を死神にする方法はある。しかし、それは銀を悲しませる事に直結する。
地獄業火を操る死神だからこそ分かる、同族を殺した時の悲しみを。どんなに痛めつけても、傷ついても、致死性のある怪我をしても、死神は死なない。永遠の命を以てして、歩み続けるのだ。
彼女は、それを望んでいるか?
答えは否。望んでいない。この苦労を知らずに生き、知らずに死ぬのが彼女にとっての幸せだろう。
俺が人間を好きになったところで、相手を悲しませるだけじゃないか。
「…………その事をよく考えて。仕事頑張れよ、炎の死神さん」
嫌味のような台詞を残して、大地は去って行った。
俺は、その場で立ち尽くすしかできなかった。
第18章 今日、私は告白をします
英学園体育祭。
一般公開する為、休日の土曜日に開催されるみたいです。高校では珍しいですね。という訳で、私も黒影寮の管理人代理として応援しに行こうかと思います。
お兄ちゃんも叩き起こしていざ出発です!
「いやぁ、でも英学園の体育祭って寮対抗だっけ? 懐かしいな、僕もやっていたんだよね」
お兄ちゃんは受付でもらったパンフレットを眺めながら、ケタケタと面白そうに笑っていた。
実際、英学園は進学校ですし、どんな事をするのか見ものです。それに、男子校ですからきっとすごいものが見られるでしょう。
「……で、羅さん? いつまで機嫌が悪いんですか。嘘をついた事は謝りますから、機嫌を直してくださいよぉ」
私の隣ですねる赤い髪の女の子——羅さん。「土曜日空いていますか?」と訊いたところ、即答でOKを出してくれたからいいと思ったんですけど。
で、行った先が大嫌いなイケメンの園である英学園ですもんね、申し訳ないです。
「……銀ちゃんが行くところあたしありだけど! これは……さすがに……堪えるよ?」
早くも涙目です、泣きそうです。
仕方ないですね……と私はつぶやき、首元に下げてある鏡に向かって問いかけました。
「鈴、いますか? 少し羅さんの話し相手になってくれます?」
『んー? 別に構わないけど、大丈夫なの? 羅』
「イケメン嫌いですから、きっと気分が悪くなったのでしょう」
『そっか。そりゃ災難だったな、銀が悪いなぁ』
鈴は快く引き受けてくれました、ありがとうございます。
さて、ここでアナウンスが流れまして、生徒が入場してきます。ワァァァ! と歓声が上がりました。
焔さんのいらっしゃる安心院寮もありますね。様々な寮の名前が読み上げられていきます。最後には特別クラスの黒影寮の名前が呼ばれました。
その時だけ、観客の皆さんの温度はヒートアップです。黄色い声援が飛び交います。まぁ、イケメンさんですしね。
ところが、黒影寮の皆さんはどこか浮かない顔をしています。どうしてでしょうか?
「能力制限されているから、きっと体が重いんじゃないかな。特に闇の踊り子でマッハで走っちゃう昴君や忍者の空華君なんかは速さ制限されていると思うよ」
『見たところ、かなりの呪いをかけられているね。羅や白亜、そして銀は能力発動時には意識しないと力は使えないけど、黒影寮の場合は別だしな』
お兄ちゃんと鈴は冷静に判断します。
確かに、私は意識しないと銀の鈴を使えませんし、神様達を呼ぶ事もできません。無意識なんて無理です。羅さんも物体を粒子レベルまで分解するとなると、意識しないといけないらしいです。
みなさん、大変なんですねぇと心の中で思いました。
開会式が進み、選手宣誓は黒影寮で1番のスポーツマンである昴さんが行いました。
「宣誓! 我々、英学園生徒一同は、スポーツマンシップに則り、正々堂々競技に立ち向かう事を誓います! 生徒代表、黒影寮より椎名昴!」
朗々とした声が、広いグラウンドを抜けていきました。
さすが昴さんです。呪いをかけられてもそんなに声が出せるんですね。
さて、少しの競技の準備が入っている間に、私はこそこそと黒影寮の待機場所へ近づきました。管理人権限です。
「みなさん、今日は頑張ってくださいね!」
「お、銀ちゃん! 応援しに来てくれたんだ!」
蒼空さんはきらきらと瞳を輝かせて言います。
ついでに、何の呪いをかけられているか問いかけたところ、呪いに詳しい空華さんが答えてくれました。
「人間並みの運動神経ってところかな。そりゃ昴は人間だけど、マッハで走れるし……その運動神経で100メートルいくつだっけ?」
「10秒……切ったかな?」
昴さんは首を傾げて最後に「?」をつけて答えました。訊かれても困ります。
ですが、みなさんそれなりに運動神経はいいので、期待をする事にしましょう!
「でも、1番酷い呪いは翔ちゃんだよね。翔ちゃん、何個呪いをかけられた? 俺は運動神経が人並みに落ちる呪いと重力制限だけど」
「重力制限、体力落ちる、鎌を封印、死神の目を封印された。この中で1番かけられていると思うぞ……」
「俺様でも重力制限と体力落ちると能力全面封印の3つだけなのに……」
この時ばかりは、私も唖然としました。
その、体育祭って大変なんですね……。