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Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.503 )
日時: 2013/08/05 22:17
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)

第18章 今日、私は告白をします


 〜視点なし〜


「いや、だからさぁ。この作戦の方がいいんだってばー!!」

「その作戦だと怜悟1人で守らせる事になるだろう。あと2人ぐらいは守備にほしい」

「……それでも平気」

 1度お昼休憩を挟んでから午後の部という事になる。どこの体育祭もそうだ。
 そして銀と白刃は1度黒影寮に戻って昼食を摂ってから、再び英学園に戻るそうだ。その間、黒影寮のみんなは作戦会議をしている。
 何の作戦会議か? 答えは決まっている。棒倒しだ。

「怜悟はある程度怪力が残されているからいいけど、こっちは10人ちょっとぐらいしか人数がいないんだからね? ノアも音弥も術が使えないんだから」

「まーな」

 おにぎりを頬張りながら、オッドアイの少年——音弥が頷いた。
 彼は『リヴァイアサン』で幻術師だった。痛みを現実にする幻術などを用いて、野球大会では活躍した。どこかの話か忘れたけど。
 ノアもフルートを使った演奏者だ。相手を操る事に関すれば右に出る者はいない。精神が弱り切っていれば、黒影寮で最強を誇る東翔でさえも操る事ができた。
 そしてなおかつ、狙撃者の夢折梨央もいる。先天的な能力ではなく、後天的な能力者だった梨央は的当てが得意だ。ある程度の距離なら正確に狙えるとの事。

「でも、小道具を使うのは禁止だからな……。去年、危うく空華が石を投げつけて全滅させちゃったから禁止になったんだ」

「あれは仕方ないだろ。選手の野郎が旗を上に持って行っちゃうから、仕方なく狙撃で撃ち落とした」

 忍者である以前に狙撃者の能力も持つ空華である。石で相手の旗を叩き落とすなどお茶の子さいさいだ。
 しかし、そのせいで小道具を使うのは禁止になったのだが。

「翔ちゃんと空華なら、体術を心得ているから大丈夫だと思うんだ。俺も一応テコンドーやってるつもりだし……他はどうなの? 体術の心得はある?」

「いや、ないねー」

 昴の質問に答えたのは梨央だった。
 コップに注いだ麦茶を飲み干した彼は、理由を語る。

「僕は狙撃者の能力を買われて、未来でも神威涙様の護衛をしていたんだー。ほぼ狙撃以外の仕事は回ってこなかったなー」

「使えない」

 吐き捨てるように翔が言う。彼には黒影寮で1番多い4つの呪いがかけられている。余計な体力は裂きたくない。

「『リヴァイアサン』だからもう少し使えるかと思ったけど、案外そうでもなかったな!」

「いや、蒼空。お前は素直に言っちゃダメだから。何言ってんのお前」

 スパンッ! と空華が蒼空にツッコミを入れた。いい音が蒼空の頭から鳴った。ちなみに蒼空がかけられている呪いは、能力全面封印のみである。先天的な能力ではあるが、他は普通の人間ぐらいなのだ。
 え? リデル? あいつは銀と一緒にいますよ。あいつが蒼空に加担した時点で終わります。失格です。
 そういう訳で、ハンデをかなり背負っている上で10人ちょいで戦うとなると、綿密な作戦が必要となってくるのだ。全ては、銀に勝利を捧げる為に。

「守備の筆頭として怜悟は置く。テメェは確か、怪力の能力はこれと言って制限されていなかったな?」

「……ある程度は」

 試しに近くに転がっていた机でお手玉して見ろと言ったら、3個の机を使ってお手玉を披露した。本調子だとジャグリングになる。
 これだと1人で棒を支えていても大丈夫だろう。問題はあとの守備だ。

「睦月と蒼空。テメェらが守備だ。攻撃筆頭は昴と空華になる」

「了解……だけど、何で蒼空が? 普通攻撃の方じゃないの?」

 空華が素朴な疑問をぶつける。
 蒼空はどちらかと言えば、攻撃の方が性に合っていると思う。空手が得意で、なおかつ運動神経も悪くない。守備にも攻撃にも転じる事ができる万能選手だと推測する。
 しかし、翔は「いいや、蒼空は守備に行かせる」と告げた。

「こいつには守備の方で暴れてもらうから問題ない」

「……なるほどな」

 サーチアンドデストロイという訳ですね、寮長さんと空華は口の中でつぶやいた。その台詞は、お茶と共に喉の奥へ流し込んだ。

***** ***** *****

 さて、昼休憩も終わり、午後の部に突入する。
 午後の部の最初は、棒倒しから始まる。なんと、先ほどの作戦が生かされる時が来たのだ。
 観客席を見れば、銀が両手に拳を握ってこちらを心配そうな目で見ている。大丈夫だ。彼女を笑顔にさせる為の作戦なのだから。
 円陣を組み、寮長である翔が代表して声を上げた。

「テメェら! 作戦は頭に叩き込んだな!」

「「「「「おう!!」」」」」

「行けるよな?」

「「「「「おう!!!」」」」」

「行けるよなぁ!!」

「「「「「おう!!!!」」」」」

「絶対に優勝を捧げるぞ! 己のプライドを、目の前の戦に捧げよ!!」

「「「「「ハッ!!!」」」」」

 きれいな敬礼をしてみせた黒影寮。何だろう、という冷ややかな目で見られている事を、彼らは知らない。
 棒倒しの棒がそれぞれ立てられ、上にくくりつけられているのは寮によって違う旗だ。それを取られると負けになるという非常に簡単なシステムである。
 その旗を、いち早く多く取った方が勝ちだ。

『これより、午後の部のプログラム——棒倒しを始めます』

 開戦の狼煙は上げられた。