コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.506 )
- 日時: 2013/08/19 22:50
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)
第18章 今日、私は告白をします
〜視点なし〜
開戦の狼煙は上がった。
武士どもは、一斉に相手の旗を狙って校庭を駆けだす。
ここで、他の寮の名前を明記しておこうと思う。今更だが、ぜひとも耳を傾けてほしい。
まず1つ目はみんなお馴染み、炎(ホムラ)が率いる安心院(アジム)寮。旗の色は赤。
2つ目は青函(セイカン)寮。旗の色は青。
3つ目は黄星(キボシ)寮。旗の色は黄色。
4つ目は緑生(リョクセイ)寮。旗の色は緑。
5つ目は紫涙(シルイ)寮。旗の色は紫。
6つ目は白空(ハックウ)寮。旗の色は白。
そしてご存じ、7つ目は黒影寮。旗の色は黒。そして人数は10数名。他の生徒よりもはるかに少ない。どうしたものか。
この為に、黒影寮は綿密な作戦を練ったのだ。その成果が、早くも発揮された。
自陣に襲いくる生徒の波を、2名の生徒が退ける。言わずもがな、睦月と蒼空だ。特に攻守万能型である蒼空は、生徒の屍を積み上げてはケタケタと楽しそうに笑っていた。
「わははははははは!! サーチアンドデース!!」
「おーい、蒼空が壊れたでー。誰かー」
旗をくくりつけた棒は、怜悟1人で支えている。守備の生徒が棒を守る事が多いのだが、怜悟は怪力だ。守備の生徒は本格的に守備に回れる事ができる。
そして、どんな方法であれ旗を多く奪った寮がこの戦を制する事ができるのだ。ちなみに、石を投擲するのはルール違反、体術ならいくらでも使ってもよしという事になっている。
持ち前の運動神経を生かして他人(主に翔とか昴とか空華とか強力な能力者)よりも動ける蒼空は、生徒を次から次へと葬るのだった。
その時、パァン! という乾いた銃声が響いた。どこかの寮の旗が取られたのだ。
高々と掲げられた棒の先に張りついていたのは、
「ふぅ……まったく、僕に無茶をさせないでよ……」
運動音痴な悠紀が、青い旗を手に握っていた。青函寮が潰されたようである。
青い鉢巻を身につけた生徒は、しぶしぶと応援席の方へ戻っていった。青函寮、お疲れ様です。
たった今入ってきた情報によると、悠紀は能力が使えなければ影が薄い少年のようである。体重も普通の男子高校生に比べて軽く、なよなよしている為、気づかれなかったとか。青函寮はガチムチ筋肉系が多い。
さて、そうこうしている間にも戦は続く。
白空寮が緑生寮の旗を取り、黄星寮が黒影寮を狙って返り討ちにあったりなど、様々な事が起きた。デッドヒート状態である。
「……おい、寮長」
喧騒の中で、翔は呼び声に反応して振り返る。
視線の先に立っていたのは、空華だった。その手には気絶した黄星寮の生徒が握られている。空華はおもむろに彼を落とすと、翔へ視線を投げた。
「何だ。戦いに戻れ」
翔は投げやりに答える。今は棒倒しに——目の前の戦に集中せねば。
しかし、空華から飛び出た台詞は、翔を焦らせる。
「戦況報告。制限時間残り3分。残っている寮は安心院寮のみ——相手の生徒は200人強いるけど、どうする?」
「————————」
翔は絶句する。
安心院寮はどこかの寮に倒される事をひそかに願っていたが、空華はその願いを読んでいたか、最悪の相手の情報を与えてくれた。
胸中で悪態をつく。おそらく、相手の炎も能力制限をかけられていると思うが、炎も運動神経がいい。おそらく黒影寮に入れるのではないかと思うぐらい。それに安心院寮は不良が多いと聞く。体術では負けないにしろ、200人が一気にこっちにきてしまったら終わりだ。
やっぱり能力に制限がかかってると面倒くせえ、という言葉を飲み込んで、代わりにため息をついた。
「報告ご苦労。仲間を集めろ、音弥と梨央を守備に行かせる。睦月と蒼空と交代だ。それからつかさも守備の方へ回して——」
「忠誠」
空華が翔の台詞を遮った。
翔は片眉を上げる。こいつ、今なんて言った?
「忠誠、誓ってやろうか?」
「……ふざけてんのか? この場で冗談を言うぐらいに暇なら、テメェも守備の方へ」
「悪いけど、冗談でもなんでもない。反吐が出るほどに嫌だけど、今この時の為なら誓ってやってもいいけど。俺様、誰かの為に戦うのなら強くなれる」
「……だったら銀に誓え。あいつに、勝利を捧げるのだから」
「そうしてもいいけど、黒影寮の為に戦った方が勝てるんじゃないかって思ったから自分を売り込んだんだけど。どうする? 買う? 買わない?」
翡翠色の瞳が、じっと翔を見下ろす。
何を言っているのか最初は理解できなかったが、聡い翔は空華の言葉をきちんと咀嚼して呑み込む。
この場で銀の為に戦ったとしても、銀に勝利を捧げる事はできないかもしれない。
ならば、黒影寮の為に全力を出して戦い、銀に勝利を捧げた方が効果的である。
空華の実力は理解している。何かの為に、誰かの為に戦う時に、空華は1番力を発揮するのだ。そんな彼が、自分に——微妙に嫌われている翔に自分を売り込むとは大変珍しい。
翔はにやりと笑った。
だったら、利用してもらおうじゃないか。
「……じゃあ、命令だ。今この時だけ、俺に忠誠を誓い——黒影寮を勝利へ導け」
空華は片膝をついて、答えを返した。
「仰せのままに、我が主」
最終決戦の開幕は、ピストルの音と共に訪れた。